第32話 卒業
卒業を前に
「うぅ、どうにか間に合った」
ボロボロになった三月が、玄関に入るなり倒れ込む。
「ちょっと大丈夫? 今回はまた酷いわねえ」
「痛いよ、静香さん」
「ずいぶんきつい修行をしたようだが、成果はあったのか?」
「ああ、ちゃんと手に入れたよ」
* * *
卒業式当日、教室に現れた三月を見て、
「はあ~、心配させんなよ。間に合わないかと思った」
「悪い。思ったより時間かかっちゃって」
「お帰り、三月」
「ただいま、莉子。ごめんね、心配した?」
「したけど、絶対来るって信じてたから」
「莉子……」
最後までこの調子かよと、クラスメイトたちが苦笑する。
いよいよ、このカップルともお別れかと思うと、皆の胸に切ないものがこみ上げてきた。
「みんな、まだ泣いちゃ駄目よ。卒業式はこれからなんだから」
「そうだよ! 最後はビシッと決めようぜ」
卒業式は順調に進み、皆で「旅立ちの歌」を歌い始めると、あちこちからすすり泣く声が聞こえた。
(みんなと過ごすのもこれで最後なんだなあ)
莉子の目からも、自然と涙が溢れた。
でも、またいつでも会えるよね。みんなこの町が大好きだから。
最後に写真を撮りあい、また会おうねと約束して別れた。
三月と莉子は、いつもの帰り道を手をつないで歩く。子どもの頃よく遊んだ公園の前を通りかかったとき、「ちょっと寄ってかないか?」と三月が誘った。
「懐かしいね」
子どもの姿もないので、ふたりでブランコに乗った。
「初めて翼を見せてもらったのも、ここだったね」
「そうだな。あのときは恥ずかしかったなあ」
「そうなの?」
「そりゃあ、女の子にあんなにベタベタと触られたの初めてだったし」
「ベタベタ……確かに。夢中になってたから気がつかなかった」
「あはは。でも、たくさん褒めてくれた。きれいね、さわると気持ちいいねって。だから俺、頑張れたんだ。食事もいっぱい食べられるようになったし……今までありがとな、莉子」
「やだなあ。そんな改まって」
三月はブランコから降りると、莉子の前にしゃがみ、制服の胸元から八センチくらいの小さな竹の筒を取り出した。
なんだろうと莉子がじっと見ると、筒の中からひょこっと灰色の何かが顔を出した。
「うわ! なにこれ」
「
「あ、ほんとだ」
管狐を撫でようとした手には、何の感触もなかった。
「名前からして、筒に入るくらい小さな狐ってこと?」
「たぶん、名前の由来はそうだと思う。
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