第25話 提案
妹と妹キャラに二人の兄が翻弄されているうちに、遅めに起床した響之介と葵が二階の部屋から降りてくる。
いち早く二人に気付いた彩女が手を振り呼び寄せる。
手招きされて響之介と葵は、彩女達と一緒に真紅郎とメルが居ることが分かり、慌てて駆け寄る。
「真紅郎さん、メルさん。昨日はありがとうございす」
「私も、お陰で大事にならずに済みました。ありがとうございます」
二人から深々と頭を下げられ感謝を告げられる真紅郎とメル。その様子から陰鬱な雰囲気は見られなかったので彩女の言葉通りなのだろうと安心する。
「なに、拙者は手助けしたまで、あやつをぶちのめしたのは紛れもなく響之介で御座るよ」
「葵さんも、大丈夫そうですね。精神面で少し心配していましたけど」
真紅郎とメルがそれぞれに声を掛ける。
葵は、メルが懸念していたナイトメア症候群が発症してしまった事、それを響之介に助けられた事を語った。
「そう、でも良かった。ちゃんと精神面でも支えてくれる人が側にいるなら安心ですね。でも悪夢は突発的に襲ってくることもあるから追加で薬を渡しておきますね」
「何から何まで済みません。この恩をどうやって返せばいいのか」
葵が恐縮してまた頭を下げる。
「葵さん、そんなに畏まらないで下さい。私は力になれて嬉しいのですから、だって自分も同じ立場だったらと考えると……」
メルも一度オロチに辱められそうになった事があり、無理やり凌辱されそうになる恐怖というのは理解している。
だからこそメルは、損得なしで葵の手助けをしたいと望んだ。
それは聖女の仮面を脱いだ今でも、やはり聖女として育ってきた根幹は直ぐには変わらないということでもあった。
「そうそう、メルの人助けは趣味のようなもので御座るからな。いわば自分の為にやってること、一々恩義を感じていたら身が持たないで御座るよ」
真紅郎もメルに合わせておどける。
しかし、思わぬところで反撃にあう。
「それを言ったら真紅郎さんも、十分なお人好しじゃないですか。利もないのに俺なんかを助けて」
真紅郎は、響之介の言葉にしてやられたという表情を作る。
「うぐっ、これは響之介に一本取られたで御座るな」
そんなやり取りを見ていた葵が笑い声を上げる。
「あは、あはっはっ、本当に、それじゃあまるっきり似た者夫婦ですね」
「そっ、そんな似た者夫婦だなんて、いやん、照れちゃいます。ねっ、旦那様」
葵の言葉に先程までの元聖女の威光は失われ、体をくねらせ奇妙な形で喜びを表現するメル。
そんなメルを微笑ましく見守る真紅郎が頷き嬉しそうに笑う。
「ふっははは、似た者夫婦で御座るか、これは嬉しい言葉。その言葉を聞けただけで助けた甲斐があったと言うもの」
「そんな、もっとちゃんとした形で恩を返させて下さい」
響之介が頭を下げる。
「私からもお願いします」
隣の葵も同じように頭を下げた。
「その俺からも仲間を助けてもらった恩はキチンと返したい。出来ることなら何でも言ってほしい」
続けて隼人も頭を下げる。
それに習うかのように彩女も頭を下げる。
「私も兄ぃと同じ気持ち、キョウ君と葵は家族同然だから、ちゃんと感謝の気持ちを示させて欲しい」
「これこれ、頭を上げるで御座る。拙者は査察官としての任務を遂行したまでで……」
「旦那様。諦めましょう、彼らは私達が思っていた以上に義理堅く素晴らしい方達のようですから」
困り顔の真紅郎にメルが優しい眼差しを向ける。
「ふう、分かったで御座るよ。それなら夜のディナーを奢ってもらうのと」
「ディナーだけでは全然足りてません」
思わず響之介が声をあげる。
「最後まで聞くて御座るよ。あと一つ頼みたいことがあってな、それをお願いしたい」
「「はい、是非」」
響之介と葵が嬉しそうに顔を上げ答える。
「うん、いい返事、助かるで御座る。ではこちらがお願いしたい事たいうのは、しばらくの間そなたらのパーティに拙者達を加入させて欲しいで御座る」
真紅郎の提案に響之介を含めた四人がしばらくの沈黙の後、一斉に声をあげる。
「はい?」
「えっ?」
「なぜ?」
「ふぉあぃ?」
四人からすれば当然だった。
自分たちと真紅郎とメルの実力差は相当な開きがあり、Eランクのパーティに所属するメリットなど無いように思えたからだ。
そんな四人にメルの方から説明がなされる。
「まあ、疑問に思うのは当然かもしれません。実は訳あって私は冒険者登録をすることが出来ません。ですが私は旦那様と同行を希望していまして」
「成る程。他の既存のパーティだと色々と勘繰られると言うことですか?」
察しよく気付いた隼人が問い掛ける。
「ええ、誓って犯罪などのやましい行為ではないのですが、説明することも難しいので、その点、響之介君たちのパーティは信用出来ると思いますから」
「というわけで、こちらの事情に付き合ってもらう事になるのだがどうであろうか? もちろん断ってくれても……」
そう真紅郎が言い切る前に、前のめりで響之介がオーケーを出す、
「もちろん、是非お願いします」
「私も、それでメルさんと真紅郎さんの助けになるのなら」
葵も笑みを浮かべて承諾する。
続けて彩女も頷く。
「私も、もちろん了承。それで兄ぃは?」
「ああ、俺も異存はない。むしろ有り難い話ってもんだろう」
最後に隼人も了承し、暁光のメンバー全員が加入を承諾する。
「かたじけない。助かるで御座るよ」
メルのことを深く聞いてこない事も含めて頭を下げて感謝する真紅郎。
「私からもありがとう。これから宜しくお願いしますね」
メルも嬉しそうに笑うと頭を下げて感謝を示す。
すぐに隼人が反応して提案をひとつする。
「よし、それなら、夜は真紅郎さんとメルさんの歓迎パーティをしないとな」
「うん、賛成。早速場所を抑えなきゃ」
葵が場所の手配に動き始めようとする。
「なら、前に真紅郎さんと飲んだところはどうだ?」
響之介がそれに乗っかり場所の候補をあげる。
「いいわね。そうしましょう。彩女一緒に着いてきてもらえる?」
「うん、了解」
「それなら、私も同伴します。よろしいですよね旦那様?」
メルが葵と彩女と一緒に行くことを提案する。
「ああ、勿論構わないで御座る。折角なので甘いものでも食べて親睦を深めると良いで御座る」
真紅郎はメルの提案を受け入れ、快く送り出す。
「ふふ、さすがは旦那様です。お言葉に甘えて少しだけ楽しんできちゃいますね」
「そのメルさん……改めて相談したいこともあるので願ったり叶ったりです」
「なんだか刺激的でドキドキする話の予感」
女性陣は三人そろえばの言葉通りワイワイ話始めながら宿屋を後にする。
残された男性陣は三人を見送ると、隼人が話を切り出した。
「じゃあ、俺達はギルドに行って加入手続きしてこようぜ」
「あっ、それなら報酬の条件とかを決めないとですね。俺としては真紅郎さんとメルさんの取り分は多めで良いと思います」
パーティにおける重要な分配契約。
響之介的には恩義もあるので優遇して受け取ってほしかった。しかし自分に有益な筈の提案に真紅郎が難色を示した為、結局報酬は均等に五等分に分けることになった。
ギルドに向かう道すがら響之介がひとり愚痴る。
「はあ、せめてメルさんの分配は受け取ってほしかったなー」
響之介の言葉通り、真紅郎はメルの分の配当は、あくまで同行者である立場から受け取りを拒否した。真紅郎としてはギルドの規約を律儀に守っただけなのだが、全然恩を返せている気がしない響之介としては煮えきらない思いだった。
「ワッハッハ。良いではないか響之介。人として仁義は大切で御座るが、冒険者としては、色々な意味での目敏さも大切な素養。今後あのような男に漬け込まれない為にも、上手く拙者を利用してみせるで御座るよ」
そんな響之介の愚痴を笑い飛ばしながらビシバシと背中を叩く。
「真紅郎さん、響之介ばっかり可愛がってズルいですよ、俺だって同じパーティになるんだから、色々な事を教えてくださいよ」
そんな様子を羨ましく思ったのか隼人も話に絡んでくる。
「うむ、ならばしばらくはみっちりと弱音も吐けぬくらいには鍛えてやるで御座るよ」
真紅郎は、そう言って響之介と隼人の二人を見て不敵に笑ったのだった。
―――――――――――――――――――
◇
読んで頂きありがとう御座います。
そして評価して頂いた方には感謝を。
お陰様で☆1000突破しました。
これも読んで頂いてる皆様のご助力の賜物です。
応援の感謝として記念のSSなど公開出来ればと考えております。
具体的なのは難しいので大まかな要望などがあれば参考にさせて頂きますのでコメント下されば嬉しいです。(例:もっとエチエチなの、ひたすらイチャイチャなどなど)
あと、コンメント頂いてる皆様、すぐに返信出来なくて済みませんです(_ _)
それから、いつもながらですが
作者のモチベーションにもつながるので。
☆でも☆☆でも構いませんので少しでも面白いと思って頂けたら評価してもらえると嬉しいです。
もちろん☆☆☆を頂けたらもっと、もっと喜びますので、どうかよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます