第24話 シスコン

 聖戦士ラードを捕まえた翌日。


 昨日のうちに冒険者ギルドに報告を済ませていた真紅郎は、少し遅めの朝を済ませると、メルと共に木漏れ日亭へと向かう。


 メルの美貌は目立ちすぎるため、ローブのフードを深めに被っている。しかし、相変わらず主張の激しい豊満な胸は隠しようがなく、身に着けているビスチェと相まって自然と人目を集めてしまう。特に男共の。


 そんな視線など気にもとめない程、上機嫌なメルは真紅郎の腕に掴まり、積極的に体全体、特にその胸を押し付けるようにして歩く。

 真紅郎としては当然、歩きにくいのだが、所詮は男である。惚れた女に寄りかかられて悪い気はしない。


 そうして傍目にはイチャイチャと歩いているようにしか見えない二人が店に着く。

 中に入ると、丁度見知った人物が食堂側に居るの気が付いた。

 真紅郎達は早速近くまで寄り声を掛ける。


「やあ、隼人殿、彩女殿、昨日は途中で抜け出して済まなかったで御座るな」


「隼人さん、彩女さん、こんにちは、あの後は大丈夫でしたか?」


 二人に声を掛けられた隼人と彩女。

 座っていた隼人は立ち上がると深々と頭を下げて挨拶をする。


「真紅郎さんに、メルさん、昨日はありがとうございます。貴方達が居なかったらあの二人は……本当に助かりました」


 彩女も隼人に習って立ち上がるとチョコンと頭を下げると心配そうなメルに状況を伝える。


「二人はもう平気。むしろ雨降って地固まる。宿屋の店主にも『昨日はお楽しみでしたね』と揶揄されていいかも」


 彩女の言葉に、自身にも心当たりのあるメルが顔を赤くして俯く。


 その事に目敏く気付いた彩女は悪戯な笑みを浮かべる。


「フフ、メルさん、初心でカワイイかも」


「おい彩女。余り大人をからかうんじゃない。大体お前なんて彼氏すら居ないだろう」


 嗜めるように隼人が彩女を注意する。


「ん? 彼氏は居ないけど、そういう友達は居る」


 しかし、返ってきた彩女の言葉に隼人の気配が激変する。


「なっ、誰だそいつは、妹を誑かす不届き者。そんな奴は俺が叩き潰してやる」


 それを見たメルが、転生者について書かれた本の内容を思い出す。


「旦那様、旦那様。これが噂に聞くシスコンというやつですよ」


「しすこんで御座るか?」


「はい、妹が好き過ぎる兄の事を異世界ではそう呼ぶそうです。そしてその逆として、兄を好き過ぎる妹をブラコンと言います。見た様子だと彩女さんは違うようですが」

 

「うむ、拙者にも妹が居るで御座るが良く分からぬ感覚で御座るな」


 実際に妹が居る真紅郎だが、良く分からず首を傾げる。


「えっ、そうでしたか、ある意味ホッとしました。あっ、でも、もし、もしですよ……私が妹だったらどうでしたか、その、お・に・い・さ・ま」


 メルが照れながらも、なんとなく悪戯っぽく言ってみる。

 メルの言葉にまるで時間が止まったかのような真紅郎。


「まっ、不味いで御座る。そうなったら拙者はきっとシスコンになってしまうで御座るよ」


 ようやく真紅郎が動き出すと慌てたように言う。

 

「ふっふ、それなら私は重度のブラコンになっちゃいますね。お・に・い・さ・ま!」


 そんな様子を見て悪戯が成功したみたい笑うメル、それは正に小悪魔な妹そのものだった。


 そんな二人を冷静さを取り戻した隼人が見ていた。

 真紅郎とメルは今更恥ずかしくなって少し目を逸らす。


「こほん、あー、あの俺はそのシスコンと言うやつじゃありませんから」


 どうやら話が聞こえていたらしくシスコンであることを否定する。


「いや、兄ぃは、メルさんの言うシスコンだと思う、もう少し妹離れするべき」


「なっ、なんですと」


 隼人は否定した矢先に、妹から、その事を否定される。


「だいたい、妹の交友関係まで口出しするのは、兄として行き過ぎ」


「いや、しかしだな。兄としては妹がその、なんだ、体だけの友達付き合いは、あまりよろしくないと思うわけで」


 隼人は先程の件を引き合いに出しつつ、面と向かうことが出来ず視線だけを彩女に送る。


「んん? 私はそんなふしだらじゃない。兄ぃ何を勘違いしている?」


「はあ、それこそ何を。お前言ったよな彼氏は居ないけど、友達は居るって」


「あっ、確かに言った。でもそれは、彼氏は居ないけど、ちょっと大人な話をする友達が居るって意味で」


 どうや彩女が言葉足らずが原因で隼人が勘違いしてしまったということらしい。

 ただ真紅郎とメルも、あの話の流れなら隼人が勘違いしても仕方がないなと同情する。


 彩女も勘違いさせたのは自分にあると分かったようで素直に謝る。


「勘違いさせる言い方して、その、ごめんね……お・に・い・ちゃ・ん!」


「なっ、お前」


 慣れない呼び方をされ戸惑い顔が赤くなる隼人。

 悪戯成功とばかりにペロッと舌を出して笑う彩女もまた、小悪魔な妹だった。





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