第30話 四人で仲良く

 ローランフォード教会関係者の元から戻ってきた真紅郎は、事のあらましをメルへ報告していた。


「えー、旦那様。あのアーウィン君と喧嘩してきちゃったんですか」


「いや、いや、喧嘩ではなく仕合で御座る。それよりも、やはりメルはアーウィン殿を知っていたのだな」


 真紅郎は、アーウィンが聖女メルセディアを特別視していたことを感じ取っていた。


「はい、私が聖女になってアデル達と旅立つまで、私の守護騎士の一人でした」


 実際に関係性を聞かされ、納得すると同時に形容できないモヤモヤとした感情も渦巻く。


「あっ、旦那様。いま嫌そうな顔をしました」


「いや、それは……」


「ふっふ、旦那様も言っていましたが好きな相手が自分の事を思って嫉妬してくれるのは、悪いものではないですね」


 メルに指摘され改めて自分が嫉妬に近い独占欲を抱いていたことに気付く真紅郎。


「はぁ。まだまだ、拙者も未熟で御座るな」


「そんな事ありませんよ。だってアーウィン君に勝ったのですよね。聖銀と言えばローランフォードでは守護騎士での最高ランクの称号ですよ。流石は旦那様です」


「いやいや、未熟なのは精神面で御座るよ。安い挑発に乗り、安い挑発を仕掛けてしまった……本当に情けないで御座る」


 メルに話をしたことで、客観的に自分を振り返る形となり自己嫌悪に陥ってしまう真紅郎。


 そんな真紅郎をメルはそっと抱きしめる。


「旦那様は私のことを思って行動してくれた。そんなとことして下されたら……増々好きになるというものですよ」


 優しい言葉と、抱きしめられたことで感じる柔らかな感触。真紅郎はたまらず強く抱きしめ返す。


 いつもの如く、ダダ甘空間が展開されようとした矢先。部屋をノックする音と共に響之介の声が響いてきた。


「あのー真紅郎さん。戻られたのでしたら一度ギルドに向かいませんか」


「ふっふ、響之介君。昇格して凄く張り切ってますね」


 メルが優しく微笑みながら、そっと真紅郎から離れると隣に寄り添う。


「分かった。すぐに行くので下で待っていて欲しいで御座る」


「分かりました。それじゃあ下で待ってますので」


 響之介がそう返事をして遠ざかっていく。


 真紅郎は、その気配を察した後すぐさま隣のメルを抱き寄せる。

 少し驚いた顔をメルに対して、遠慮なしに唇を奪い濃厚な口付けを交わす。


 不意打ち気味にキスをされ、それでもうっとりした表情のメルに真紅郎は微笑みながら告げる。


「慰めてくれた女房殿に感謝を伝えたくてな」


「もう、ズルいです旦那様」


 口ではそう言いながらも表情は満更でもないメル。


 真紅郎はそんなメルの手を取ると部屋を出て響之介達の元に向う。

 下に降りると響之介と葵が待っており、二人もすぐに真紅郎とメルに気が付く。


 さらに葵は別の事にも気がついたようで隣の響之介に耳打ちする。


「ほら、やっぱりお邪魔だったんじゃない」


「えっ、でもまだお昼を回ったばかりで」


「あの二人に時間と場所なんて関係ないでしょう。気が付けけば何時でも何処でもイチャついてて、うらやま……こほん、見境ないのは知っているでしょう」


「確かに、否定は出来ないけど……」


 響之介も最近は、真紅郎とメルが二人だけの世界に入ったとたん、人が変わったようにアマトロになる事は理解しつつあった。


「否定は出来ないけど……どうしたのかな響之介君」


 いつの間にか響之介の近くまで来ていた笑顔のメル。

 類まれなる美貌の持ち主が笑顔で話し掛けてきているにも関わらず、響之介は得も言われぬプレシャーを感じてしまう。


「いや、その……真紅郎さんとメルさんがいつもの仲睦まじくて素敵だなと、その俺と葵もお二人が憧れですから」


 勿論憧れというのはバカップルとしてではなく、あくまで剣士と魔術士としてである。

 響之介としてはは上手く誤魔化せたと思っていた。


「やだぁ、旦那様聞きましたか、響之介君たちが私達のことを理想の夫婦だって、きゃー、恥ずかしいですね」


 しかし、何故かそれはメルに拡大解釈されて伝わり。


『えっ、響之介って本当は見境なしに、所構わずイチャイチャしたかったの……えっと、よし、それなら恥ずかしいけど……』


 葵にも間違った解釈をされてしまう。

 

「ふん、キョウがそこまで言うのだったら特別にその……えっと……人前でもイチャイチャするの許して上げるんだから。でも、いい特別よ、特別、キョウだけのキョウスペシャルなんだからね」


 そうして、内心とは裏腹に、相変わらず素直にデレる事の出来ない葵の言葉として紡ぎ出される。


 その結果として、互いの想い人にベッタリとくっつかれたままギルドに向かうことになった真紅郎と響之介。


 道すがらに向けられる嫉妬や冷やかしの視線に慣れていない響之介は、精神力をゴッソリと削られてしまう。

 対象的に真紅郎はというと、もはやそれが当たり前の日常とばかりにキャッキャウフフとメルと楽しそうにイチャつきながら歩いて行くのだった。

 


 


―――――――――――――――――――


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