第31話 ギルドにて


 真紅郎達がギルトに到着すると珍しく人集りが出来ていた。

 その中心には金髪碧眼の絵に描いたような美男子と、濃いストロベリーブロンドの長髪が特徴的な背の高いモデルのような美女が居た。


 ギルドには余り似つかわしくない華やかな二人を横目で流し見ながら真紅郎と響之介はクエストが張り出されている掲示板へと向う。

 葵も一瞥しただけで興味なさげな様子を見せる。

 ただメルだけは何故かフードを深く被り直し真紅郎にギュッとしがみついた。


 そうして四人で手頃なクエストが無いかを吟味していると、カウンターに居た陽花から真紅郎に声が掛けられた。


「シンさん、少しよろしいでしょうか?」


 陽花がカウンターから声を掛けて手招きする。


「ああ、構わぬで御座るよ」


 邪魔にならないよう、真紅郎の言葉と共にメルは掴んでいた手を離す。

 陽花の元に向う真紅郎の背に一度だけ視線を送ると『行ってらっしゃい』と声にしない言葉を投げかける。

 まるで真紅郎はその声が聞こえていたかのように一度だけ振り返ると笑顔を返す。


「あれってさ、まるで固有スキルだよね」


 そんな一瞬の出来事を目聡く観察していた葵が冗談で話し掛ける。


「はは、確かにあの二人は特別だよね」


 そんな言葉に少しだけ羨ましさを感じた葵。

 それを感じ取ったのか響之介がそっと手を握る。


「どっ、どうしたのよ急に」


「いや、何となく葵がそうしてほしいような気がして」


「……もうばかぁ」


 赤くなって顔を逸らす葵だが、繋いだその手には強く握ったまま離そうとはしない。


 そして今度はその様子をしっかりとメルが見ていた。


「ふっふ、本当に仲良しですね。見ているこっちが恥ずかしくなっちゃいますよ」


 微笑ましく告げたメルの言葉に、響之介と葵は同じ事を思った。


『貴方達には言われたくないです』と。


 流石に声にしてすることは出来ず、苦笑いで返す二人。

 そんな二人を少し不思議そうに見ていたメルだったが、良さそうなクエストが目に入りそっちに気が向く。


「……このクエストなど、どうでしょうか?」


 メルが指差したクエストを響之介達も見る。


 クエストの内容は、イズモの近隣の農村からの依頼で魔獣化した獣の討伐依頼だった。


「魔獣ですか、人的な被害が出れば領主様の兵が動くでしょうが」


 葵が顎に手を当てて考える。


「はい、でもそうなってからでは遅いですからね」 


 メルが少し悲しげに呟く。


「良いと思います。治安維持活動は補助金も出て報酬も良いはずですから。俺は賛成です」


「隼人と彩女からはクエストの選考は任せると言われてるから、キョウが良いなら私は構いませんよ」


「それじゃあ、後は旦那様の意見を聞いて……」


 メルはそう言ってカウンターに居る真紅郎に目を向ける。


 その視線の先の真紅郎は陽花から指命依頼をお願いされていた。



「シンさん。実はローランフォード聖教会の使者から指命依頼が来ておりまして。その内容が再封印されたオロチ塚の今の状況を確認したいというもので」


「ふむ、意図が読めぬで御座るな」


「先方が言うには、聖女様の偉業をしっかりと目に焼き付けておきたいとの事でして」


 陽花としてもローランフォード側の真意を測りかねているようで、表情を曇らせる。


「兎に角。一度話を聞くで御座るよ」


「ありがとうございます。ギルドとしては理由なく依頼を突っぱねる事は出来ないもので。ただ受ける、受けないはシンさんが判断して下さって構いませんから」


 陽花は真紅郎にそう告げると人集りの中心にいた美男美女を呼び寄せる。



「シンさん。こちらが依頼の代表者で同行を希望しているアーウィン様とマチルダ様です」


 紹介された聞き覚えのある名前に真紅郎が少し驚く。真紅郎と仕合った時は兜で顔まで見えなかった為素顔は分からなかったからだ。


「先程ぶりだな真紅郎殿。改めて自己紹介しようローランフォード聖教会所属の神官騎士マチルダだ。そしてこっちが」


「アーウィンだ」


 不貞腐れとようにそっぽを向いたままアーウィンが名乗る。


「おお! それがアーウィン殿の素顔で御座ったか。いやいやどうしてかなりの色男。マチルダ殿もここまで美しい方だったとは想像付きませなんだ」


「ふふっ、存外に真紅郎殿は口が上手なのだな。あなたの方こそ、泣かせた女は一人や二人ではないのでは?」


「いやいや、拙者など朴念仁も良いところで御座るよ」


 そして隣でその話を聞いていた陽花は心の中で呟く。


『はぁ、その朴念仁ぶりに泣いた女は数知れずですけどね』


 そんな陽花の様子に気付いたのかマチルダが何やら意味深な笑みを浮かべる。


「ふっふ、まあそういうことにしておきましょう。それより本題ですが、オロチ塚の最下層までの案内役をお願いしたいのだが」


「ふむ、同行者はマチルダ殿とアーウィン殿お二人かな?」


「希望者は他にもいたのだがね。難関ダンジョンと聞いていたので、腕に覚えのある私と、同格のアーウィンだけにさせてもらった」


「なるほど、実力的には問題なさそうで御座るな」


 真紅郎は仕合をしたときのアーウィンの剣の腕から判断して答える。


「ふん、剣の勝負で勝ったくらいで調子に乗るなよ、我々は魔術も使える神官騎士、総合力なら剣だけのサムライなどに負けはしない」 


「ほお、それは頼もしい。しかし三人でもオロチ塚は厳しいで御座るよ」


 真紅郎は煽られることなく冷静に答える。

 メルと話したことで己の未熟さを実感したことが大きい。


「あの、シンさんが依頼をお受けするなら親方も同行するとのことです」


 フォローするかのように陽花が伝える。


「親方?」


 ギルドメンバーではないマチルダが尋ねる。

 アーウィンはそっぽを向いたまま興味なさげな態度だ。


「ああ、すいませんいつもの癖で、親方というのはギルドマスターの事で一流の魔術士ですよ」


「なるほど、ではその方が同行してくださるなら」


 マチルダは期待に満ちた目で真紅郎を見る。


「うむ、親方が同行して下さるなら問題ないで御座るな。もしかしたら転移も使えるかもしれないで御座るよ」


「はい、ギルドマスターなら再封印時に最下層まで行っているはずなので問題ないかと」


 陽花が補足して話をする横からアーウィンが口を挟む。


「じゃあ、別にこんなサムライ雇わなくてもそのギルドマスターが居れば良いんじゃないか」


 アーウィンの言う通り封印塚を確認するだけならそれで問題ない。

 しかし、陽花はハッキリと告げた。


「ギルドマスターが同行する条件はシンさんが依頼を受託した場合のみです」


 これにはギルド側の思惑もある。

 それは封印を解くなどというバカげた事をギルド最高位のカレイジャスの称号を与えられたパーティがやらかした事に起因する。

 本来、最もそんな事をするはずが無いと信頼していたパーティが、信頼を裏切った。


 つまり、聖教会であろうとギルド側は信用していないのだ。

 同じ轍を踏まないよう。

 依頼を受ける条件としてギルドマスターと真紅郎二人の抑止力が必須と判断したのだ


「なるほど、なら尚更お願いしたい真紅郎殿。私達に聖女様の……最後の地に祈りを捧げるチャンスを与えてはくれないだろうか」


 マチルダが潤んだ瞳で訴えかけてくる。

 そんな美女の涙ながらの訴えを普通の男なら無下には出来ないだろう。

 しかし、真紅郎としてはそんなことよりも罪悪感を覚えていた。

 なぜなら、聖女は元気にピンピンとしているからだ。

 だからだろう思わず視線をメルの方に向けてしまったのは。


「おや、あちらの方がどうかされましたか?」


 そんな僅かな視線の動きに気付いたマチルダが真紅郎に尋ねる。


「いや、彼女は拙者の婚約者でな、周りにいるのは現在所属しているパーティのメンバーで御座る……なのでな拙者としては問題ないのだが一応皆にも承諾を得ねばと思ってな」


 真紅郎としては咄嗟に誤魔化したのだが、言い得てその通りだと気付く。


「ならば私達からもお願いしないと、行きますよアーウィン」


「はあ、なんで俺がそこまでしないといけない」


 ため息を吐き、同行を断るアーウィン。

 真紅郎としては下手にメルと顔合わせして勘繰られてしまう恐れもあるので、じっとしてもらっていた方が良かったので笑顔で応じる。


「なに、構わぬで御座るよマチルダ殿も待ってて下され、今から話してくるで御座るよ」


 そう言ってメルの元に向かおうとする真紅郎をマチルダが引き止める。


「いえ、依頼とはいえ危険なダンジョンに大切なフィアンセを連れ出すのだ、一言挨拶くらいは、パーティメンバーにしても勝手に仲間を借りてしまってはいい気がしないはずだろう」


 その言葉にアーウィンが反発する。


「本人が構わないと言っているんだ。別に良いだろう」


 道理としてはマチルダが正しいのだが心情的にはアーウィンに軍配を上げたい真紅郎。

 そんな状況を覆す決定的な言葉がマチルダの口から放たれる。


「アーウィンもいつまでも拗ねてないで騎士らしく振る舞いえ。そんな様を聖女様……メルセディア様が見たら何と仰られるか」


 マチルダのその言葉と共にアーウィンが俯く。

 強く握った拳から葛藤が見て取れる。


 そして顔を上げた瞳には何かを決意したような強い光が宿っていた。


「分かったよ。このサムライには思うところがあるが、あちらの方々には無関係な事だった。ならばマチルダの言う通り礼を尽くしておくのが騎士の在り方だろう。それにそこの朴念仁とは違って女性のエスコートには慣れているからな」


 アーウィンはそう言うと真紅郎とマチルダを差し置いてメル達の元へと向かって行った。





―――――――――――――――――――


読んで頂きありがとう御座います。

リアルの事情により更新を2日おきにさせて頂きます。


更新は今後も続けて行きますので

引き続き読んで頂ければ幸いです。


執筆のモチベーションにもつながるので。


☆でも☆☆でも構いませんので少しでも面白いと思って頂けたら評価してもらえると嬉しいです。

もちろん☆☆☆を頂けたら凄く、凄く喜びますので、どうかよろしくお願いします。



 

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