第11話 蓮と千尋

れんも来てたんだな。あれ? なんで千尋ちひろと一緒に?」

「千尋と蓮、付き合い始めたんだって」

 

 莉子りこに教えられて、三月みづきが驚く。


「そうなの? おまえ、教えろよな」


「ごめん。なんか言い出しにくくて。ほら、千尋は副委員長で成績もいいのに、俺はいまいちパッとしないだろ? つり合わないとか思われてもアレかなあって」


「なに言ってんだ、ばあか」

 三月がふざけて、蓮にヘッドロックをかける。

「ああ、やめてえ」

 はしゃぐ男たちを、莉子と千尋が呆れた顔で見ている。

 

 千尋の方から告白したと聞いて、「見る目あるな」と三月がニヤリと笑う。

「こうやって見るとお似合いだよね」

 莉子に言われて、つい三月の口が滑った。


「俺たちより?」

(あれ? 俺、なに言ってんだ) 


「あ、ごめん。変なこと言った! なんか、酔ったみたいだな」

「わ、わたしも、なんか酔ったかも」


 ふたりの頬が赤く染まるのを見て、「甘酒ってアルコール入ってたっけ?」と蓮がキョトンとしている。


「ねえ、わたしたちも何か飲もうよ」

 千尋が笑いをこらえて、莉子たちから離れた。

「ラムネは?」

「えー、この寒いのに炭酸はないでしょ」

「そっか」


 何を言われても嬉しそうな蓮を見て、千尋は幸せそうに微笑む。


 * * *


 厳格な家庭に育った千尋は、人にも自分にも厳しい性格だ。そのせいか、中学の頃は、のんびりしている蓮を見るとイライラしたものだ。


(ヘラヘラして何も考えてなさそう。テストの点が悪くても全然気にしてないみたいだし。なんなのよ、あいつ)


 ふたりは同じ中学に通っていたが、タイプが違いすぎて最低限の会話しかしたことがなかった。

 だが、中二のとき、蓮への見方が大きく変わる出来事があった。


 * * *


 他県から転任してきた男性教師が、三月に変に絡んできた。


「天狗だかなんだか知らないが、授業をさぼっていいわけないだろ!」 


「べつにさぼってるわけじゃ――」


「口答えするな! 生意気なやつだな。だいたい、こんな子どもを天狗さまだなんて祭り上げるから勘違いするんだ! いいか? 学生の本分は勉強だ。大して成績も良くないくせに、授業を抜け出すなんておかしいって言ってんだよ。わかるか? 俺の言ってること」


 廊下で立ったまま、延々と同じことを繰り返している。


「ちょっと、誰か担任呼んできて」

「それが、職員室にいないんだよ」


 生徒たちは遠巻きにして頭を悩ませていた。

 すると、蓮がスタスタと前に出て、三月と教師の間に立った。


「あの、先生は知らないと思いますが、飯縄いづなの一族は、昔からこの町の人たちを守ってくれてるんです。火事を消してくれたり、川で溺れた子どもを助けたり。それに、この町には小さな病院しかないけど、三月たちなら設備の揃った大きな病院へすぐに連れて行くことができます。学生の本分が勉強なのはわかりますが、どうか大目に見てやってください」


 蓮は一気にまくしたて、深々と頭を下げた。

 普段ヘラヘラしている蓮の弁舌に、教師をはじめ皆が驚いた。


「な、おまえ」

 何か言おうとした教師の頭に、幼いわが子の姿が浮かんだ。


(あの子に何かあったときのために、飯縄一族を敵にまわさない方がいいかもな)


「ゴホン。あー、先生にも何か誤解があったようだな。まあ、忙しいだろうが勉強も頑張れよ」

「はあ」

 わざとらしく咳をしながら、教師はあたふたとその場を去った。


「蓮ったら、やるう」

「おまえ、度胸あんな」

 

 みんなが騒ぐなか、三月が蓮に言った。


「蓮って、まともなこと言えたんだな」

「えー、ひどいよ。俺、頑張ったのに」

「アハハ。ありがとな、助かったよ」


 この一件で蓮の株は急上昇し、千尋にとっても彼は特別な存在になった。

 普段がポンコツなだけに、三月を庇って教師に立ち向かったときの、りんとした姿が忘れられない。 


(ほんと、変なやつ)


 蓮のことを考えると思わず笑いがこみ上げてきたが、このときはまだ、この感情が何なのか気づいていなかった。




――――――――――――――――


いつも読んでいただきありがとうございます。

本日、短編を掲載しました。

童話のような話がお好きな方はぜひ読んでみてください。


「新米サンタクロースと塔に閉じ込められた王女さま」

https://kakuyomu.jp/works/16817330650155021194











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