第26話 不届き者の末路

 ギルドに到着した真紅郎達。


 待ち受けていたかのように陽花から声が掛かる。


「シンさん、丁度良いところに。昨日の件で話があるの」


「ふむ、この者達には聞かせれぬ内容で御座るか?」


 真紅郎が一緒に来ていた二人に視線を向ける。

 陽花も視線を追うように二人を見て頷く。


「構わないわよ当事者達だし、聴取もまだですから」


 聴取と言われた響之介が深刻そうな表情に変わる。


「あの、状況とかは俺が説明するので、その葵には配慮してやって下さい」


 響之介的に、まだ葵に昨日の出来事について話をさせる事は、精神的にキツイと判断しての事だった。 


「概ねの状況は聞いているわ、こちらも傷口を抉るような不躾な事などするつもりは無いので安心してください。それに証言などなくとも、もう真っ黒確定ですから。そうですね、それについても話をさせてもらいますのでついてきて下さい」


 陽花に促され三人は二階へと進むと、応接用の広いソファに座るよう促される。


 正面に陽花が、綺麗に背筋を伸ばした姿勢で座る。ただそれだけの事にも関わらず辺りの空気が凛とした清らかなものに変わる。

 真紅郎は見慣れている感もあり、特に何ともないが、響之介と隼人は思わず見入ってしまう。


「それでは、まず昨日の状況の補足として話を聞かせて頂きます。それでは響之介さん……」


 陽花は響之介から昨日の状況の聴き取りを始め、居合わせた隼人にも色々と質問しながら状況を纏めて行く。


「成る程。ご説明、ありがとうございました。それで事務的な確認になりますが、ラード氏を訴えるつもりは」


「もちろん、あります」


 響之介が即断する。


「かしこまりました。まあ今更罪状が一つ増えたところでアレが今後シャバに戻ることは無いでしょうけど」


「なんと、もしかしてアビスの採掘所送りで御座るか」


 陽花の言葉から察しが付いた真紅郎が驚く。

 

「はい、その件についても説明しますね。アレもといラード氏には今回の件以外にも余罪が分かっているだけでも十件ありました。その内の八件がウィンドランド内で、聖戦士としての称号を笠に来た犯行だったようです」


「何だと、あの野郎。葵だけじゃなくて他にも手を出していたのかよ。くそっ、やっぱりあの時彩女の言葉を信じて断固反対すれば良かったぜ」


 実はラードがパーティに加入する際に、勘が働いたのか彩女だけは難色を示していたのだ。

 その事に今更ながら隼人も過去を悔やむ。


「仕方ありません。表の顔は称号通りで、とても紳士的だったようですし。ただ、ここまでアレをのさばらせたのは、間違いなくギルドの失態です。冒険者を守る立場にありながら情けないことです。申し訳ありません」


 そう言って陽花さんが響之介と隼人に頭を下げて謝罪する


「頭を上げて下さい。いち早く真紅郎さんに査察依頼を出して頂いたお陰でこちらは助けられたんですから、むしろ礼を言うのはこちらの方です。本当にありがとうございました」


 逆に謝罪された陽花が目を丸くする。


「……まさか、まだこんな真っ直ぐなままでいられるなんて、イイ、素晴らしいです」


 普段からがめつい冒険者達ばかりを相手にすることが多いい陽花からすると、スレていない響之介達は眩しく見えた。

 

「あ、ありがとうございます。それでアイツの件なんですが」


「済みません説明が途中でしたね。つまりアレは今までも女性冒険者。特に駆け出しの若い娘を狙って騙してもて遊んだ挙げ句、飽きたらデクスター商会へ奴隷として売り飛ばしていたようでして」


「聖戦士の名も地に落ちたもので御座るな」


「ええ、判明している罪状だけでも十分アビス送りは免れません。あともちろん散々女を喰い物にしてきた罰として、ギルド憲章に従い去勢は当然てすが……まあ、私としてはむしろ生ぬるいくらいと考えております」


 ここに居ないラードに対し、陽花は心の底から不快感を示す。


「いやいや、女好きならある意味で死んだほうがマシかもしれぬぞ。去勢された羊が猛る狼の群れに放り込まれるわけで御座るからな。ヤツの容姿も悪くないゆえ……」


 真紅郎が辿るであろうラードの未来を濁して伝える。


「……あの、無知で申し訳ないのですがアビス送りとは何ですか?」


「それはですね。響之介さんは偉大なる深淵グランド・アビスは知っておいでですか?」


「はい、もちろん冒険者としては目指したい場所の一つですから」


 響之介の言葉通り多くの冒険者が偉大なる深淵グランド・アビスの探索を夢見る場所である。しかし現在は、A級以上で無ければ立ち入る事が出来ない最高峰のダンジョンのひとつである。


「高い志、イイです……っとまた話が逸れる所でしたね。えっとその偉大なる深淵のフロアに鉱物エリアがありまして、そこから採掘されるレアメタルを休日無しで延々と掘り続ける重労働を科せられるのです。今回の刑期を考えるとざっと百年以上といったところでしょうか」


「それはエルフでもないかぎり刑期を終えるのは無理なんじゃ」


 響之介が率直な意見を述べる。

 陽花は険しい表情のまま頷く


「ええ、まあ仮にエルフの血でも引いていれば魔導ギルド送りだったでしょうね」


 響之介も魔導ギルドは知っている。

 冒険者ギルドに並ぶ世界規模の組織。

 ライフフィールドも元は魔導ギルドの発明であり、冒険者ギルドとは持ちつ持たれつの関係だ。

 その中でまことしやかに囁やかれている噂として罪人を人体実験に使っているというものがある。そのことはこ響之介も知っていたので、少し寒気がした。


「どちらにしろ、もうあいつに明るい未来は無いということだな。あんな奴の事はとっとと忘れるのが一番だ。なにせこれからは真紅郎さんという、信頼できる上に、心強い人がパーティメンバーになるんだからな」


 一緒に話を聴いていた隼人が嬉しそうに響之介の肩を叩く。


「ああ、そうだな」


「えっ、シンさん、この子達のパーティに加入するの?」


 陽花からすれば、真紅郎がパーティに加わるのはラードの事を調べるためだと考えていたため、事件が解決した今となっては加入する意味が分からなかった。

 真紅郎のランクを考えれば、響之介達のパーティとは実力差があり過ぎるため釣り合いが取れないからだ。


「左様、これも何かの縁。しばらくは響之介の所で皆を見守ることにするで御座るよ」


 そう言って楽しそうにしている真紅郎を陽花が見る。

 陽花はいかにも真紅郎らしいなと思いつつ、やっぱりお人好しは治らないなと、心の中でため息を吐くのだった。




第一章[完]


 

―――――――――――――――――――


読んで頂きありがとう御座います。

そして評価して頂いた方には感謝を。


次回から新章に入ります。

引き続き読んで頂ければ嬉しいです。



それから作者のモチベーションにもつながるので。


☆でも☆☆でも構いませんので少しでも面白いと思って頂けたら評価してもらえると嬉しいです。

もちろん☆☆☆を頂けたらもっと、もっと喜びますので、どうかよろしくお願いします。



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