第7話 事後処理
真紅郎とメル。
しばらくキャッキャウフフと、相変わらず封印の場にそぐわない甘とろ空間が形成されていた。
そうやってしばらく満喫した時間を過ごし、ようやく重い腰を上げる。
二人は名残惜しそうに体を離すと身支度を整える。
メルが気を利かせ、
体も綺麗になったこともあり、そのまま装備を着込み直す。
真紅郎は変わらないアシハラの羽織袴を冒険者風にアレンジした軽装の装備。
しかしメルは着慣れた聖女の白装束でななく。
ほぼ袖を通した事のない、私服のブラウスとロングスカート、その上から魔術士用のローブをまとった格好だった。
着慣れない服を真紅郎に見せ、照れた様子のメル。
真紅郎も新鮮なメルの姿にドギマギさせられる。
特にはち切れんばかりのブラウスの胸元に。
二人共に戻る準備を終えた後、オロチを封印した八つの聖石を見つめて真紅郎が口を開く。
「その、メルは聖女の力を使わなくとも結界術を使えるで御座るか?」
遠慮がちに真紅郎が尋ねる。
「はい、使えなくなったのは聖女関連の固有スキルと聖女だったことの恩恵ですから、
その聖女スキルと、恩恵のパッシブ効果は破格の有能性を持っていた。
しかし当のメルは、それを失った事にまったく後悔しているふしは見られなかった。
その様子に真紅郎も少し安心すると懸念をもうひとつ伝える。
「あと、この聖石八つに対して結界を張る魔力は残っているで御座るか?」
一度神丹で魔力を回復したとはいえ、禁術と最高位の再生術を使用したのだ、魔力が残っていなくても仕方ないことだ。
「はい、それがその……」
メルがうつむいて言いにくそうモジモジする。
「その、何か問題が? もしや契を交わしたことで体に負担がかかりすぎたで御座るか? くっ、もうひとつ神丹があれば……」
メルの様子に動揺し始める真紅郎。
そんな真紅郎をメルが慌てて制する。
「違います。逆、逆です旦那様」
「逆?」
「はい、そのなんと言いますか、旦那様に愛してもらうたびに魔力が回復して生気もみなぎってきたと言いますか」
それを聞いて真紅郎も驚く、はじめは聖女の力の一端かとも考えたが、聖女にそんな淫魔のような力があるとは思えなかったが…………。
「んっ、メル、そなたもしかして……」
真紅郎は思いついた答を思わずそのまま口に出そうとしてギリギリで止める。
いくらなんでも聖女を辞したばかりの彼女に、淫魔の血を引いているのかと尋ねるのは不粋すぎると思われたからだ。
「んっ、どうされましたか旦那様?」
言いかけた事を止めたため不思議そうにメルが首をかしげる。
「いや、その、もしかして、ひとつひとつの聖石に結界が張れるほど回復してたら良いで御座るなーっと思った次第で……」
咄嗟に誤魔化し苦笑いを浮かべる真紅郎。
そんな真紅郎に対して満面の笑みを向けるメル。
「勿論、出来ますよ安心してください、全部の聖石を結界で守ってみせますから」
その言葉通り、メルは聖石のひとつひとつを【
「さすがはメルで御座る」
「あの、それより結界はあくまで一時的なものですから正式な封印が必用かと」
「勿論で御座るよ、後でギルドに報告して正式に封印塚を再建してもらうで御座る」
「あと、そのついで良いので、私の事はここで死んだことにしておいてください」
思いがけがない提案に真紅郎が驚き目を丸くする。
「どっ、どういうことで御座るか?」
「簡単な話です。私が生きていると分かれば教会は旦那様との婚姻を認めません。例え私が聖女の力を失っていたとしても」
教会にとっての聖女は象徴でもある。
力が失くなったからといって簡単にサヨナラとはいかない。
真紅郎はメルの真意を理解し頷く。
彼としても今更メルを手放すつもりはないからだ。
「そうで御座るな。それでは聖女メルセディアはその身を犠牲にオロチを封じた。ということで良いでござるか?」
真紅郎としては咄嗟に思いついたストーリーだったが、存外悪くないのではと思えた。
「はい、それでしたら教会も納得するでしょう。なにせ蛇龍オロチの復活を食い止めたとなれば対外的にも威光を示したことになりますから。これで聖女メルセディアは責務をまっとうし天に召されたことになり、私は気兼ねなく旦那様とイチャイチャ出来るというものです」
真紅郎の提案にメルも納得して、嬉しげに豊満な胸を押し付け喜びを伝える。
「……うっ、では、メルにはしばらく身を隠してもらわねばならぬで御座るな」
「それについては問題ありません」
「んんっ、何故で御座るか?」
メルの自信有りげな言葉とは逆に、首を傾げる真紅郎。
そんな彼にメルは嬉しそうに理由を伝える。
「聖女メルセディアの素顔を知っているのは世界で唯一人ですから」
勿論その人物とは視線の先の唯一人。
メルの言葉を正確に言うなら、現在のメルの素顔という事になる。
聖女に認定される前の幼少期の素顔を知るものは少数ではあるが間違いなくいるからだ。
ただ早くから聖女に認定され育てられてきた為、言葉通りメルの素顔を見て、聖女メルセディアと結び付けれることの出来る人物は、真紅郎以外にはいないと言えた。
「拙者だけが聖女の素顔を……」
メルの言葉の意味が分かった真紅郎は、得も言われぬ優越感を覚える
「そうですよー、神聖不可侵な聖女様にあーんなことや、こーんなことが出来るのは旦那様だけなんですからね」
一夜にしてすっかり垢抜けたメルが、聖女とは真逆の小悪魔のように真紅郎をからかう。
初手から尻に敷かれ気味の真紅郎と思いきや。
メルの顎を持ち上げ視線を合わせると。
「それについては宿に帰ったらまたたっぷりと堪能させてもらうで御座るよ」
そう囁いて少し強引に唇を重ねた。
これにはメルもすっかりのぼせ上がり、まるで茹でたタコのような状態になる。
「はわぁ」
思いがけない反撃に、メルは慌てて話の流れを変ようとする。
するとちょうど目の前にトレジャーボックスが目に入る。
おそらくオロチを撃破したことで発生したダンジョン報酬である。
「旦那様、帰る前にあれを」
メルが指差した方を真紅郎も見る。
見間違いようない宝箱。
オロチと戦う前には存在しなかった物。
「それにしても不思議で御座るな」
宝箱を目にして真紅郎がしみじみ呟く。
それはそうだろう、何もない空間に突如としてトレジャーボックス。
一般的にいうと宝箱が発生するのだから。
「神の御業と言われてますが……事実は教会ですら把握しておりません」
一般的には神々が人に与える褒美だと言われている。世界を汚染する瘴気を封じた者に対しての。
実際に宝箱は瘴気で生まれた魔物を倒したときにしか発生せず、しかもダンジョン内に限られている。
地上に溢れ出た魔物が宝箱を落とさないのは冒険者の間では常識だった。
だからこそ冒険者はダンジョンに潜る。
仕組みを理解している者などいないが、魔物を倒せば宝箱が手に入る可能性があるのは事実だから。
「我が国でも同じで御座る。古い歴史を持ちながら迷宮の仕組みについては誰も知り申さぬ」
「旦那様、今はわからないことを悩むより。これを開いてみましょう。まずは……」
ワクワクした顔でメルが【
一般的には魔物から生じる宝箱には、罠が仕掛けられていることはないと思われている。
ただ実際には極稀に、ミミックやモンスターコールと連動していたりする罠がある事をメルは知っていた。
「油断せず。罠の有無を調べるとはさすがで御座るな」
真紅郎もそのことを知っていたのでメルの行動に感心する。
「もう旦那様。こんな基本的なことで褒められても〜、嬉しくなんてないんですからね」
と言いつつ顔は嘘をつけないメル。
そんな可愛らしい反応にイチャイチャしたくなる気持ちを抑えて、真紅郎は調べた結果を尋ねる。
するとメルはニッコリと親指を立て安全だと示す。
真紅郎とメルは二人でオロチを倒したことから、記念として一緒に開けることにした。
タイミングを二人で決め。
宝箱の蓋を二人で掴むつかむと声を上げる。
「「いち、に、さん」」
掛け声のタイミングはズレることなく、二人は宝箱を開ける。
ある意味初めての共同作業とも言えた。
中に入っていた報酬は五つ、冒険者に伝わるジンクスでは三つ以上宝箱に報酬が入っているとレアな品を手に入れる可能性が高いと言われていた。
「やりました旦那様。五つも入ってましたよ」
メルも聖女とはいえそれなりに勇者パーティで冒険していた。その為ジンクスの事を知っていたようで、喜びをあらわにして真紅郎に抱きつく。
真紅郎もそれは同様で一緒に喜びを共有する。
普段はストイックな真紅郎と厳格な聖女。
そんな二人でも宝箱から報酬を得る時はやっぱり嬉しくて興奮する。
きっとこれは冒険者として、ダンジョンに潜ったことのある人間にしか理解できない感覚なのかもしれない。
―――――――――――――――――
術式&スキル解説
【
汎用魔術式
体の体内及び表面を綺麗にする。
【
上意聖魔術式
神聖属性の印を刻み強力な結界を張る。
【
汎用魔術式
対象の内部構造を調べ罠の有無などを確認する。
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