第21話 決着
真紅郎の勝負開始の声が響く、しかし二人はお互いを見合ったまま動かない。
ラードは余裕の笑みを浮かべて。
響之介は能面のような冷たい眼差しでただ真っ直ぐにラードを見る。
そして、その手に握られていたのは、愛刀の虎切久光ではなく、鍔のない柄から4本の捻れた刃が伸びた異形の剣。
「へぇ、もしかしてそれはカシーナ・ブレンダーか、実物を目にするのは初めてだが、いつの間に……だが、そんな奇妙な剣が名剣とは、噂なんて当てにならないな」
ラードもその存在を知っていたカシーナ・ブレンダー。冒険者ではそれなりに名の知られた剣なのだが、実物を目にした人物は多くない。
「御託は沢山だ。俺をボコボコにするんだろう、かかってこいよ」
響之介は手のひらを上に向けて指先で掛かってこいと挑発する。
「舐めやがって、直ぐに負けを認めさせてやる」
格下と思っていた相手に煽られたラードは怒りを我慢できず、斧を振り上げ響之介に突進して行く。
響之介としては怒りに任せた大振りな一撃が来ることを期待していた。
しかし、ラードが繰り出したのは斧とは思えないスピードの乗ったコンパクトな一撃だった。
響之介はスキの大きい攻撃を躱してカウンターを叩き込むつもりだったが、裏をかかれてしまう。予想以上にスキの無い攻撃に受け止めるのが精一杯だった。
瞬間。火花が散り甲高い金属同志が擦れ合う音が響く。
「驚いたぜ、押しきれると思ったんだが」
捨て台詞と共に再度間合いを取るラード。
その言葉通り、仮に響之介の手にあるのがいつもの刀であれば受けきるのは難しかっただろう。
特に今回のような斧、もしくは大剣のような重い一撃を受け止めれば下手をすれば折れてしまう。
あくまで刀は斬るための攻撃特化の武器だからだ。
『思っていた以上に凄いなこの剣』
だからこそ響之介は、刀とは全く違う、今手にしている剣の性能に驚いていた。
「まさか竜巻を纏う魔法剣だったとはな」
それと共にラードが盛大な勘違いをする。
確かに今のカシーナ・ブレンダーは、いつの間にか四つあった刃が見えなくなり、刀身がまるで小さな竜巻を纏っているかのようだった。
しかし、カシーナ・ブレンダーは魔法剣ではなく機械剣で、その刀身は
また操作もボタンひとつで誰にでも簡単に扱える。つまり、誰でも気軽に殺傷能力の高い剣を振るう事が出来る名剣で、ある意味で魔剣とも云えた。
そして何度か切り合っていると響之介が違和感を感じる。
「しかし、刀剣士のくせに刀を捨てるとはな、本当に情けない男だ。そんなんだから葵を守れないんだよ、少しは男としてプライドを見せたらどうだ」
『ラードが嫌がっている?』
ラードが間合いを取り、会話で時間を稼ごうとしていることに気付いた響之介。
実際に決定打を与えていなくても、少しづつだが確実にラードのライフフィールドを削っていたからだ。
「くそっ、ガキが調子にのるなよ」
細かい手数に苛立ち、ラードが戦技を解放する。
すると斧を起点に爆発が起こり響之介が吹き飛ばされる。
ラード自身も反動でダメージを受けるが響之介はその比ではない。
大きく吹き飛ばされた響之介。ライフフィールドで守られるとはいえダメージ量に応じた緩和された痛みが襲う。それでも顔に出さないように努め立ち上がり、直ぐに剣を構え、障壁の残量を示すライフゲージを確認する。
ライフゲージは先程の攻撃だけで三分の一が削られていた。
ラードも余裕の笑みは消えていた。
みなぎる殺気を隠すことなく響之介に向ける。
「一つだけ褒めてやるぜ、まさか【爆砕斧】だけでなく、この【ホーリーバースト】まで使う気にさせたんだからな」
ラードが言葉と共に斧を後ろ手に構える。
闘気が注がれ、合わせて斧が光り輝く。
先程のダメージを考えるとまともに食らえば勝ち目はないと考えた響之介は一気に踏み込む。
しかし、ラードのチャージの方が早く、無情にも聖斧グラシャムから破壊の波動が放たれる。
光り輝く波は響之介を包み込み爆煙を上げる。
「まあ、雑魚にしては頑張ったんじゃないか」
直撃を確信したラードが再び余裕の笑みをこぼす。
「………」
しかし勝敗がついたかと思われた勝負に、立会人の真紅郎は声を上げない。
なぜなら立会人の真紅郎には見えていたからだ。
響之介のライフフィールドがまだ半分まで消耗していないことに。
もちろん、煙に紛れて跳躍していたことにも気が付いていた。
そしてこの場で唯一人ラードだけが気付くのに遅れる。それは相手を侮った事と、勝利を確信した慢心からのもので、仮に同格の相手であればこれほどの隙を晒しはしなかっただろう。
そして上空から迫る気配を感じたときには手遅れだった。
「なっ、アイツいつの間に」
急降下してくる響之介と目が合った時にラードは斬られていた。
響之介の愛刀虎切久光によって。
「うぎゃあ、いてぇ、痛えぇよぉお」
たまらずラードが地面に転がりのたうち回る。
クリティカルに決まった攻撃は、刀の特性から防御耐性を無視したダメージとなり伝わっていた。
それは一気にライフフィールドの半分以上を減らす渾身の一撃であり、それにより緩和されているとはいえそれ相応の痛みがラードを襲っていたからだ。
「勝負あり、勝者刀剣士響之介」
真紅郎の声と共に、息を呑んで勝負を見守っていた隼人や彩女から歓声が上がる。
真紅郎も響之介に近づくと疲労困憊気味の響之介に肩を貸す。
「やりましたよ真紅郎さん」
「ああ、見事で御座る。冒険者として見事な戦いぶりであった」
真紅郎の言わんとする意味を理解した響之介が頷く。
「はい、真紅郎さんが冒険者式のバトルにしてくれた理由が分かりました。俺の腕ではあらゆる手段を尽くさないと勝てない戦いでした……その事に気付けて良かったです」
「うむ、相手の光波をカシーナ・ブレンダーを回転させたまま投げつけ相殺を狙い、生じた衝撃を利用し上空へと舞い上がる。そこから得物を持ち替えての天翔一刀流の【飛燕斬】は見事で御座った」
「ありがとうございます。欲を言えば真剣勝負で打ち負かしたかったですけど、相対して分かりました。悔しいですが今の俺の実力では無理だったと」
「気にする必要は無いで御座るよ。これがサムライ同士の誇りを掛けた真剣勝負であればいざしらず。相手は人として最低限の礼すら欠いた外道。ならば、人ならざるものに創意工夫して立ち向かい勝つ、これは冒険者としては当たり前の戦い方で御座ろう。もう一度言うが見事で御座った」
頭の固い皇都の老人には屁理屈として受け取られそうだが、それは間違いなく真紅郎の本心である。
それこそ響之介の頭を撫でて褒めると、自分の事のように喜ぶくらいに。
それは響之介が己のプライドより、傷つけられた葵の無念を晴らすため、必死に戦い、勝利にこだわった姿に感銘を受けたからだった。
―――――――――――――――――
戦技解説
【爆砕斧】
戦技・斧専用
斧を起点に闘気を圧縮し爆発させる。
広範囲だが自身もダメージを負う。
【ホーリーバースト】
聖斧グラシャム固有技
闘気を破壊力のある光波として放つ。
込められた闘気量でダメージが増減する。
【飛燕斬】
天翔一刀流中伝
高く跳躍し落下時の勢いと共に一刀両断する。
跳躍した高さに応じてダメージが加算される。
◇
いま書いてて楽しいです。
忙しさに負けずもっと続けて行ければと、少し欲が出てきてしまいました。
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