第10話 新しい出会い

 法禅と話を終えた真紅郎は一階に戻る。

 その時、メルは若い冒険者のひとりに話しかけられていた。


 話しかけていたのは、見た目十代位の幼さは残るものの顔立ちが良い刀剣士の青年だった。


「あの最近こちらにこられた方ですか?」


 男の質問にメルはフードを深く被ったまま頷いて応える



「あの俺達も最近イズモに移籍したばかりでして、自己紹介させてもらうと、俺はパーティ『暁光ドーンライト』のリーダーで山永響之介ヤマナガ キョウノスケと言います。その佇まい術士の方ですよね、是非俺達のパーティに入ってくれませんか?」


(ぶるぶるぶる)


 真紅郎を待っていただけのメルは思いがけないスカウトに首を大きく横に振って拒否する。


「そこを何とか、俺達術士が一人しか居なくて後衛が手薄で、雰囲気からして只者じゃないのは分かります。なんなら取り分を多めにしても良いので」

 

 熱心な勧誘に後退りしながら必死に手をバツにして拒否するメル。


 余りにも熱心過ぎて響之介が思いがけずメルの肩を掴もうとする。


「そこまでで御座るよ」


 真紅郎が間に入り響之介を止める。

 安心したメルが思わず真紅郎の腕に飛びつく。


「あっ、貴方は」


 真紅郎の顔を見た響之介が驚いた表情を見せる。


「ん、拙者を知っているで御座るか?」


「知ってるも何も松比良真紅郎様ですよね。天之月影流の……二年前の御前試合見てました」


 メルを熱心に勧誘していた響之介の目が輝きに変わる。


「なるほど、確かに二年前御前試合に出たで御座るな、でもあの時は一試合終った後で棄権したはずで御座るが」


 真紅郎は昔を思い返し首を傾げる。


「ええ、でも刀を握るものならあの一試合を見れば分かります。あの時、貴方だけ別次元でしたから」


 しかし響之介は首を横に振るとキラキラした瞳を真紅郎に送り続ける

 メルはなんだがそれが面白くないと感じ思わず声を出してしまう。


「アナタは旦那様では無く、私に用が有ったのではないのですか? まあ、答えはノーですけれど」


 はじめて響之介に対して口を開いたメル。

 

 しかし響之介はそんなメルの声や、断られた事より別の言葉に反応する。


「えっ? 旦那様って?」


「彼女は拙者の婚約者で御座るよ」


 響之介の疑問に対し、すかさず真紅郎が事実を告げた。

 メルも真紅郎も気持ち的には夫婦なのだが、挙式も婚姻申請も済ませていないので、対外的には婚約者でも間違いないだろう。


「なっ、なんと。まさか松比良様の未来の奥方様とは知らずに大変失礼しました」

 

 真紅郎の言葉に驚いて響之介が深々と頭を下げる。


「みっ、みっ、未来の奥方様だなんて〜、えへっへへ〜」


 今度は響之介の言葉でメルが嬉しさに悶絶する。

 そんなやり取りをしていると、ギルドの扉が開き、赤褐色の髪をした娘が入ってきた。

 その娘は周囲を一度見回すと一直線に真紅郎達の方に向かってくる。

 そして響之介の少し後ろまで来ると声を掛けてきた。


「ねえ、キョウ。加入してくれそうな術士の人見つかったの?」


 愛称で響之介を呼んでいたことから親しい間柄なのだろうと真紅郎とメルも理解する。


「いや、そのちょっと今日も厳しくて」


 頭を掻きながら苦笑いして、響之介がその娘に説明する。


「はぁ、本当にアンタは頼りないんだから、少しはラードさんを見習いなさいよね。全く、仕方ないから私も手伝って上げるわ、感謝してよね」


 真紅郎からすると赤毛の娘が高圧的な態度で響之介を威圧しているようにしか見えなかった。

 しかし、メルからすると違っていたようで、真紅郎の腕をグイグイと引っ張り、しゃがむように促すと耳元で囁く。


「旦那様、旦那様、これが噂に聞くツンデレと言うやつですよ」


「つんでれで御座るか?」


 真紅郎には馴染みの無い言葉だった。

 もともとは転生者の世界の俗語で、実はメルもたまたま冒険中に手に入れた本の中で知った言葉だからだ。


「なんと言いますか、キツめの照れ隠しのようなものですね」


「うむ、しかし拙者はメルのように素直に甘えてくれるデレデレの方が良いで御座るなー」


「もう、旦那さまったら、そんなこと言うと一杯甘えちゃいますからね」 


 真紅郎とメルは小声で話しているにも関わらずイチャついている雰囲気が伝わったのか、すこし引き攣った顔の娘が二人に視線を向けていた。


「それでこちらの方々は誰なのよ? 随分親しげに話していたみたいだけどさ」


 ツリ目と腕を組んでこちらを見る態度から、勝ち気そうな雰囲気は真紅郎にも感じられた。


「そうそう凄いんだよ、こちらの方誰だと思う?」


「いや、知らないから聞いてるんじゃない」


「あっ、そうだった。ごめんごめん、えっとね聞いて驚かないでよ、こちらにおわすお方はなんと……」


「なんと?」


「なんと……………」


「なんと?」


「なんとおぉぉぉお」


「えーい、引っ張りすぎよ、早く紹介しなさいよバカ!」


 赤毛の娘がそう言って響之介の頭をはたく。

 それはまるで商業都市サカイで行われている大衆演芸の夫婦漫才のようなやり取りだった。そんな二人に思わず真紅郎とメルがクスリ笑いしてしまう。


「あっ、ほら笑われちゃったじゃないの、もうこれだからキョウと一緒だと……もう、これがラードさんならスマートに紹介してくれてたのに」


 響之介は一瞬苦笑いすると、すぐに笑顔に戻り、改めて二人を紹介する。


「こちらは松比良真紅郎様。そしてお連れが婚約者の方だよ。そしてこちらの騒がしい娘は慈法院葵ジホウインアオイで俺の彼女です」


「ふっふん、幼馴染の腐れ縁のよしみで付き合ってあげてるんだから感謝してよね」


 メルから言われた事を念頭に置いて真紅郎は葵を見てみる。すると不服そうに背けた顔から、赤味がかって照れてる様子が伺えた。


『なるほどで御座る!』


 こうして、真紅郎は少しだけだがツンデレを理解出来たのだった。

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