第14話 告白

 それから毎日、四葉よつば三月みづきにまとわりつき、三月は逃げ回った。

 負けじと追いかける四葉を「推しカップルを守る会」の女子たちが邪魔をする。


「三月さま、校内を案内していただけますか?」

「わたしたちが案内してあげるよ」

「いえ、わたしは三月さまに――」

 いいからいいからと女子たちに連行される四葉。


「三月さま、勉強を教えていただきたいのですが」

「副委員長の田中千尋です。どこがわからないの? わたしが教えてあげる」

「わたしは三月さまに――」

「三月にわかるわけないでしょ」


「三月さまぁ、長袖のジャージを貸していただけますか? 少し寒くて……」

「あたしの貸してあげるよ」

 体格のいいバレー部の真紀まきが、四葉にズボッとLサイズのジャージをかぶせた。

「……ありがとうございます」


(なんなのよ。事あるごとに邪魔してきて!)

 四葉は次の作戦を考えた。


「三月さま、一緒にお弁当食べませんか? 三月さまの分も作ってきたんですよ」

「俺、弁当あるからいいよ」


 三月の机の上に広げられた弁当を見て、

「こんな質素なお弁当より、絶対こっちの方が美味しいですよ」

 無理やり押し付けようとする四葉に三月が抵抗する。

「いや、俺は莉子が作った方が――」


 ガッターン! 

 教室に大きな音が響いた。

 莉子が立ち上がった拍子に椅子が倒れたのだ。


 涙目の莉子が、「三月のバカ!」と叫んで、教室を飛び出した。 

「えっ? ちょっと待って。莉子!」

 三月が慌てて追いかける。

 その後を追おうとする四葉を、女子たちがぐるりと取り囲んだ。


「な、なんですの? あなたたち」

「ちょっと、お話しようか?」


 笑顔すら浮かべた女子たちの迫力に、さすがの四葉もびくりと身体を震わせた。


 莉子は廊下を走り抜け、階段を駆け上がった。莉子の足も結構速いが、屋上手前の踊り場で三月に捕まった。


「莉子!」

「やだ! 離してよ!」

「ちょっと、話を聞いて」

「いやっ!」

「莉子!」

 必死に抵抗する莉子を三月が抱きしめた。

「お願いだから」

「うー……」


 静かになった莉子を抱きしめたまま、三月が言う。


「嫌な思いさせてごめん。でも、四葉ちゃんは遠い親戚の子で――」

「名前で呼ばないで」

 三月の胸に顔をうずめたまま、莉子が言った。

「え?」

「あの子のこと、名前で呼ばないで!」

「わ、わかった。呼ばない」

「三月さまとか言わせないで」

「うん」

「それに、手作りのお弁当なんて食べないで」

「食べないよ。莉子が作ってくれた弁当がいい……あとは?」


 今までに聞いたことがないほど優しい声に、莉子の力が抜けた。


「三月は、あの子のこと好きなの?」

「好きじゃないよ」

「ほんと?」

 不安そうな声に、三月は勇気を振り絞った。

「俺が好きなのは莉子だから」


 莉子の顔が真っ赤になった。

(ああ、心臓が破裂しそう。三月の心臓もすごい音がしてる) 


「……き、聞こえなかったから、もう一度言って」

「ええっ……俺が好きなのは莉子だから。ああ、恥ずかしい。今度は聞こえた?」

「うん。聞こえた」

「よかったぁ」


 莉子が顔を上げ、キラキラとした目で三月を見た。

「わたしも、ずうっと前から三月が好き!」

「ほんとに?」

 抱きしめていた手に力が入った。

「苦しいよ、三月」

「あ、ごめん」

 

 慌てて身体を離すと、

「べつに離さなくてもいいのに」

 莉子がぷくっと頬を膨らませた。

(可愛い)

 思わずキスしたくなるのを我慢した。

(さすがに告白してすぐはダメだよな)


「みんな心配してると思うから、戻ろうか」

「うん」

 莉子は三月の差し出した手を握った。


「わたしたち、彼氏と彼女になったんだよね?」

 率直な質問に三月が顔を赤くして答える。

「うん、そうだよ」

 

 ふたりが教室に戻ると、心配したクラスメイトたちが駆け寄ってきた。

 手を繋いだままのふたりを見て、睦美の目が輝く。


「あんたたちひょっとして――」

「俺たち、付き合うことになったから」

 三月が宣言し、莉子もこくりとうなずいた。

「キャア! おめでとう!」

 睦美が莉子に抱きつく。他の女子たちもキャアキャアと喜んでいる。


「まじか」「やっとか」「良かった~」

 男子たちもホッとした表情を浮かべた。


 みんなが盛り上がるなか、青い顔をした四葉が呟く。

「嘘でしょ……」

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