第44話 あっけない結末?


メルと彩女を迎えに行く為に、準備を早急に整えた真紅郎。念の為響之介や隼人にも状況確認をしておく。


 真紅郎が話を聞くと、特に隼人の肉体的にも精神的にも酷く消耗しており、彩女の事を泣きながら懇願せれた。


 

 その後、教会組と法禅と再合流しまずは農村へと向かう。


 その途中だった。


 真紅郎のはめる左手の指輪が淡く光ったのは。


 真紅郎は足を止めると法禅達に事情を説明し先に現地に向かってもらい、自分自身はその場に留まり召喚に備える。


 メル曰く、連理の契りを結ぶ事で互いの召喚が可能な連理の指輪という魔導具で、婚約指輪も兼ねていた。


『メル、こちらは何時でも大丈夫で御座る』


 真紅郎が指輪に念を込めて話しかける。

 すると呼応するかのように光が強くなる。


 そして光の強さがどんどんと強くなり、目を開けていられなくなる頃合いで、真紅郎の耳にメルの声が確かに聞こえた。


『連理の契りに基づき来て下さい私の愛しい人……』


 その声に応じると、同時に真紅郎の体はフワリと浮いた感じになり、気がつくと目の前にメルの姿が見えた。


 数刻ぶりに愛する存在を感じ自然と笑みが溢れる真紅郎。


 それに応じるようにメルも微笑みかける。


 まるで数年の時を経て再開した恋人同士のように感極まった様子で、自然と視線を絡ませ、お互いを抱きしめ合いそうになる。



「なに勝手にいい雰囲気出してるのさ、気に入らないな」


 それを見ていたリグレスが苛立ち攻撃を仕掛けてくる。

 かざした手のひら生じる、闇を纏った雷球が真紅郎へと放たれる。


 しかし、真紅郎はメルを見つめたまま、事もなげに闇の球体を切り裂く。


「さすがは旦那様。上位闇魔術の【暗黒雷光ダークライトニング】も簡単に切り裂くなんて、まさにアレですね」


「ああ、アレで御座るよ」


 メルの期待に答えるように真紅郎は言葉を合わせる。


「「月影流に切れぬもの無し」」


 期待通りに重なった言葉にメルが嬉しそうに笑う。戦闘中にも関わらずリグレスは完全に蚊帳の外の空気感だ。


「おい、お前らいい加減にしろよ。僕を差し置いてイチャつくなよ。ああ胸糞悪い、これがアレか自分の女が取られたときに感じる寝取られってヤツか、本当に最悪の気分にさせてくれるよな。この間男と尻軽女め」


 さっきまで小馬鹿にするような態度をとっていたリグレスがさらに悪態をつき二人を罵倒する。

 しかし、その言葉が不味かった。


「ほお、拙者の最愛を尻軽と罵るで御座るか? メルの事を何も知らぬそなたが言っていい言葉ではないぞ、もちろん知っていればそんな言葉は出ぬであろうが、正直そなたよような者には寸分足りともメルのことなど知ってほしくは無いで御座るがな」


 真紅郎の静かな怒りを込めた言葉。

 リグレスはさらに苛立ちを募らせる。


「ああ、何なんだよお前ら、いい加減ウザいんだよ、もう良いよ、皆殺しにしてあげるよ、だからとっとと僕の前から消えてくれ、もう殺っちゃっえよジャック」


 リグレスの命令が出ると同時に様子を見ていたウサギが動く。

 しかしそれよりもさらに早く白刃が煌めく。


「悪いが終わらせてもらったで御座る」


 その言葉と共に刀を納める真紅郎。

「カチャン」というキレの良い音が響くと同時にリグレスの首が飛ぶ。


 真紅郎の【須臾閃迅シュユセンジン】による刹那の斬撃でリグレスの首を先に刈ったのだ。


 それと同時にスクロールの効果も切れ、魔力供給元を失ったウサギも霧散するように消えていく。


 真紅郎としてウサギの姿を見た時点で速攻で元を絶つ腹積もりだった。

 使役獣なら元を断てば消えると踏んで。


 メルとの秘密特訓でウサギに対する恐怖心は以前に比べれば軽くなったが、それでもやはり本物のリーパーラビットを目にした時は冷たい汗が背中を伝った。幸い萎縮して動けなくなるほど酷くなかったのは、特訓の成果だったのかもしれない。


「メルのお陰で取りあえずは凌げたで御座るな」


 リグレスを倒したのにも関わらず、そこまで晴れやかな様子ではない真紅郎にメルも浮かない顔で答える。


「そうですか、やはりアレは本体では無いのですね外法の者とはいえチリひとつ残さずに消え去るのはおかしいですから」


「うむ、恐らくは、拙者の幽玄術とは違う、もっと異質な力を感じたで御座る」


 危機的状況は回避したが何とも言えない後味に二人して顔を顰める。


「……何にしても、私一人では無理でした。ありがとうございます旦那様」


「いやいやメルこそ頑張ったで御座るな。お陰で彩女も無事に救出することが出来たのだ、もっと誇って良いで御座るよ」


 真紅郎はそう言ってメルを褒めると頭を撫でる。

 撫でられたメルは嬉しそうに目を細めるとその感触を味わう。


 そんな二人の様子を眺めていた彩女。

 展開についていけなかったのかボーッとしていた。しかし正気を取り戻したらしく、二人に駆け寄り話しかける。


「メルさん、シンさん。ありがとう。正直もうダメかと思った」


「……彩女も良く頑張ったで御座るな。偉いぞ」


 真紅郎は彩女も褒めると、妹のように軽く頭をポンポンしてしまう。


「あっ……」


 その手に安心したのか彩女の緊張が緩み自然と涙が溢れる。

 それを見たメルが優しく彩女を抱きしめる。


「怖かったですよね。でももう大丈夫ですから」


 メルに抱きしめられ、さらに安心した彩女は泣き顔を見られるのが恥ずかしのか、自分の顔をメルの豊満な胸に押し付ける。


「……やっぱりこの胸は反則」


 しばらくしていつもの調子を取り戻した彩女がそう言ってメルから離れる。

 その様子を心配そうに見ていた真紅郎は少しホッとすると、本当は直ぐにでも帰りたいだろう二人に告げる。


「済まないがもう少しで親方達も来るはずだから、少しだけ待ってて欲しいで御座るよ」


 真紅郎の言葉にメルと彩女が頷く。


 真紅郎の言葉通りしばらくすると、法禅達が三人の元にやってくる。


 合流そうそうアーウィンが突っかかってきたが、真紅郎が軽くいなし状況を説明する。


 話を聞いていたマチルダが顔を歪ませると悔しげにツブヤク。


「くっ、やはり同じか」


「ふむ、同じと言うのは?」


 真紅郎はマチルダの言葉が気になり尋ねる。


「我々も何度かリグレスと対峙し今回のように撃破まで至った事があるのだ。ただ直ぐに奴は復活して雲隠れする。今回も同じなのかと思うと……」


「ならば情報を持っていそうな人物を締め上げれば良いのでは?」


 メルが何気なしに言う。


「なるほどアデルで御座るな」


 真紅郎が言った名前に、思わずアーウィンが食いつくが話が進まないので軽くいなされ、本題のメルからアデルとリリアンヌが気絶して戦闘不能になっている地点を聞き出す。


 アデルとリリアンヌの回収は法禅とマチルダ、アーウィンが請負い。


 真紅郎達は街に戻ることになり、メルの転移ですぐに街へと戻る事にした。


 街に戻ると隼人達の元へと向かい、彩女が無事だった事を報告する。

 隼人は涙と鼻水で顔をグショグショにしながら彩女に抱きつき無事を確認する。


 普段なら嫌がる彩女だが、この時は素直に隼人を受入れなるがままにされる。


 隼人がようやく落ち着いた所で、メルがアイテムボックスから切り落とされた腕を取り出す。


 真紅郎以外は若干引いていたが、メルが腕を治すという事を伝えると一気に期待へと変わる。


 腕があることで一からの再生ではなく【完全治癒パーフェクトヒール】での治療で隼人の腕は無事に繋がった。


 色々とあって疲れているだろう暁光メンバーを先に休ませ、真紅郎は法禅達の帰りを待つことにした。


 真紅郎は一人で待つつもりだったが、メルが離れたがらなかったので、結局二人で待つことになる。 


 ギルドで待っている間、周囲は神妙な空気の中で二人の周囲だけは別次元のように甘ったるい空気感をまき散らし周りを困惑さていた。


 そんな中で、ようやく法禅達が戻ると確保した人物の中にアデルがおらず、捕まえたのはリリアンヌだけだった。


 真紅郎としてはアデルの行方が気になったものの、夜も遅くなっていた為、事情聴取は明日行う事に決め、その日は宿に戻る事にした。


 そして欲日。

 真紅郎とメルの泊まる部屋の扉が慌ただしくノックされる。


 真紅郎が何事かと扉を開けると、顔面蒼白の隼人が焦った様子で真紅郎達に聞いてきた。


「彩女が、彩女がどこにもいないんです……もしかしてこちらにお邪魔していませんか?」と。




 

――――――――――――――――――


術式&スキル解説



暗黒雷光ダークライトニング

 上位闇系攻勢魔術式

 闇を纏った雷を圧縮して放つ黒の雷撃。



須臾閃迅シュユセンジン

 天之月影流奥伝

 縮地と無拍子を組み合わせた閃光迅雷の対となる技。回避不可のクリティカル攻撃。

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