第29話 デート

 新しくできたショッピングモールは、広々として綺麗だった。おしゃれな洋服や雑貨を見てまわり、疲れたらソフトクリームを食べたり、ジュースを飲んだりしながら休憩する。


「これぞデートって感じだね!」

「そうだな」

「楽しいね」

「うん、すごく楽しい」

 

 ウフフ、アハハとはしゃぐふたりは、はたから見ても微笑ましいカップルだ。

 建物の外には、高さ二十メートルの巨大ロボットが展示されていて、大勢のひとが写真を撮っていた。

「わたしたちも撮ってもらおうよ。すみませーん、お願いしてもいいですか?」

 

 莉子がカップルにスマホを預け、シャッターを押してもらう。ロボットが大きすぎて全体を写すのも大変だ。

 ありがとうございますと礼を言い、お返しに莉子もふたりの写真を撮った。


「ほら、よく撮れてるよ」

 莉子がスマホの画面を見せる。

「ほんとだ」

「このロボット、三月好きだったよね」

「うん」


 町に住むようになって一番の衝撃はテレビだった。

 動く画面を前に固まる三月を見て、一路と瑛二が大笑いしていた。自分たちも同じだったからだ。

「なにこれ!?」

「うひゃひゃ、おまえの好きそうなアニメもやってるぞ」


 瑛二がチャンネルを変えて見せてくれたのが、このロボットが出てくるアニメだった。初めて見た映像に三月は夢中になった。


「懐かしいな」

「上の階にショップがあるみたいだから、行ってみる?」

「うん、行きたい」


 ショップの外には大人の身長くらいのロボットが何体か飾られていた。入ってすぐのところに巨大なスクリーンがあり、宇宙船がゆっくりと動いている映像が映し出されていた。

 限定品のプラモデルを三月が興味深そうに見ている。莉子は、お揃いのキーホルダーを買い、三月に渡した。


「はい、初デートの記念」

「ありがとう。じゃあ、俺もちょっと付き合って」


 三月に手を引かれて行ったのは、アクセサリーショップだった。

「え、ここ?」

「うん。莉子にプレゼントしたくて調べたら、ここが若い女の子に人気があるって書いてあったから」


 確かに、手頃な価格で、花やリボンをあしらったペンダントなどが人気のお店だ。


(まさか無頓着な三月がこんな気遣いをしてくれるなんて)


 莉子は感激した。

 まるで我が子の成長を見ているような気分になる。


「気に入らない?」

 不安そうな三月に、莉子は慌てて言った。

「そんなことない。すごく可愛いお店だからびっくりしたの」

 えへへと嬉しそうに笑う三月。

「好きなの選んで」

「うん!」


 どうしようかな。素敵なペンダントがいっぱいある。ピアスはまだ開けてないし……。

 迷う莉子の目が、キラキラと光る指輪に吸い寄せられた。ふらふらと指輪コーナーに行く莉子の後ろを三月がついていく。


 じっと指輪を見ている莉子の後ろから、

「これなんか、莉子に似合いそう」

 と三月が指差したのは、花の形をしたピンクの石がついているシルバーの指輪だった。

「可愛い……うん。これにする」

「いいの? もっとよく見てから決めたら?」

「ううん。三月が選んでくれたのがいい。サイズがあるか確認してくるね」


 定員に相談したところ、ちょうどいいサイズの指輪があった。


「ありがとう、三月」

(指に嵌めて欲しかったけど、恥ずかしくて言えない……)

「どういたしまして」

(婚約指輪っていつ買えばいいのかな)

 

 心の中の葛藤は押し隠し、ふたりはフードコートに向かった。

 さんざん迷った末に、三月はステーキセット、莉子はハンバーグセットにした。

「フードコートって、色んな店から選べていいよな」

 お肉が好きな三月はニコニコしている。

「そうだね。家族揃ってのんびり食べられるしね」


 ゆっくりと食事をして外に出ると、もう日が暮れていた。

「莉子、電車じゃなくてもいい?」

「へ?」

「寒いと思うからこれ着て」

 三月は自分の上着を脱いで莉子に着せた。

「あ、ありがとう」

(……なんか、三月の匂いとぬくもりに包まれてる感がスゴイんだけど)

 動揺する莉子に気づかず、そのままひと気のない場所に連れて行く。

「どこ行くの?」

「目立たない方がいいだろ」

 そう言って莉子を横抱きにすると、そのままふわりと空へ舞い上がった。


「うわぁあああ」

 莉子が必死にしがみつく。

「もうっ、いきなり飛ばないでよね!」

「ごめん、ごめん」


 ショッピングモールがだんだん小さくなっていく。

 上から見ると、町の明かりや流れていく自動車のライトが、宝石のようにキラキラと輝いて見える。


「綺麗……これがいつも三月が見ている景色なんだね」

「怖くない?」

「恋人の腕の中にいるのに怖いわけないでしょ!」

「そ、そうか」

「あ、照れてる」

「うるさい」


 空には三日月とたくさんの星が輝いている。


「三月と三日月、なんか似てるね」

「ふっ、オヤジか」

「ひどーい」


 莉子がポカポカと三月の胸を叩く。

 ふたりの楽しそうな笑い声が夜空に響いた。




―――――――――――――――――


イチャイチャタイムはいったん終了します。

お付き合いいただき、ありがとうございました。


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