第35話 ピクニックからの

 真紅郎と別れ、被害にあっているという村に向かっていた暁光パーティ。


 村に到着すると被害状況を確認し、聴取した情報から、魔獣がねぐらにしていると思われる場所も特定する。


 今は移動に時間が掛かった事もあり、遅めの昼食をピクニック形式でとっていた。



「ムグムグ、このオニギリ上手いな、具はウメボシか」


 響之介が少し歪で大きめのオニギリを頬貼りながら嬉しそうに呟く。


「ふーん、見る目あるじゃない。それ私が作ったやつよ」


 そう言いながらも、はにかむ葵。どうやら褒められて嬉しかったらしい。


「なるほど、それじゃあ尚更だな。葵の愛情がこもってるわけだからな」


「なっ、別に今回はキョウのためだけに作った訳じゃないから……でも、そこまで私の手料理が食べたいなら今度はキョウのためだけに作ってあげるわよ」


「おおー、それは嬉しいな楽しみにしておくよ」


 葵の提案に屈託なく応える響之介。

 葵にとってはその笑顔が眩しすぎるようで直視できずに思わず目を逸らしてしまう。


「その……私も練習して、絶対に美味しいって言わせてあげるんだから覚悟してよね」


 そんな二人のやり取りを、メルと彩女がニヤニヤしながら眺めつつ小声で話していた。


「むふふ、相変わらずのツンデレっぷりですね」


「ちっちっち、メル先生。あれはもはやデレをツンで隠しきれていない。もはやあれはメッキの剥げた偽りのツンデレ、即ちツンデレモドキ」


「なるほど、なるほど、でも、あのモドキの葵も可愛らしくて良いと思いますよ」


「それは同意。ある意味安心して見ていられる」


 メルと彩女が話している横から隼人が口を挟む。


「いやいや、隣で甘々カップル二組を見せられてるこっちの身にもなってくださいよ。糖分過多で胸焼けが凄いんですから」


「はぁ、それなら兄ぃも早く彼女作れば良い」


「そうですね。でも隼人君はシスコンを除けば気遣いもできるし、顔も悪くないのに……何で彼女さんが出来ないんでしょう、不思議ですね」


「そのシスコンが致命傷」


 ジト目で彩女が兄を見る。


「うぐっ、言いたい放題言いやがって。みてろよ今度帰ったら直ぐに彼女作ってやるからな」


「それで焦って変な女に当たったら目も当てられない。ちゃんと私に自信持って紹介出来る女じゃないと駄目」


 隼人の宣言に駄目だしする彩女。

 それを面白そうに見ているメル。


『これはこれは、彩女さんも実は……』


「あっ、メルさん。いま変なこと考えていた」


「いえいえ、そんなことはありませんよ、フッフフ……」


 そんな三人が話しをしている横で、すっかり二人だけの世界の響之介と葵は……。


「もう、子供じゃないんだから。そんなところにご飯粒付けて」


 響之介の頬に付いたご飯粒を軽く摘むと自分の口にパクリと持っていく。


「アハハ、ついつい美味しくてさ。葵も見ているだけじゃなくてちゃんと食べろよ、ほら」


 そう言って響之介はおにぎりを差し出す。葵は

 一瞬戸惑ったものの可愛らしく一口だけ食べる。


「モグモグ……その、ありがとう」


「どういたしましてだ。どうだ美味しいだろう」


「美味しいけど、なんで自分で作ったわけじゃないのに自慢気なのよ、まったく」


 葵はそう呆れるようにいつつ、今度は自分から響之介の持っているおにぎりを一口噛る。


「あっ、残りは俺のだったのに」


「いいでしょう。キョウは私の作ったやつを食べれば良いじゃない」


「まったくしょうが無いな。ほら、好きなだけ食べろよ」


 響之介はその様子を楽しそうに見ながらおにぎりを差し出す。

 葵は餌付けされるリスのように少しづつ噛りながら食べて行く、最後は手に付いたご飯を指ごとくわえ込みひと粒残さずしゃぶりあげる。


「……なんかエロいな」

「うん、エロい」

「……これは使えそうです!」


 隼人や彩女が、いつの間にか響之介達を見て同じような印象を抱いたが、なぜかメルだけは少し感覚が違っていた。


 しかし、そんなイチャイチャしつつも平穏な時間は突然破られる。


 村人が大声を出しながら急いで駆け込んできたからだ。

 その村人は焦った様子で告げる。


「出た、出たズラよ、東の森にバカでかい熊が、冒険者さん達お願いするズラ」


 慌てた様子の村人が身振り手摺りで東の方の森を指し示す。

 響之介達は急いで片付けを済ませると直ぐに森へ向かう準備を整える。

 

「東の森ですか想定していたねぐらと食い違いますね」


 ただメルは事前情報との違いに首を傾げる。


「どちらにせよ、放置は出来ないでしょう」


「それを含めて確認するべき」


 隼人と彩女の言葉にメルが頷く。


「そうですね。被害が出てからでは遅いですし行きましょう」


 響之介と葵もメルの言葉に同意する。


 急いで四人は村人から聞いた東の森の目撃場所へと向かう。


 そして森には、確かに巨大な熊が居た。

 巨大な熊は周囲を威嚇するように唸り、威圧感を振り撒いていた。


「こりゃ確かにデカいな」


 隼人が熊の大きさに驚いく。


「うん……でもこれ魔獣じゃないみたい」


 しかし、すぐに正体を看破した彩女が告げる。


「それじゃあ、巨大な熊を魔獣と勘違いしたってこと?」


 その葵の言葉に響之介は首を振って答える。


「だとしても、この巨体は村にとっては脅威には違いない。悪いけど討伐させてもらう」


 響之介は抜刀すると一直線に大熊に向かって駆け出す。


 大熊も響之介に反応し立ち上がり迎え撃つ。

 響之介は怯むことなく直進を止めない。


 大熊は走り込んできた獲物をその剛腕で引き裂こうとする。


 しかし、その太い腕は響之介にあっさりと切り飛ばされると、返す刀で熊を袈裟斬りにする。


『踏み込みが浅かった』


 致命傷に至らなかった事を響之介自身が理解し、反撃を避け後方に一度飛び退く。


 そして響之介の読み通り、熊は切り飛ばされた方とは反対の腕で薙ぎ払いに来ていた。

 すんでの所で大熊の攻撃を躱した響之介は刀の切っ先を大熊に向けて構えると、間を置く事なく再度突進する。


 所詮、魔獣ではなく獣にすぎない大熊に躱す術はなく頭部を貫かれ絶命する。


「やっぱり、ただの大きいだけの熊だったみたいね」


 瘴気の霧散が見られなかった事から間違いなく魔獣ではないと確信した葵が告げる。


「じゃあやっぱり、村人の勘違いってことか……じゃあ一件落着で……」


 隼人がそう結論付けようとしたところにメルが異論を唱える。


「その結論は早計ですよ。あの熊は怯えから威嚇していたようにも見えました」


 メルの言う通り、大熊と対峙した響之介にはその感覚が理解できた。

 

「つまり、あの熊が怯えるような何かが居るかもしれないってことですね」


「……そう考えると、やっぱり最初に聞いていたねぐらが怪しい」


 彩女が自分の考えを伝える。


「ええ、そこに向かうべきかと、もし本当の魔獣が居るのなら痕跡も確認出来る筈です」

 

 彩女の意見にメルも賛同する。


 他のメンバーも頷くと村に戻らず、直接ねぐらへと目されている場所に向かう事にしたのだった。

 

 

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