第18話 天狗祭り&阿吽再び

 今年の「天狗祭り」の戦いには、一路の代わりに九州から来た晴彦はるひこが出場する。あとは去年と同じ、瑛二えいじ三月みづき黒斗こくとの三人だ。 


 今回の対戦は、最初に瑛二対黒斗、次に三月対晴彦に決まった。

 晴彦は、名前に負けず明るく、いつも笑顔を絶やさない男だが、なかなかえげつない戦い方をした。


 遠い間合いから一気に踏み込んで、前に構えた利き手からの強打を叩きこむ。ボクシングにも似た軽いフットワークで、技のひとつひとつが最短の距離で飛んでくる。

そんな、経験したことがないような動きに皆は翻弄ほんろうされた。


 結果、今年は晴彦の圧勝だった。


「くそぉ、なんだよ、あの動き」

「おまえ、金的攻撃はずるいぞ」

 瑛二と黒斗が、やいのやいのと文句を言う。


「あれ何の武術?」と三月が訊いた。

「あれはジークンドーっていう、ブルース・リーを創始者としている武術で、ボクシングやフェンシング、合気道、柔術等の様々な武術から、実践として使える箇所を取り入れてるんだ」


「へえー、そんなのがあるんだ。知らなかった」

 三月が素直に感心する。


「山での修行とは別に、町で習ってるんだ。ぼく、武術オタクだから。でも、黒斗の重い打撃はかなり効いたよ。それに、三月の飛び蹴りもくらったし。楽しい戦いだった」


 神社の控え室で四人で喋っていると、ドアがノックされ、宮司ぐうじの娘、穂乃果ほのかが顔を出した。


「お疲れ様です。そろそろ片づけも終わりそうですが、お支度したくは整いましたか?」

「ああ、長居してごめん。今出るからね。ほら、みんな支度して」


 瑛二に促され、皆バタバタと着替え始める。

 

「あの子、誰?」と、妙に興奮した晴彦が訊く。


「宮司の娘の穂乃果ちゃん。俺と同級生だよ」と三月が答えた。


「昨日、巫女舞みこまい踊ってた子だよね?」


「ああ、そうだね」


「晴彦、ああいう感じがタイプなの?」

 瑛二が訊くと、晴彦が大きくうなずいた。


「うん。すっごく可愛い!」


「ちょっと愛想がないけどな」

 黒斗がニヤリと笑う。


「いい子なんだから、からかっちゃ駄目だよ」

 三月が釘をさすと、晴彦の顔が曇った。

「もしかして、三月の彼女とか?」


「違う違う。こいつには莉子りこちゃんていう彼女がいるから」


「瑛二兄ちゃん!」


「いいなあ。ぼく、彼女と別れてこっちに来たから寂しいんだよね」


「修行でそれどころじゃないだろ」


「黒斗って意外とまじめだよね」


 わちゃわちゃと話しながら、四人揃って鏡夜きょうやの家に向かう。今日は全員、屋敷に泊まることになっていた。


「お帰りなさい」

「ただいま」


 玄関で出迎えてくれた鏡夜と静香しずかを、瑛二が晴彦に紹介する。


「鏡夜おじさんと静香おばさん。おじさんは父さんの弟なんだ」

「初めまして、古賀こが晴彦はるひこです。今日はお世話になります」

「礼儀正しいのねえ。疲れたでしょ、上がってちょうだい」


 居間に入ると、なぜか子虎姿の阿吽あうんが座布団に座って待っていた。


「遅かったな、小僧」

「いい戦いだったぞ」

「あーたん、うーたん! 来てたの?」

「こっそり見てたみたいよ。三月のことが心配だったのかしら」

 うふふっと静香が笑う。


「ええっ、なにこの可愛いの!?」

 晴彦が阿吽に飛びついた。


「わあ。何をする、無礼者め」

「こら、離さぬか」

「ちょっと、晴彦。危ないからやめときなよ」

 三月が慌てて止めようとする。

「もうちょっとだけ。ああ、このモフモフとした感触がたまらない」


 頬ずりをする晴彦に怒った阿吽が力を使った。

「「ええい、離せというに!」」

「うわっ!」


 思い切りすっ飛ばされた晴彦が、柱に頭をぶつけて気絶した。


「あーあ、だから言ったのに」

「しょうがない。奥で寝かせとくか」

 鏡夜が晴彦をズルズルと引きずっていく。


「ごめんね。晴彦は可愛いものに目がないみたいで」

 謝る三月に、阿吽がプンプンと怒る。

「失敬なやつだ。さきほど雄々おおしく戦っていた者とは思えぬな」

「まったくだ。われらをなんだと思っておる」

「まあまあ。ほら、みんなお腹空いたでしょ。鏡夜さん、ご馳走作って待ってたのよ」

 

 静香が食事を用意した部屋に案内する。

 大きなローテーブルの上には、ステーキや唐揚げ、生姜焼きなど、肉を使ったスタミナ料理がずらりと並んでいた。

 若者たちの目がギラリと光った。


「「「いただきまーす!」」」

 三人でガツガツとご馳走を平らげていく。


「いい食べっぷりねえ」

 阿吽を含めた大人たちは、天狗祭りの話をつまみに朝まで飲み明かした。 

 


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