第38話 永遠の愛

 夕食は、ダイニングルームで豪華なおせち料理を食べ、休憩してからもう一度温泉に入った。

 莉子りこは湯船に浸かりながら考える。


(今日、やっぱりのかな)


 脚を揃えて前に伸ばす。お湯に透けている肌は真っ白で綺麗に見える。

 

 中学のとき、クラスの男子に「おまえ何フェチ?」と訊かれて、三月みづきが脚だと答えていたのを覚えている。それ以来、脚の手入れは怠っていない。


 でも、緊張するなあ。仕方ないよね、初めてだもん。

 三月、なんだか手馴れてる感じがしたけど、もしかして初めてじゃないのかな。

 いや、三月に限ってそんな。あ、でもちょっとだけ別れてた時期があったから、そのときなら浮気とは言えないか。

 あー、もうっ、うだうだ考えててもしょうがない。女は度胸。頑張れ、わたし!


 莉子は自分の頬をパシッと叩き、勢いよく湯船を出た。


 ◇


 風呂上がりに赤い浴衣を着た莉子が部屋に帰ると、三月は手前のベッドに寝っ転がっていた。

「三月、寝てるの?」


 窓の外は真っ暗で何も見えない。

 莉子は、ペットボトルのお茶を飲み、少しぼんやりしてから、もう片方のベッドに潜り込んだ。ひんやりとしたシーツが湯上りの肌に心地よい。


(どうしよう、ほんとに寝ちゃったのかな)


 ベッドボードにある電気のスイッチをパチパチと消す。

 真っ暗にならないよう、天井の間接照明だけつけたままにした。


 莉子が目を閉じると、「起きてるよ」と声がした。


「わ、びっくりした。それ、さっきの答え? 遅いよ。電気消しちゃったじゃない」

「……ねえ莉子、そっちで一緒に寝てもいい?」

「え……いいけど」


 恥ずかしくて、ついぶっきらぼうな言い方になる。

 三月がベッドから抜け出し、近づいてきた。


 莉子は三月に背を向け、頭の中でぐるぐると考えた。

(どうしよ、どうしよ。ああ、睦美にもっと聞いておけば良かった。いざとなったら何とかなるもんだよ、なんて言ってたけど、ここからどうすんのよぉ)


 ベッドが大きくきしみ、布団がめくられた。

(き、来たぁ)

 緊張でガチガチになった身体を、後ろから抱きしめられた。

「莉子」

 耳元でささやかれ、莉子が消えそう声で言う。

「あの、わたし、初めてなんだけど……」

 それを聞いて三月の頬が緩む。

「うん。俺も初めてだから、すげえ緊張してる」

「三月も?」

「うん」

「そっか……世の中の恋人たちは、いつもこんなにドキドキしてるのかな」

「そのうち慣れるんじゃないかな。ほら、俺たち会うのも久しぶりだから、余計に刺激が強いっていうか」

「確かに……」

「だから、もうちょっとこのままでいようよ。そのうち心臓も落ち着くでしょ」

「そうだね――でも、全然落ち着く気がしないんだけど!」

「わかった。じゃあ、ちょっと待ってね。カグヤ!」


 三月に呼ばれて、カグヤが布団の上にちょこんと現れた。

 ふたりともベッドから身体を起こす。


「わぁ、カグヤだ。ふふ、いつも三月と一緒なんだね」

 カグヤはくわえていた花をポトリと落とした。


「くれるの? ありがとう。これ、山茶花さざんか?」


「うん。ピンクの山茶花の花言葉知ってる?」


「ううん。もしかして、今までくれた花にも意味があった?」


「いや、いつもは目についた綺麗な花とか、良い匂いの花を贈ってるだけ。今日は特別。ピンクの山茶花の花言葉は、永遠の愛。ちょっと気障きざだったかな」

 言ってから、三月は少し照れたように笑う。

「永遠の愛……」


「うん。莉子に、一生変わらない愛を誓います」


「ふふ。なんか、結婚式のセリフみたいね」


「本番はもうちょっと先になるけどな」


 その言葉を胸に刻み、莉子は三月に山茶花を渡した。


「わたしも、一生変わらない愛を誓います」


 ふたりが見つめ合うと、カグヤがスッと姿を消した。


 優しく頬に触れられ、莉子は幸せそうに目を閉じた。

 三月は深いキスをしながら、莉子の身体をゆっくりと横たえ、震える指で帯をほどいた。




――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます。

残念ながらこの先を書くと運営さんからストップがかかりそうなので、

次回は朝チュンで!(古い?)




 

 

 

 

 

 









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