第42話 情報開示

 街に戻った真紅郎達。


 ギルドに戻ると活気とは違うざわめきで騒然となっていた。


「おいおい、こりゃどうした」


 法禅も自分がいない間の事態に状況が掴めず困惑する。


 そこに真紅郎達に気付いた陽花が駆け寄って来る。


「シンさんに親方、大変です。いまとんでもない事態に」


 珍しく慌てた様子の陽花にただ事では無いと悟る真紅郎と法禅。


 詳しく話を聞くと暁光の三人が関係していた。

 まず最初に響之介と葵が戻ってきた。

 そこで、魔獣討伐の経緯と、指名手配されているアデルと思わしき人物と遭遇したことを知らされる。

 それからしばらくすると片腕を失った隼人が戻って来た。農村に居た住民達と共に。


 そこで新たな情報が入る。

 アデルと思わしき人物の撃破には成功したが、最後にとんでもない化物を呼び寄せた事を。


「おい、その特殊個体ネームドのリーパーラビットの名前間違いなく『ジャック・ザ・バニー』なんだな」


 慌てた様子でマチルダが陽花に詰め寄る。


「はい、隼人君の話では同行者のメルさんが魔術で確認したそうです」


 陽花が頷き肯定する。

 そこに法禅が話しかける。


「嬢ちゃん。その特殊個体ネームドに心当たりがあるのかい?」


「ああ、その個体名に間違いないのなら。そいつはリグレスの使役獣だ」


「ほお、詳しい情報は?」


 法禅は討伐の為に詳しい情報をマチルダから得ようとする。


「そのウサギはかなりの危険度で。ローランフォード聖王国の辺境にあった、マリッサという小さな町の住民を全滅させている」


 その町の名に心当たりがあったアーウィンも驚いてマチルダに話しかける。


「そこって大規模な災害に見舞われたって聞いていたぞ」


「違う災害なんかじゃない。あれはリグレスの仕業だ。町に居た生娘達だけを拉致し、残っていた住民を、自分の使役獣を使って皆殺しにした」


「……なんという悪逆無道」


 義憤から真紅郎も言葉をもらす。

 それに同意するようにマチルダは頷くと法禅に向かって真剣な眼差しで話しかける。


「改めて正式に依頼したい。ジャック・ザ・バニー討伐とリグレス探索を。勿論、難易度査定に応じた報奨金はこちらから支払う」


「なるほどな、たが話し通りならこりゃA級ランクの依頼だ。そしてそのランクの依頼をこなせる冒険者となると数が限られてくる」


 法禅はそう言いなから真紅郎を見る。

 意味を理解したマチルダが真紅郎に懇願する。


「真紅郎殿。今一度、どうか我々に力添えをお願いする。あの歩く厄災はいずれアシハラにも害を及ぼす。それを防ぐためにもどうかお願いだ」


 真紅郎としては依頼を受けるのは吝かではない。ただ問題なのはリグレスよりも寧ろ、その使役獣のウサギの方なのだ。


「どの道、メルと彩女を迎えに行かねばならぬからな、ただ一つだけ問題があってな……」


「ああ、シンさんもしかしてアレか」


 付き合いの長い法禅は真紅郎の事情を知っていたので検討が付いた。


「……込み入った話なら別室を用意頂きたい、こちらも伝えていない情報を開示するので」


「分かった。なら討伐メンバーのワシとシンさん。そちらから付いてくるのはマチルダ嬢ちゃんだけで良いのか?」


「俺も行くに決まっている。ウサギとリグレスって奴はついでだ。俺の目的は聖女様を……メルセディア様を見捨てて逃げたアデルとか言う糞野郎だ」


「まあ、良いだろう。なら話の続きは上の階でだ。陽花は済まないが領主の京極に連絡して状況を説明して、場合によっては軍を動かせるように伝えておいてくれ」


 陽花は法禅の言葉に従い急いで準備に取り掛かる。

 法禅は真紅郎達を引き連れ、そのまま二階へと上がり話し合いの場を改めて設けた。



 最初に口を開いたのは、終始真剣な表情を崩さないマチルダだった。


「改めて、まずこちらの信用を示す為。先程言った伝えていない情報を開示させてもらおうと思う」


 一度は真紅郎を疑った事もあり、マチルダとしては、ますは手の内を晒すことで少しでも信用を得たかった。


「おう、聞かせてくれや」


 法禅に促される形でマチルダは告げる。


「では、リグレスに関してですが、あの男はとある組織に所属しております。宗方殿ならご存じかもしれないが、その組織の名は黒の同盟ブラックユニオン


「ちっ、そこと繋がってんのかよ厄介だな」


 マチルダが予想した通り法禅もその組織を知っていた。

 そして真紅郎も厳しい表情に変わる。

 表情から察したマチルダが尋ねる。


「もしかして真紅郎殿もご存じでしたか」


「うむ、身内の恥を晒してしてしまうが兄弟子が関わっていてな、昔一悶着あったで御座るよ」


「組織に関与するアシハラのサムライ……もしかしてその兄弟子は『剣鬼ユキムラ』ですか?」


 真紅郎の言葉から思い至ったマチルダが尋ねる。

 その名を聞いた真紅郎がマチルダが一瞬息を呑むほど鋭い眼光を見せる。

 しかし、直ぐに目を閉じると、いつもの穏やかな感じでマチルダに答える。


「そう斯波雪村シバユキムラ……拙者の兄弟子だった男で、本来なら月影流の極伝を授かるはずだった者で御座るよ」


 マチルダとしては、とてつもなく関係が気になったがとても聞ける雰囲気ではなかった。


 そんな所にある意味空気を読めないアーウィンが苛立たしく話しかけてくる。


「そんなサムライの過去なんかより、今は現状の問題だろう。そっちが濁してた話を早くしてくれ。本当は直ぐにでもあのクソ野郎をとっ捕まえに行きたんだからな」


「確かにアーウィン殿の言う通りで御座る。今問題なのはリグレスとやらで、その使役獣の白い死神に関する事。であるからして、はっきり申すと拙者ウサギが苦手で御座る」


 思いもよらなかった真紅郎の告白にマチルダとアーウィンの時間が一瞬止まる。


「くっ、クハッハッハッ。なんだサムライ、ウサギが怖いって……クック情けねえな。ウサギごときが怖いなら大人しく宿屋で待ってろよ」


 盛大に笑うアーウィンをマチルダが嗜める。


「アーウィン、無礼だろう。人には苦手なモノが一つや二つあるものだ。私だってナメクジやヒルのような軟体生物は苦手だ。想像しただけで鳥肌が立つ」


「まあ、俺は苦手になった経緯を知ってるからな。ありゃ、トラウマになっても仕方ないと思うぜ。笑ってくれるなよ兄ちゃん」


 法禅も真紅郎をフォローする形でアーウィンの肩を叩く。

 

「済まないマチルダ殿に親方。一応、克服するための秘密特訓はしたで御座る。ただ実戦となると本当に克服出来たかまだ分からないので御座るよ」


「なんと、すごいな真紅郎殿。私も見習わないとな、巨大なナメクジ型の魔物もいると聞くし、今度機会があれば克服方法をご教授願いたい」


 マチルダの曇りのない眼差しに、言葉に詰まる真紅郎。


「いや、その……拙者の場合は何と言うか、そう、信頼出来るパートナーのお陰で御座るよ」


「なるほど信頼関係が大事なのだな。なら何れ真紅郎殿の信任を得たあかつきには再度お願いすることとしよう」


『えっ、それは流石に……マズイでゴザルナー』


 メルとの口にするのも憚れる特訓を改めて思い返しながら、アレを逆の立場となると軟体ヌルヌルプレ……など出来るはずが無いと思う真紅郎だった。

 


―――――――――――――――――――


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