昭和のある一家族の姿を回想したエッセイですが、そのまま貴重な社会史になっています。
個人の責任ではなく地域が育てる子どもとか、お母さんの手の平の上でいばっているお父さんとか、大雑把でちょっといい加減なモラルとか。今では怒られそうなことがいっぱいですが、その分、細かいことに縛られない生き生きとした人間らしい暮らしを感じます。
ひとつひとつのエピソードにぬくもりがあって、昭和を知る人はもちろん、知らない人にもその光景が鮮明に浮かぶことでしょう。
筆者が愛情をもって振り返る、エネルギーとおおらかさに満ちた昭和の日々を、ぜひゆっくり味わってください。
思い返せば私自身の昭和歴は5年間、幼少のみぎりには薄っすらと淡い記憶しか思い出せないほどの時分です、が……。
こうして「昭和の情景」を描いている作品を読ませて頂くと、セピア色だった思い出に、色が付いていくかのようでした。
そういう意味でも発見があり、またこうした現象を体験できたのは、作者様の文章力の高さ・情景や心理描写の巧みさ。
何とも懐かしく、ほんのりと温かな心地に浸れました。
昭和の時代をご存じなくとも無問題、「こんな時代があったんだな~」と思えること必至ですので、是非ともご一読いただきたいほどです……!