第8話 ギルドへ
手に入れた報酬をメルが【
びん? →[酒湧の瓶]
ひかる玉? →[蛇龍の珠玉]
きんぞく? →[最上級玉鋼]
きば? →[邪龍の牙]
たんとう? →[霊刀・風薙]
そして確認出来た品々はどれも逸品ばかりだった。
先程の【
ギルドに戻れば鑑定人は居るが鑑定料が掛かる。
したがってメルのような鑑定の魔術式が使える者がパーティに居れば重宝される。
真紅郎は今更ながらにメルの優秀さに舌を巻く。
そして思う、なぜアデルはメルをあそこまてま軽んじていたのかと。
「どうされました旦那様?」
「いや、改めて思ったの御座る。何故アデル殿はメルを蔑ろにしていたのだろうと、これ程優秀なのに、まったくもって不思議で御座る」
真紅郎の言葉が、今更ながら冷遇されていたメルに対しての憤りから強くなる。
「ふっふ、ありがとうございます旦那様。でもあのパーティでは罠の解除や調査はカトレーヌが、鑑定はリリアンヌも出来ましたから。なにより夜伽を断っていましたのでそれが気に入らなかったのでしょう」
メルは何事もないように言うが、真紅郎の胸中にはどす黒い感情が渦巻いた。
真紅郎としても、アデルが元々女性関係にだらしないのは半年の付き合いでも理解していた。
しかし、まさか聖女にまで手を出そうとしていたとは思いもよらなかった。
そして、もしメルがアデルに抱かれていたならと嫌な想像が頭を過ぎる。
「旦那様。怖い顔をなさらないで、本当に彼には何もされてませんから。流石に無理やり私に迫って教会を敵に回す度胸は無かったようですから」
嫉妬で顔を曇らせる真紅郎をどこか嬉しそうに見つめながら、メルが諌める。
『まあ、確かにメルの純潔は拙者が……』
そう心のなかで呟いて、真紅郎はメルの言葉を思い返す。『教会を敵に回す』という言葉を、間違いなく合意の上ではあるが、そんなことは教会にとっては関係ないだろう。
問題なのは聖女としての力を奪った事であり、それが旗本の三男坊風情という事であると。
「……いまさらながら拙者とんでもないことをしてしまったのだな」
思わず呟いた真紅郎の言葉にメルが反応する。
「その、もしかして旦那様後悔されてますか?」
不安げなメルの言葉。
真紅郎は一瞬の戸惑いを悟られメルを不安にさせてしまったことを直ぐに悔いる。
「それは絶対に無いで御座る。宣言通り教会を敵に回そうともメルを渡すつもりは無いで御座るよ」
真紅郎はその意思を示すようにメルを強く抱きしめる。
「旦那様……嬉しいです。そこまで求められて。でも、だからこそ平和な新婚生活のためにも聖女メルセディアにはここで亡き者になるのです」
「ああ、そうで御座るな。なら報告する時は遺品などは有ったほうが良いで御座るな」
真紅郎の言葉からメルは手持ちの杖を渡す。
「では、ギルドにはこれを遺品としてお渡し下さい」
それは聖女の証ともいえる光輪の杖アウレオラで魔力増幅と結界効果を持つ
「良いので御座るか?」
「はい、そもそもそれを持ってると聖女だといっているようなものですし。ですから今後は護り刀としてこちらを持ち歩こうかと」
メルは言葉通り長年愛用してきた杖に未練はなかった。その代わりに取り出したのは先程オロチの宝箱から得た【霊刀・
「ふむ、見せて頂いても宜しいで御座るか?」
刀マニアの血が疼いた真紅郎が早速メルにねだる。
「勿論です旦那様」
鞘にも見事な装飾が施された刀をメルから受け取ると、真紅郎は早速抜いて刀身を眺める。
「ほお、両刃造の短刀で御座るか。これはどの流派にも属さぬ造り、おそらく
元は二人で手に入れた共有財産とはいえ、自分で言っていた国宝級の代物を簡単にメルに譲るあたり、真紅郎はメルに甘々だ。
「はい、それに鑑定したら魔力も備わっているようなので魔術をサポートしてくれるようです」
「おお、それなら尚更で御座るな」
「はい、ですからその……私剣術の心得が無いもので、今後刀の扱い方を教えて頂きたいのですが、宜しいでしょうか旦那様?」
メルに請われる真紅郎が嫌と言えるはずがなかった。
「もちろん、しっかりと教えるで御座るよ」
真紅郎としても短刀とはいえ素人が振り回すのは危険であり、護身にもならないので、しっかりと扱い方は伝授するつもりであった。
「やりました。これで旦那様は私のお師匠様にもなりますね」
メルが真紅郎に向ける屈託ない信頼の眼差し。
態度でも隠すことなく、その豊満な胸いっぱいに好意をぶつける。
「ふふっ、拙者は幸せ者で御座るな。こんな愛おしい嫁と可愛らしい愛弟子が同時に出来るなんて」
真紅郎はメルに応えるように抱きつくメルの頭を撫でる。
「わふぅ、えへへへぇ、旦那さまー」
はじめて頭を撫でられたメルは、嬉しさのあまり増々真紅郎にへばりつく。
そして帰還のためダンジョンから出ようと歩き出す真紅郎から離れようとしない。
「メル、流石に歩きにくいで御座るよ」
「大丈夫です旦那様。この封印の大広間から離れてくれればいいだけですから」
メルの笑顔に負けた真紅郎。
言われるままに封印エリアから離れる。
もちろんメルはへばりついたままで。
「この辺で大丈夫で御座るか?」
「はい旦那様。それじゃあ帰還しますね」
メルは【
すると真紅郎の足元に転移陣が描き出され、あっという間に出口付近へと転送される。
これはダンジョンにはじめて入ったとき、メルが帰還地点として指定していた場所だった。
そこからは流石に真紅郎から離れたメル。
ローブのフードを深く被り直すと真紅郎の後にピタリと付いてダンジョンを出る。
「拙者はこのまま冒険者ギルドに向かうで御座る」
「では、お供いたします旦那様」
真紅郎としては少し不安もあったが、メル自身も言っていた通り、誰も聖女の素顔を知らない。ならば彼女の正体がバレる可能性は低いだろうと考えて同行を許した。
「アデルが報告してれば今頃討伐隊が掻き集められている頃合いで御座るな」
オロチクラスの討伐隊の編成となると最低3日はかかると真紅郎は見ている。
そこで、いまさらながら思う。
もし、致しているところで討伐隊が来ていたらと……。
「……おそらくですがアデルの性格からそれは無いと思います」
しかしメルは、真紅郎の考えとは違っていた。
プライドの高いアデルは報告に向かわず、それどころか下手をすると逃げ出している可能性すら考慮していた。
実際にその考えは当たっているのだが、今のメルがそのことを知るはずもない。
「いや、それだとアデル殿の称号は……」
「はい、オロチを強引に蘇らせた事と含めカレイジャスの称号は剥奪されるかと」
真紅郎としてはさらに幻滅させられるような事をしてほしくはないのだが、メルに言われるとそちらの意見が正しいと思えてきた。
「まあ、ギルドに行けば分かるで御座るよ」
メルが頷く。
二人は急いで街に戻ると冒険者ギルドに向う。
イズモの街の東側にある、大きな建物が目的の場所だ。
しばらく歩いて建物に着くと中に入る。
中には数人の冒険者達が居るだけで、いつものように落ち着いた様子だった。
真紅郎は大きなため息を吐くと受付に向う。
メルは少し離れてその様子を見る。
「
真紅郎に話しかけられたアシハラ衣装の美人は親しい感じで言葉を返す。
「あらシンさん。アデルさんの帰還報告はまだですよ、もしかして代わりに来られたのですか?」
「いや、それなら来たかどうかの確認はしないで御座るよ」
「ん、確かにそうね。それじゃあどうしてそんなことを聞くの?」
「それはで御座るな……」
不思議顔の陽花に真紅郎はオロチの復活から封印までの経緯を説明する。
あまりの出来事に驚いて口を開けたまま動けなくなる陽花。
「あの……シンさん、それは本当なの?」
陽花としては、日頃から真紅郎が嘘をつくような人物ではないと分かっていた。それでも再確認せずにはいられなかった。
「残念ながら事実で御座る」
真紅郎はメルに言われた通り、彼女の遺品として聖杖アウレオラを手渡す。
「これは確かに聖女様の杖……そうですか事実なのですね」
悲しげに杖を見つめる陽花。
遠目に見ていたメルにもそれが分かり心苦しい気持ちになる。この半年お世話になった相手でもあるからだ。
「聖女殿が身を挺して封じてくれたオロチ。早急に封印塚の再構築の手配を、それと最後の偉業をローランフォード聖教会に報告して下され」
「分かりました。直ぐに……あとお手数ですが
「そうで御座るな。これほどの大事、親方にも伝えておかないとで御座るな」
真紅郎は納得すると陽花の案内を受け、二階でアシハラの地方都市イズモのギルドマスターである
―――――――――――――――――
アイテム解説
【酒湧の瓶】
アイテムランク:S
水をお酒に変える古代遺物。
お酒はまろやかで甘口。
【蛇龍の珠玉】
アイテムランク:A
オロチの瘴核の欠片が物質化した物。
魔導具や魔装の材料に使える。
【最上級玉鋼】
アイテムランク:B
アシハラ地方のダンジョンでのみ採れる特殊金属。その中でも最も良質な素材。
上質な刀を作るために必要。
【邪龍の牙】
アイテムランク:B
暗黒属性を持つ龍の牙。
加工すれば闇属性のアイテムが精製可能。
【霊刀・風薙】
等級:エンシェント
特性:迅速化/魔力強化/霊体特攻/風無効
風を切れると云われる短刀。
【光輪の杖・アウレオラ】
等級:レジェンダリィ
特性:魔力量強化/魔力増幅/自動聖結界/光属性強化
聖なる光を封じた常に光輝く魔導杖。
術式&スキル解説
【
汎用魔術
未確認アイテムを鑑定出来る。
【
汎用魔術
事前に指定しておいた場所に転移する。
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