貧乏旗本の三男坊に嫁いできてくれた元聖女の嫁が可愛すぎるので……。
コアラvsラッコ
第一章
第1話 三男坊
『
彼はアシハラ神皇国の貧乏旗本の三男坊。
名前の由来は生粋の赤髪から。
兄弟姉妹の中で、唯一初代と同じ赤髪だったことから名をあやかって真紅郎と名付けられた。
彼の家も含む旗本と呼ばれる者達は、アシハラ神皇国の国主である帝直属に仕える武家の事を指す。
他国でいうと、バルフェルト騎士王国の騎士王直属の近衛騎士団にあたる。
その中でも真紅郎の家は古い。
建国以前から帝を守護してきた由緒ある家系である。
しかし謹厳実直で清廉潔白な家風からか、家は貧しく傍から見れば落ちぶれているようにも見えた。
ただ真紅郎としては、それに関して文句は無かった。
他家の一部の者のように、家柄を笠に着て横柄な態度を取る輩に成り果てる位なら、それこそ腹切って死んだほうがマシだとさえ思っていた。
それに家が貧しいなら、自分の食い扶持くらいは自分で稼げば良い。
そう考えた彼は、今では家を出てひとり立ちし、冒険者家業というものをやっている。
そうして今は、半年前から雇われの用心棒という形で、A級クラスの冒険者パーティに加入している。
彼等は遠くローランフォード聖王国から来ており、パーティ名を『ライトニング・ブレイブ』と称していた。
そのメンバーはというと。
まずリーダーで勇剣士のアデル。
肩まで伸びた金髪と青い瞳。
端正な顔立ちは多くの女性の目を引いた。
冒険者としては、剣と雷撃系の
剣の腕は真紅郎と比較すればそこそこといったところだが、雷撃の魔術を用いた併用攻撃に関しては抜きん出ており、その点で間違いなく一流の冒険者といえた。
それゆえに自信過剰なところがあり。
自らを雷光の勇者と言ってはばからず、少し高慢な態度を取ることも多い。
しかし実績は間違いなく。冒険者ギルドからは勇者に准ずるカレイジャスの称号を贈られていた。
次に魔術士の女リリアンヌ。
菫色のウェーブの掛かった長髪と、トンガリ帽子をトレードマークにしている。
薄着で体のラインを強調した服を好み、ぱっと見は妖艶な美女といったところだ。
自らを超一流の魔女と自称しており。
実際にいくつもの
仮にどこかの国で士官するならば、上位魔術士として高待遇で迎えてくれるほどの実力は持っていた。
ではなぜ彼女がそうしないかといえば、いつもアデルにベッタリで離れたがらないからだろう。
アデルとは幼馴染であり、傍から見てもべた惚れなのが一目瞭然である。
それからボウマスターのカトレーヌ。
彼女はリリアンヌの妹で、髪の色は同じだが、姉とは違いショートカットのクール美人な印象である。
戦闘ではロングレンジの長弓ではなく、動きを重視した短弓を用い、俊敏な動きからの撹乱と、動きながらの正確な狙撃には目を見張るものがある。
スカウトとしての技能も優秀で罠の解除やマッピングなどもこなす。
そして彼女もリリアンヌと同様アデルに惚れているらしく、姉妹で取り合いをする姿を良く目にする。
最後は回復術士のメルセディア。
彼女はローランフォード聖教会で育てられ、聖女の称号を賜った人物だ。
立ち位置的なものをアシハラ神皇国で言い換えるなら巫女に当たり、信仰の対象でもある。
聖教会の制約により顔全体は純白のベールと頭巾で隠し、おまけに認識阻害の魔術も施され素顔は分からない。しかし所々で見せる所作には気品が感じられた。
ただ、このパーティは各々が強力な
ゆえにアデル達からは、補助魔術が多少使える程度のお飾り聖女としか認識されていなかった。
また聖女という立場からか、彼女だけはアデルと距離をおいており、他の三人とは色合いが違っていた。
そんな彼らに雇われる形の真紅郎。
長く真っ赤な髪をひとつ結びに纏めた美丈夫。
背は高く目付きは鋭い。
アシハラ神皇国にある剣術のひとつである
サムライマスターの称号を持つ実力者。
しかし自らを刀を振るうことしか出来ないしがない貧乏旗本の三男坊だと吹聴し、表舞台に立つことを避けていた。
そんな真紅郎を加えた自称勇者パーティは、高難易度のダンジョン探索を終えて、拠点であるイヅモの宿場に戻ってきていた。
今は備え付けの酒場におり、食事も兼ねた酒宴の真っ最中である。
そこでは程よく酔ったアデルが真紅郎に声を掛けていた。
「なあ用心棒殿、明日こそは迷宮最下層までたどり着きたいものだな」
アデルがは両腕にリリアンヌとカトレーヌを侍らせて陽気に酒を飲んでいた。
「そうで御座るな。第七門まであと一歩で御座る。何とか明日にはたどり着きたいで御座るな」
「もう、シンクロウったらござる、ござるって笑わさないでよ、キャハハハ」
リリアンヌが笑いながら話しかけてくる。
もちろん真紅郎としては、リリアンヌの指摘がおかしいなどと思っていない。
彼からすれば古い武家では当たり前の、由緒ある言葉遣いなのだから。
「もう、シンクロウさんに失礼だよ、いくら辺境の国でもシンクロウさんは騎士みたいなものなんだから、こざるで笑ったら失礼よって、くっくくっ」
しかし表面上は注意しつつカトレーヌもおかしな言葉だと思っていたようで、いつものように真紅郎をからかって笑う。
「……まったく、貴方がたは他国の文化を尊重するという気持ちは無いのですか、今の振る舞いはシンクロウ様に対して余りにも失礼というもの」
二人に対して怒りをあらわにする聖女。
半年の間に何度かこのようなことがあり、そのたびにアデルを含めた三人を諌めていた。
「全く、楽しく飲んでる席の場で多少の無礼講は良いじゃないか。まったくどこまでお硬い女だ。だいたいこんな時ぐらいその陰気なベールをはずしたらどうだ」
自称勇者は少し酒が入りすぎたのか、そう言って聖女のベールに手を伸ばす。
「勇者殿、拙者は無礼講と言ってくれたとおり、気にしておらぬ。だから、もっと飲みましょうぞ」
真紅郎は咄嗟にアデルの腕を掴み、その手に盃を取らせると酒を注ぐ。
「ほれ、聖女殿もこのような場が苦手なら先にお戻りになられるがよかろう。無理して居ても場が白けるというもので御座る」
真紅郎はなるべく気取らないように、聖女へ目配せして場を離れるように促す。
少しキツイ言い方をしたのも、無理してここにいるよりは良いだろうという判断からだ。
「……分かりました。あまり羽目を外し過ぎないようになさいませ」
心配そうな表情で三人を見る聖女。
傍から見ていた真紅郎には、その姿が最年少の筈なのに、口煩い母親のようにも見え微笑ましく思えた。
「へいへい」
自称勇者が返事と共に『しっしっ』と、手で追い払うような仕草をする。
「ばいばい、まったねー」
姉妹も特に気にした様子もなく手をふる。
聖女はため息ひとつ吐いて宿の自室に戻って行く。
去り際に真紅郎を一瞥する。
言葉にせずとも伝わる「後は任せました」的な伝言を残して。
その後は酒を勧めた手前、真紅郎はアデルが満足するまで酒の席に付き合う。
助かったのは、アデルが思いのほか早くに酔い潰れたたことだろう。
そんな彼を真紅郎が肩を貸し部屋まで運ぶと、後を姉妹二人に任せる。
おもりから解放され、酒場に戻った真紅郎はカウンターに席を移して静かに一人で呑み直す。
賑やかだった酒場はだいぶ静かになっていた。
夜も遅くなり人がまばらになったせいだろう。
そんな一人呑みの最中に、真紅郎は声を掛けられる。
不思議と耳に馴染む優しい声色の相手に。
「お隣よろしいでしょうか、シンクロウ様」
真紅郎が声を掛けられた方へと振り返る。
思わず目が惹きつけられる豊満な双丘。
体のラインを強調させないためのゆったり目の法衣にも関わらずだ。
すぐに失礼だと思い顔をあげる。
そこには白いベールと頭巾に覆われ、口元だけが見える聖女の姿。
最初に不躾な視線を送ってしまった事を取り繕うためか、真紅郎は努めて冷静に尋ねる。
「おや、もう眠っていたのでは?」
「寝付きが悪かったもので。それに静かに呑むのは好きなのですよ、シンクロウ様はご存知でしょう」
酒場のカウンターには似つかわしくない、清廉さを体現したかのような女性はそう告げる。
部屋に戻った筈の聖女は、真紅郎の隣に座ると、店主に酒を注文する。
「まあ、確かに呑まねばやってられないこともあるで御座ろうな」
半年の付き合いしかない真紅郎でも分かる傍若無人な三人。
そのお目付け役を数年来担っている聖女に少し同情する真紅郎。
「……そうなんですよ。まったくあの三人ときたら……ブツブツブツブツ」
一杯目から並々と注がれた盃をあおり、何故か酔い全開の聖女。
よく見ればこの国で一番強い『月宵』という独特の色をした濁り酒を頼んでいた。
「まあ、気持ちは分からんでも無いで御座るよ」
三人の素行には、真紅郎も聖女と共にフォローに回る立ち回りの方が多い。それを長年続けてきた事に対して苦労が忍ばれ、真紅郎はしみじみと頷き酒を仰ぐ。
「ふっふ、嬉しいです。シンクロウ様だけですよ、分かってくださる方は」
少しだけ聖女という重荷を降ろした彼女の口元から笑みがこぼれる。
真紅郎としても、酒の力があるとはいえ素の表情を少しだけ見せてくれる聖女の微笑みに、心を許してくれていると思えば悪い気はしない。
「うむ、ならば今日はとことん付き合うで御座るよ」
「うわぁ、ありがとうございます。シンクロウ様大好きです」
微笑む聖女から出た言葉。
酔った口とはいえ思わずドキリとさせられる真紅郎。
「……こほん、その言葉嬉しく思うで御座るよ」
一瞬間が空いてしまったが、これは仲間として信頼している意味であろうとの結論で言葉を返す。
何故なら、ダンジョン内の戦闘でアデルは後衛を守ろうとする際、リリアンヌの方を優先する。
そのため、守り手のいない聖女の身を守るのは真紅郎がほとんどだった。
しかし、そのお陰もあって二人の連帯感というのは他の三人より強い。だから、先程の言葉もその延長だと真紅郎は結論付けていた。
それに今までも、こうして二人きりで酒を酌み交わす事が何度かあった。
ただその時は、だいたい日頃の鬱憤を晴らすかのような聖女殿の愚痴を、彼女の気が済むまで聞くのがいつもの流れで、色っぽい話など全くなかった。
そして今日もその例にもれることなく、真紅郎は聖女様の愚痴を相槌を打ちながら聞いていた。
「あははは、もうシンクロウさまー、聞いてますかー、もしもーし」
「ちゃんと聞いてますよ聖女殿」
「やですよシンクロウさまー、こんな時くらい名前で呼んでください、はい名前でプリーズ」
いい感じで酔い潰れて行く聖女様のご要望に、真紅郎も合わせる。
「それではメルセディア殿。今日はこの辺りでお開きにするで御座るよ」
既に時間はアシハラの古い言い方で丑三つ時になっており、聖女も良い感じで潰れて来ているので真紅郎も終わるように促す。
「はーい、分かりました。このメルセディア、今日のところはここまでにしておきます」
最後は何故かビシッと敬礼でしめた聖女。
すぐにフラリと倒れそうになる彼女を真紅郎が肩を貸して支える。
そんなベロンベロンに酔った聖女を、真紅郎が部屋へと送り届けるため一緒に歩き始める。
これは二人で飲んだ時のいつもの流れでもある。
「…………シンクロウ様は真摯なのですね」
部屋に向かって歩いていると、真紅郎にもたれ掛かりながら聖女が呟く。
聖女から柔らかな胸の感触と、お酒とは違う優しく甘い香りを感じる真紅郎。
「意味が分からぬで御座るよ」
真紅郎には聖女が言う言葉の意味を意識しないように努める。
そもそも真紅郎の考えとしては、酒に酔った女性に狼藉を働くのは、正面から口説き落とす事の出来ない情けない男子のすることだと思っている。
むしろ、そういう不埒な輩から女性を護るのが誇り高い男というものだとも考えていた。
「ふっふ、シンクロウ様はやっぱり、アデルなんかとは違うのですね」
ある意味で素っ気ない真紅郎の態度に、聖女は嬉しそうに笑う。
そんなやり取りを交わしながら、ようやく部屋までたどり着く。
しかしベッドまであと少しという所で、聖女の意識が途切れてしまう。
真紅郎は仕方なく聖女を横抱きにすると、ベッドまで運ぶ。
起こさないようにそっと下ろし、側にあった掛け布を被せる。
静かな寝息を立てる聖女を後に、そのまま部屋を出ようとして、ふと気付いた。
『ふむ、鍵が掛けれないでござるな』
真紅郎が心で呟き考える。
部屋の鍵は恐らく聖女が持っている。
しかし寝ている女の服を弄るわけにもいかない。
仮に朝まで部屋で見守ったとしても、同室で男女が二人きりで居たと分かれば在らぬ噂が立つ可能性もある。
かといって宿とはいえ鍵を掛けないのは不用心すぎると。
『仕方がないで御座るな』
真紅郎は心の中で何かを決めると、部屋の外に出て扉を閉めた。
そして翌朝、習慣的にいつもの時間に目覚めた聖女。お酒を呑んた後そのまま寝入った事を思い出し、湯を貰いに扉を開ける。すると、なぜか座ったままの真紅郎がそこに居た。
「えっ、シンクロウ様、なぜこのような所で?」
聖女が見たままの疑問を口にする。
真紅郎としては、正直に『心配で番をしていた』と伝えてしまうと要らぬ遠慮を与えてしまうと思い。
「いや、済まぬな。そなたを送り届けたまでは良いが、どうやら酔い潰れてしもうたらしい。いやあ面目無いで御座るよ」
真紅郎はそう笑って誤魔化すと、スッと立ち上がり部屋に戻る。
「……シンクロウ様……」
聖女が真紅郎の背に何かを言いかける。
真紅郎はそれに気付かないフリをして、振り返ることなく部屋に戻るとダンジョン探索の準備を始めるのだった。
―――――――――――――――――――
用語解説
【
望んだ事象を発現させる為の魔術コードを組み合わせた方式。展開させる手段としては詠唱、呪符、手印など多数ある。
所謂、魔法。
【
生命力を素にして防御フィールドを展開し、身を守る魔導具。
これが切れると身体に直接的なダメージを負う。
この世界の冒険者には必須。なので冒険者ギルドに加入すると最低限の性能を持った物は与えられる。
要はHP。
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◇
読んで頂きありがとう御座います。
作者のモチベーションにもつながるので、
☆でも☆☆でも構いません。
少しでも面白い、面白そうだと思って頂けたら評価してもらえると嬉しいです。
もちろん☆☆☆を頂けたら泣いて喜びますので、どうかよろしくお願いします。
短編です。
エロエロ注意です。
エロコメですのであまり深く考えないで読んで頂けたら嬉しいです。
【幼馴染で恋人だった僕よりイケメン先輩を選んだはずの彼女が一週間後身も心も限界になって戻ってきた。】
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