最終話 烏天狗
「まさか私達が親戚になるなんてねえ」
千尋が感慨深げに言うと、
「ほんと。なんだか不思議ね」
と
「あの子、ちょっと口うるさいところがあるから、悠真くんに嫌われないか心配だわ」
「今さら? 大丈夫よ。ふたりは幼なじみなんだから、そういうところも含めて好きになったんでしょ」
「あれ? もしかして自分たちもそうだからって
「なに言ってんのよ、もう」
見た目はとても同い年には見えないふたりだが、はしゃぐ姿はあの頃のままだ。
そんな妻たちを横目で見ながら、三月と蓮は酒を
「いやあ、まさか花音と悠真くんが結婚するなんてな!」
蓮は昔を思い出し、しみじみと語った。
「実は、花音を妊娠したとき、千尋は産むのをためらってたんだ。会社の経営が大変なときだったし。だけど、俺はどうしても子どもが欲しかったから『家事も育児も全部俺がやる。頼むから結婚してくれ!』って頭を下げたんだ。ちょっとみっともなかったけどな」
おどけてみせる蓮に、三月が言う。
「今や立派な専業主夫だもんな。大したもんだよ」
「ふふん。料理も掃除も絶対俺のほうが上手いぞ」
「いや、俺だって結構やってるからな」
妙なところで張り合うふたり。
蓮は子どもの頃に、溺れていたところを三月に助けられたことがある。
そんな彼の息子と自分の娘が結婚すると思うと、余計に感慨深いものがあった。
もう話してもいいかな。俺があのとき助けられた子どもだって。
こいつにとっては人助けなんて日常茶飯事だから忘れてるかもな。それとも、なんで今まで黙ってたんだって怒るかな。
蓮がニヤニヤしながら打ち明けると、三月の大きな声が店内に響き渡った。
◇ ◇ ◇
それから長い時が流れ、三月と莉子の血は、悠真の子や孫へと受け継がれていった。
その結果、百年もたたないうちに、彼らの寿命は普通の人間と変わらなくなり、突出した力や体力もなくなった。
その
烏天狗と人間の結婚にペナルティがなくなり、隠れて付き合っていた恋人たちは大いに喜んだ。
莉子はかなり長生きをしたが、さすがに烏天狗ほどは生きられなかった。
ふたりで購入した墓がある宮野町の墓地に、愛する家族と共に眠っている。
三月は墓の前で手を合わせた。
「莉子、そっちに行くのはもう少し待ってて。俺、山に帰ることにしたんだ」
三月に異変が起きたのは、ひと月ほど前のこと。
背中がぞわぞわとして落ち着かず、見ると、すっかり小さくなった羽の先に、新しい
「ほんとだったんだ……」
莉子は巴に言われたことを
正直、三月はこのまま人として生きていくつもりだった。神通力は衰え、外見も少しずつ老いてきた。今さらあれだけの修行をこなす自信もない。
だが、莉子は最後まで希望を捨てず、いつか新しい羽が生えてくるのを待ち望んでいた。
「俺は莉子の願いは全部叶えてやりたいんだ。惚れた弱みだな」
三月が懐から竹筒を取り出すと、もう話せなくなったカグヤがいた。何度も山へ帰そうとしたが、どうしても三月の傍を離れなかったのだ。
「一緒に山へ帰ろう。またおまえの声が聞きたい」
カグヤはこくりと首を縦に振った。
途中、
現在、ここの
晴彦は町に道場を開き、今でも子どもたちに格闘技を教えている。
宮司は子や孫へ引き継がれたが、だんだんやりたがる者もいなくなり、晴彦が道場と兼任するようになったのだ。
「これから行くのか?」
「ああ、また最初からやり直しだ」
「長いあいだ人として暮らしていたのに、大丈夫なのか?」
「まあ、頑張ってみるよ」
「そうか……なにかあったらいつでも寄れよ」
「おお。じゃあな」
三月は山を登り、数百年ぶりに
◇ ◇ ◇
古くから
この山には、今も
ふもとの町に異変が起こると、山から烏天狗たちが飛んでくる。
彼らは、この町に住む人たちにとってヒーローだ。
「お母さん、見て! 烏天狗だよ!」
子どもが指差す先に、三つの影があった。
彼らは大きな黒い翼を広げ、町の上空を駆け抜けていった。
完
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【完結】幼なじみは烏天狗 ~三月と莉子の恋愛と日常~ 陽咲乃 @hiro10pi
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