第14話 宿屋で……
アデル達と違い、久しぶり気持ちの良い酒が飲めた真紅郎。響之介と葵の二人と別れると、以前泊まっていた所とは違う宿に向う。
そこは少しだけ前より高級感のある宿で、冒険者よりは観光客や裕福層向けの宿だった。
幸い部屋は空いていたので二人で同じ部屋に宿泊する。
部屋に入ると奮発しただけあり高級感のある調度品が揃えられていた。さらに一際目を引くのはアシハラには珍しい天蓋付きのベッド。しかも二人どころか四人くらいで寝ても余裕なほど広さだった。
「ふっふ、旦那様。ある意味これが本当の初夜ですね」
ベッドを見るなり、しなだれかかり豊満な胸を押し当てて見上げてくるメル。その表情はお酒と相まって上気しうっとりと艷やかだった。
「そうで御座るな。拙者も、改めてちゃんとした場所で愛でてやらねばならぬと思っていたで御座るよ」
真紅郎は寄りかかるメルをそのまま横抱きにする。メルもすぐに意味を理解し腕を真紅郎の首に絡める。しばらく見つめ合うと自然に唇を重ね甘い吐息と蜜を互いに与え合う。
真紅郎は唇を重ねながらメルをベッドへと運び、そっと下ろす。フカフカのベッドに沈み込むメルに真紅郎が覆いかぶさると唇を首筋に、手を胸に這わせ始める。
「旦那様。先に湯浴みをしませんか? 旦那様にはいつも綺麗な私を見てもらいたいのです」
そんなメルの懇願を真紅郎は意地悪な顔で返す。
「嫌で御座るよ」
そう言って、メルの耳元に顔を埋め何かを囁くと耳たぶを甘噛する。
「あん、そんな旦那様……汚れきった私を……堕ちたメルを見たいだなんて旦那様は酷い方です」
真紅郎に囁かれた言葉を反芻して、真紅郎に愛しつくされ、愛に塗れた自分の姿を想像する。
胸の内に宿った欲情が燃え上がり自身の潔癖だった部分が裏返る。
「そんなの旦那様だけです。メルのこんな穢れてはしたない姿をみてもいいのは旦那様だけなんですからね……ですから愛し抜いて汚して下さい……それこそメルが聖女だったなんて思えないほど徹底的に」
潤んだ瞳で真紅郎を見つめて自分の隠された欲望を吐露する。
「ふふ、よく言えたでござる。いつもの綺麗な聖女のようなメルも、欲望に染まって汚れた、ただの女としてのメルも……どちらも共に愛おしくて仕方ないでござるよ」
「はい、はい、嬉しいですぅ旦那様。メルも愛しております。いつものキリッとして冷静で凛としたと姿も、今のメルをイジメて悪い顔で笑ってるカッコいい旦那様も、大大大好きなんですから」
おそらく二人にしか分からない愛の囁きを交わし。互いに貪るように口付けを交わす。
それは次第に甘い嬌声に変わり、激しくものを打ち付ける音に変わり、歓喜を含む絶叫に変わっていった。
結局、二人はダンジョンで致したときと同様に互いに力尽きるまで愛し合い、朝日が登る頃合いでようやく眠りについた。
そして真紅郎が目を覚ましたのは、もう昼も過ぎたころ。息苦しさからだった。
気がつけば顔が柔らかな感触に包まれ呼吸をかなり阻害されていた。
心当たりは大いにあり、自分の顔を覆うものに手を這わせると、寝ぼけながらも「あぁん」とメルのなやめかしい声が響いた。
真紅郎としてもこの状況は嫌いではない。
むしろ天国のようなものなのだが、さすがに息苦しさが増し本当の天国に行きかねないため、断腸の思いで天国から抜け出す。
そして離れたことで分かる天国を生み出す元となった雄大な二つの峰。正に神々が住むという霊峰なのではと錯覚するほど立派な頂きの先は……桃源郷だった。
「ひゃうぅ」
真紅郎の悪戯により奇声と共に目を覚ますメル。
思いがけない胸の先端に感じた強めの刺激。
それと同時に目の前の真紅郎の顔を見て思い返されるのは散々に乱れた自分の痴態。
「メル起きたで御座るな。それでは湯浴みをしてギルドへ向かうで御座るよ」
まるで自分がした悪戯を無かったように振る舞う真紅郎にメルはプクッと頬を膨らませて抗議する。
「もう、酷いです旦那様。散々私を可愛がって、まだ少し余韻が残ってて敏感なんですよ、それなのに……あんな起こし方して」
「いや、悪かったで御座るよ。メルが余りに愛らしのでな、つい悪戯心が芽生えてしまったで御座るよ。済まぬな」
真紅郎はそう言って頭を下げて詫びると、お詫びの印とばかりにメルのオデコへとキスを落とす。
「なっ、だっ、だんなしゃまぁ、過激すぎでしゅうぅぅ」
体は余韻が残っているとはいえ、頭は平常運転のメル。
そんな彼女にとっては先の悪戯より、オデコにキスされる方が恥ずかしく感じられたらしく、顔はスッカリ真っ赤な茹で蛸状態だった。
「メルの国ではこうやって親愛の情を示すのではなかったで御座らぬか?」
「そっ、そうなんですが、なんと言いますか、オデコにキスをされるのも初めてで……」
何故ここまでメルが動揺しているのか分からない真紅郎。この二日間で普通のキスはもちろん、もっと過激なキスもしたのにもかかわらず、いまさらデコチューに動揺するメルの心理が分からなかった。
「その嫌だったならもう……」
「嫌です。旦那様にはもっとキスしてほしいです」
真紅郎が告げようとした言葉を遮り、メルが首を振って否定の否定をする。
「そうで御座るか、なら」
真紅郎はメルの願いに沿って、今度は唇にキスをする。
「あっ」
優しい口付けの後、唇が離れるとメルは思わず声を上げる。
そうしていまさらながら一糸まとわぬ自分の姿に気付くと恥ずかしさが最大限まで高まる。
それを察した真紅郎は起き上がるとメルに手を伸ばす。
「それでは改めて拙者の愛しき女房殿。これより湯浴みを済ませてギルドに付いてきてくれるで御座るか?」
「はい、旦那様。貴方の隣を歩けるならどこへでも付いてまいります」
メルは真紅郎の手を取る。
そのまま二人は部屋に備え付けの浴室で、少しイチャチャしながらも愛欲の残滓を洗い流しさっぱりすると冒険者ギルドへ向かうのだった。
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