第34話 女子会

 莉子りこの通う専門学校では、栄養士資格取得に向けた勉強はもちろん、数多くの調理実習をカリキュラムに組み込み、“調理ができる栄養士”を育成している。


 一年目は、製菓製パンの実習や、調理学、食品学総論、食育概論など、栄養士としての基礎を身につけ、二年目は給食管理実習や栄養教育実習など、専門的な実習や、病理学、生化学、食品加工学などを学び、実践的な力を身につけるカリキュラムとなっている。


 週五日の授業のあいだに農業体験などもあり、莉子は忙しい日々を送っていた。

 うまくできないことも多く、覚えることもたくさんある。今日も先生に叱られて莉子は落ち込んでいた。


(疲れたぁ。三月みづきに会いたいなあ)

 そんなことを思いながら家に帰ると、部屋のなかに甘い香りが漂っていた。


「カグヤ! 来てたんだね」


 小さな狐の姿をしたカグヤは、つぶらな瞳で莉子を見て、灰色の尻尾を揺らす。口には淡い紫の花をくわえていた。


「綺麗な花ね。それにとってもいい匂い。ありがとう、カグヤ」

 

 花を受け取ると、カグヤはどういたしましてというように、こくりと首を縦に振る。


「三月は元気にしてる?」

 こくり

「わたしに会いたいって?」

 こくり

「わたしもすっっごく会いたいって伝えてね。それから、わたしも頑張ってるから、三月も頑張ってねって」


 最後にもう一度こくりとうなずき、カグヤは姿を消した。


「行っちゃった……そうだ、調べなきゃ」

 莉子は花が萎れないうちに写真を撮り、花の名前を検索する。


「これかな? まっすぐ伸びた花茎に、白や紫のほっそりとした、ろうと状の花……キボウシっていうんだ。残念、一日で枯れちゃうのかあ」


 いつもはスマホで連絡を取り合っているが、しばらく声が聞けないときもある。そんなとき、三月はカグヤに一輪の花を届けさせる。その花を摘み取るときの彼の気持ちを想像すると、疲れも吹き飛んでいくというものだ。


「よおし、明日からも頑張るぞぉ!」

 

 いつか一緒になる日まで、お互いできる限りのことをやろうとふたりで決めていた。


 ◇


 夏の終わり、久しぶりに睦美むつみ千尋ちひろ四葉よつば、それに莉子を含めた女性四人で集まった。


「みんな、久しぶりぃ」

「元気だった?」

「あれ? なんで四葉もいるの?」

「ちょっと、なんでわたしの扱いだけ雑なのよ!」


 女性四人でわちゃわちゃと近況報告をする。

「蓮は元気?」

 睦美に訊かれて千尋がため息まじりに言う。


「元気すぎて困るくらい。今日だって、俺も行くってうるさいから、女子会だから駄目って置いてきた」

「相変わらず仲良しだねぇ」

「そういう睦美は? 彼氏ができたって聞いたけど」

「うふふ、実はそうなの。テニスのサークルの先輩なんだけど、すっごく優しく教えてくれて、仲良くなったら向こうから告白してくれたの。おまけに見た目もカッコいいんだよぉ」

「そっか、良かったね!」

「へえ~」

 しらけた顔で相づちを打つ四葉に莉子が訊いた。


「四葉はホテルの専門学校どう? やっぱり大変?」

「今のところ基礎だけだから、まあ何とか。でも英会話必須だから、早く喋れるようになりたい。莉子はどう? 三月くんと連絡は取ってるんでしょ?」


 皆に注目されて、莉子が顔を赤らめる。

「うん。修行中は会えないけど、電話とかメールとか、あと花を贈ってくれたり……」

「花ぁ?」

「ロマンチストだなあ」

「蓮に教えてやろっと」

「いや、そんな」

(ちょっとみんなの想像とは違うと思うけど)


 管狐くだぎつねが運んでくるとも言えず、莉子は言葉を濁した。


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