第16話 ペナルティ

 四葉よつばは皆と和解した。被っていた大きな猫を脱いだ四葉は、意外とサバサバして付き合いやすいと評判がいい。三月みづきにも迷惑をかけたときちんと謝った。


「しつこくしてごめんなさい。莉子りこにも言ったけど、ほんっっっと好みじゃないから安心して!」

「あ、うん」

(そんなに強調しなくても)

 三月が複雑な表情を浮かべると、それを見た睦美むつみ揶揄からかった。

「ほんとはちょっと残念なんじゃないのぉ」

「ちがっ――」

「え、さっそく浮気?」

 莉子に言われて、三月は躍起やっきになって否定した。

「絶対しないから!」 

「ほんと?」

「うん。信じて」


 見つめ合うふたりを見て四葉がドン引く。


「うわ、なにこのカップル!」

「付き合う前からこんな感じだから、すぐに慣れるよ」


 睦美の言葉に、皆がそうそうとうなずいた。


 *


 保健室で話をしてから数日後。

 莉子は四葉に気になっていたことを訊いた。


「お父さんとちゃんと話した?」


「うん、話したよ。直系の誰かと結婚しようと頑張ってたこととか、そのために転校までしたけど、結局振られちゃったこととかね。『お父さんの夢、叶えてあげられなくてごめんね』って言ったら、『俺が変なこと言ったせいで、辛い思いさせてごめんなあ』って、泣きながら何度も謝ってた」


「そっか。良かったね」


「フフ。お母さんからも『いい加減、ないものねだりはやめて現実と向き合いなさい』って怒られてたよ。それからは、ちょっとお父さん変わった気がする」


 四葉は照れ臭そうに礼を言った。 

「その、色々とありがとね」


「どういたしまして」

 

「それにしても、あんなひどいペナルティがあるのに莉子を選ぶなんて、三月くん、本当に莉子のことが好きなんだね」


「ペナルティって?」


「え……」

 四葉がしまったという顔をした。


「なんでもない! ごめん、変なこと言っちゃった。ほんと、なんでもないから気にしないで。あ、わたしちょっとトイレに」


「ちょっと、四葉!?」


 莉子はペナルティという言葉が気になり、逃げる四葉に一日中つきまとった。


「もう、しつこいなあ」

「だって気になるじゃない。これだけ教えて! 人間と付き合うと何かペナルティがあるの?」


「違うよ。付き合うだけなら何も問題ないから、ほんと気にしないで。三月くんにも黙っててね。余計なこと言うなって怒られそうだから」

 四葉はあたふたと帰っていった。


 付き合うだけなら問題ないってことは、結婚するならペナルティがあるってこと?


「だから人間と結婚する烏天狗って少ないのかな。今度、鏡夜おじさんに聞いてみよう」


 このときの莉子は、そんな風に軽く考えていた。

 

 ◇


 じめじめとした梅雨が終わり、もうすぐ夏休みになる。

 莉子たち二年生にとっては、オープンキャンパスに行ったり、予備校の夏期講習を受けたりと、受験に向けて忙しくなる時期だ。


 睦美は、どこでもいいから大学に行き、キャンパスライフを満喫したいという。

 千尋ちひろは将来起業したいので、経済学部のある大学をいくつか受験する予定だ。

 れんは、できれば千尋と同じ大学に行きたいらしいが、よほど頑張らないと難しいだろう。

 そして莉子は、栄養士の資格を取りたいと考え始めていた。

 



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