第36話 即席パーティ

 オロチ塚の第七層。


 真紅郎達は法禅の転移で簡単に移動してきたのたが予想外の出来事に遭遇していた。


 それはダンジョン周期の影響でフロアボスが復活していた事が原因である。

 ただ、復活したのが以前に対峙した野槌ならさして問題ない相手だった。


 ところが今回はオロチの復活したのが影響したのかフロアボスに変異が起きていたのだ。


「まさか野槌の異形種と対面することになるとはな」


 法禅が言うように野槌を見たことがある人間ならひと目でそれと分かる姿をしている。

 しかし異形種と表現したように一般的に知られている野槌とは大きな差異が見受けられた。


「うむ、金色に輝く三口の野槌など初めて見たで御座る」


 真紅郎がそう言ったように、本来一つしかないはずの口が三つあり、本来なら土色の体毛もこの個体に関しては金色の輝きを放っていた。


「あの、つまりこの魔物の脅威度は未知数と言う事で良いのか?」


 冷静な表現を崩さないマチルダが真紅郎に尋ねる。


「左様。通常の野槌であれば吸い込まれてしまうことだけに注意すればさして怖い相手では御座らん」


 通常の野槌の注意点を真紅郎が説明している間にアーウィンが動く。


「ふん、ならば遠距離より狙えば良いのだろう」


 言葉通り遠距離攻撃の為の聖魔術式ホーリー・メソッドを構築する為の詠唱を始める。

 最近は少なった詠唱による術式構築。

 手間は掛かるが両手が開くというメリットがある為、アーウィンは詠唱による術式の構築を好んで使っている。


「我、神に願う。理に反した邪悪なる存在を聖なる光をもって滅ぼせ【聖光波ホーリーレイ】」


 アーウィンのかざした手から魔法陣が浮かび、そこから聖なる力を秘めた光が放射される。


 そして放たれた破壊力を持った光線がノヅチを貫こうとした瞬間。ノヅチの口が大きく開くと光線を飲み込んでしまった。


「なっ、なに」


 予想外の出来事に驚くアーウィン。

 そんな驚くアーウィンを嘲笑うかのようにノヅチは別の口からアーウィンが放ったのと同様の光線を吐き出す。


「くそっ」


 アーウィンはすぐさま反応して三人を庇うように前に出て大盾を構える。


 合わせてスキル【盾強化(大)シールドストレングセン】を発動し、光線をいとも簡単に防いでしまう。


「守りに関しては流石だな」


 盾にすら傷一つついていないアーウィンを見てマチルダが褒める。


 真紅郎と仕合したときからうだつの上がらないアーウィンだったが、こと守備に関しては守護者を冠するだけあり超一流と言えた。


 そして、盾に守られた安全域から法禅は杖を取り出し金色の野槌に向ける。


「どれ、ひとつワシも試してみるか」


 法禅はそう言うと初級レベルの【火球弾ファイアボール】を放つ。


「宗方殿。それでは余りに威力が……」


 マチルダの呟きを笑みで返す法禅。


 しかし、マチルダの懸念など関係なく火球は野槌に吸い込まれて消失する。


 そして再度野槌は反撃とばかりに口を開くと、火球を吐き出した。

 これは簡単にアーウィンに防がれる。


「……これは」


 予想外の反撃にマチルダが何かに気付く。

 同じように真紅郎も理解していた。


「なるほど、原理は分からぬが、あの野槌は魔術を吸収してそのまま相手に撃ち返すので御座るな」


「それならば」


 マチルダは武器をクロスボウに換装し野槌に向けて引き金を引く。換装時からセットされていた二連のボルトが同時に放たれる。


 しかし、攻撃が届くことなく、野槌はその大きな口でボルトを飲み込む。


 そうして魔術の時と同じように別の口から高速のボルトが吐き出されて撃ち返される。


「くそっ、物理攻撃まで撃ち返すのか」


 返ってきたボルトを弾いたアーウィンが苛立つ。


「ふむ、これはどうで御座るか」


 次に真紅郎が闘気を込めて剣気を放つ。

 だがそれも野槌の口に吸収されて反射される。


「何でもありで御座るな」


「どうやら左右の口が物理的なものどころか、魔力や闘気といった形のないものすら全て呑み込むようだな」


 状況を観察していた法禅が告げる。


「そして真ん中の口がそれを返すのだな」


 マチルダも状況を完全に理解する。そこに何かを思いついた真紅郎がアーウィンに尋ねる。


「アーウィン殿の盾はどのくらいまでなら耐えられるで御座るか?」


「愚問だな。この聖盾アルカエルに受け止めきれぬ攻撃などない」


 そう自信満々に答えるアーウィン。


「ならば、勝ったも同然。アーウィン殿は反撃に備えて下され。親方とマチルダ殿はタイミングを合わせて右と左に同時攻撃を」


「ああ、そういうことか」


 真紅郎の意図を理解した法禅がニヤリと笑う。


「なるほど、私も理解しました。しかしすんなりと行くでしょうか」


 遅れてマチルダも同時攻撃の意味を理解する。

 それと共に、急造パーティにそのように息のあった攻撃が出来るのかという疑問が浮かぶ。


「まずはやってみるで御座るよ。二人のタイミングに拙者が合わせるのでお頼み申す」


「分かった。嬢ちゃん一、二、三で攻撃だ良いか?」


「了解した。では合図は私が……行くぞ宗方殿。一、二、三、今」


 話の合間に再装填していたクロスボウから二連のボルトが発射される。

 合わせて法禅が杖を掲げると【火球弾ファイアボール】が放たれる。


 そして狙い通り、野槌の左右の口がボルトと火球を飲み込む。

 そこに少し遅れて本命の特大の闘気を込めた剣気【剛波剣】が届く。


 真紅郎の狙い通り、ボルトと火球を飲み込んでいた左右の口は対応出来ず。直撃を受けた野槌はのたうち回り、はね返す予定だったボルトと火球もあらぬ方向に飛んでいった。


「よし。このパターンなら行けそうだな真紅郎殿」


 攻撃が届いたことに喜ぶマチルダ。次の攻撃のためクロスボウにボルトをセットする。 


「よっしゃあ! 次はワシの特級魔術をお見舞いしてやろう」


「そうで御座るな。相手もこちらの攻撃を読んでくるかもしれぬ故、速攻で決めたほうが良かろう」


「では、今度は私と真紅郎殿で同時攻撃を」


「うむ、マチルダ殿、頼む」


「はい、では行きます……一、二、三、今」


 マチルダの声に合わせて真紅郎は剣気を放つ、その間に高位の攻勢術式アサルト・メソッドを構築していた法禅が魔術を展開する。


 先程と同じように、野槌の左右の口が真紅郎とマチルダの攻撃を飲み込む。

 間髪入れずに法禅が放った【紅蓮地獄ヘルフレイム】が飲み込まれることなく野槌を覆い尽くす。


 そして、そのまま炎に包まれ焼き尽くされる野槌。真紅郎達は油断なくその様子をうかがう。


 それは正解で、苦し紛れなのか飲み込んだ剣気とボルトを同時に吐き出して、最後の反撃を見せる。


 しかし、それはあえなくアーウィンに防がれると野槌は焼き尽くされて瘴気の残滓となって霧散したのだった。




――――――――――――――――――


アイテム解説


【聖盾アルカエル】

 等級:レジェンダリィ

 特性:全耐性値増加/聖属性強化/カバーリング率上昇/生命力強化

 聖天使アルカエルの力を宿した神聖な盾。

 


術式&スキル解説


聖光波ホーリーレイ

 上位聖魔術式

 収束した魔力を聖なる光に転換して放つ。破壊力もあるが浄化作用のほうが強い為瘴気から生じた魔物にはダメージ倍増


盾強化(大)シールドストレングセン

 盾用戦技

 ダメージカット率を大幅に上昇させ、かつ盾を起点に結界を形成し広範囲を防御する。


火球弾ファイアボール

 下位炎系攻勢魔術式

 火球を放ち敵に火傷を負わせる炎系の基礎魔術。


【剛波剣】

 サムライ用戦技

 闘気を攻勢オーラとして放出する。闘気を込めた量で威力が変わる。


紅蓮地獄ヘルフレイム

 最上位炎系攻勢魔術式

 相手を焼き尽くすまで消えない地獄の業火。

 通常ダメージに加えスリップダメージあり。






  


 

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