第47話 この世にゼッタイなどない
『あと、どのくらい充電残ってるの?』
そう送ったけれど、既読にはならない。
もう電源を切ったのだろう。
なんで忘れてたんだよ、充電のこと。
もう関西電力の章あたりで、充電にまったく触れてもいなかった。マズった。
どうすればいい。俺が死ねばキララのいる異世界に行けるのか?
それなら充電器なんてもう要らない。
こんな異世界遠距離恋愛なんて、もう、まっぴらだ。
あ、また、まっぴらなんて言葉を使ってしまった。
なんだよ、まっぴらって。
きんぴら、みたいだ。
でも、と思う。
やっぱりキララが本当に異世界に行ってるのか、疑ってる自分もいる。
きんたままたんきさんが言ったみたいに、俺のストーカーがいて、そいつがキララになりすましてることだってあるかもしれない。
普通に、きんたままたんきさんとか言ってしまった。回文ならなんでもいいわけじゃないぞ。下品だな。なんだよ今更、下品って。
下品を貫いてきてるんだぞ、今まで。
真中名香那眞(まなかなかなま)さんだよ。
俺は自分が何をしていたのか忘れていた。
真中名さんのビーフシチューを食べていたのだ。
でも食べかけだったビーフシチューも、シャケの切り身のタッパーもなくなっていた。エルメスの紙袋も。
知らないうちに全部片付けて行ったのだ。
真中名さんが。
それはありがたいような、少し寂しいような複雑な気持ちに俺をさせた。
まあタッパーを置いていかれたら、また会って返さないといけないし。うちにもタッパーが山のようにあるし。
俺はタッパーを要らないからって、たこ焼きを乗せるプラスチックの四角い皿みたいに、捨てることができる奴が信じられない。
あのたこ焼きの下のプラスチックの皿を洗って、また刺身の盛り合わせを乗せて再使用するイカれた奴はいない。
あれは捨てる、一択だ。
でもタッパーは洗って使う。どんなに流しの下に、下に、下に、下にー、下にっ。って大名行列かよ。貯まっていたとしても、
ゼッタイニツカウノダ。
なぜカタカナで言う? AIか? アルシンドニナッチャウヨ、か?
だから充電のことだよ。忘れんなよ、しつけえな。
でも、もし、ストーカーがなりすましてるとしたら、充電なんていくらでも出来るから、切れるなんて言わないだろう。
いや、言う。これは、
男女の駆け引きだ。
ダンジョンの綱引き、ではない。
なんでダンジョンで綱引きをする?
もう充電が切れると言ったら、俺が焦ってキララのなりすましに、愛の言葉を投げかけるかもしれない。
それを待っているのだ。
男子は追いかけられたら逃げ、逃げれば追いかける。
そして好きになった方が恋愛は負けなのだ。
なあキララ。
俺はキララが大好きだよ。
幼い頃、鼻の両穴にチョコポッキーを入れて、ふんって、飛ばすキミも。
自分が漏らしたうんこを俺の口にねじ込んだキミも。
なんでもないようなことが幸せだったと思う。
うんこを口にねじ込まれたのが、なんでもないようなこととは思えないが。
もう考えるのがめんどくなった。
もうメシも食ったし、風呂入って寝よう。
そして今日は握らずに寝よう。
ゼッタイに握らずに寝よう。
でもこの世にゼッタイなどないのだ。
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