閑話 暁光①
結成してニ年目になる冒険者パーティ『
アシハラの地方都市のひとつビゼン。
そこの出身である幼馴染四人組で結成したパーティである。
リーダーは士族で刀剣士の
齢は十八で栗色の髪を短めに切り揃え、童顔ながら顔立ちは良い。
得物は実家から成人祝で贈られた業物で【
符術士の
歳も同じで赤褐色の髪を両サイドにまとめたツインテール。つり目、つり眉から気が強そうに見られがちな美人である。服装は一般的な符術士とは違いアシハラ特有の和装ではなく西方の魔術衣とローブを好んで着用していた。
護衛士の
彼は金髪を短髪に刈り上げ、鍛えられた大柄な体躯の持ち主で大槌と大盾をメイン装備にしている。
彼らは特段に突出したものは無いが、堅実にクエストをこなし、地道に評価を稼いで冒険者クラスを上げてきた。
そんな彼らが下級クラスのEから中級クラスのDに上がれるかどうかの時だった。先輩冒険者であるラードと知り合ったのは。
彼は他国の出身で、アシハラでは珍しい聖戦士という上級職に就いていた。
サラサラの銀髪を長めに伸ばし、一見すると紳士風な振る舞いで、育ちの良さが感じられる優男である。
最初は親切心からかアドバイス役として何度かパーティと行動を共にし、響之介達を助けてくれていた。
彼は暁光のメンバーを十分に中級クラスでも通用すると言い、自らも加入するので上を目指さないかと提案してきた。
響之介達はラードの言葉を信じて彼をパーティに迎い入れ、中級への昇格クエストに挑戦した。
しかしラードが入り戦力が増強したのにもかかわらず、ここ二回の昇格クエストを続けて失敗していた。
一回目は葵のミスで、二回目は響之介のミスによるものだった。
結果そのことで仲の良かった響之介と葵の関係がギクシャクしはじめていた。
それを打開するために、ラードの助言で拠点をイズモに変え心機一転を図ることにした。
彼らは資金節約と修練も兼ね徒歩でイズモに向かう。
それは思っていたより大変な旅程だったため、ようやくイズモについた頃にはかなり消耗していた。
到着初日に冒険者ギルドで拠点箇所の移籍手続きだけは済ませ、本格的な活動は情報収集と新規メンバーが加入してからということになった。
その数日後の夕刻。葵は響之介と一緒に行動していたが、また些細なことで喧嘩してしまう。仲直りはしたものの気まずい雰囲気から逃げてしまい、ふて寝していた。
しかし空腹には逆らえず据付の食堂に向うことにした。
そこへ、ちょうどラードも食堂にやってきた為、一緒に食事をすることになった。
葵は先程まで一緒に居た響之介に対する不満と苛立ちを目の前のラードにもらしていた。
「……て言うわけなんですよ酷いと思いませんか?」
「まあ、確かにそうだね。彼も悪気はないんだろうげど、少し配慮が足りなかったかもね」
「ラードさんの言う通りです。キョウの奴、戦闘だって私の負担を全然理解してくれてないですし」
「そうだね。なかなか前衛だと後衛の苦労は理解できないものだからね」
「はい、そうなんですよね。どんなにサポートしてもそれが当たり前みたいな顔して。まあラードさんに言われてようやく術士を探し始めてくれたみたいだけど」
葵が言う通り響之介は、ラードの助言から術士を一人増やすべく片っ端からスカウトを掛けていた。
しかし結果は思わしくない。
若手のしかも拠点を移したばかりのパーティに入ろうとしてくれるお人好しな冒険者はまずいないからだ。
「……少し響之介君には荷が重かったかもしれませんね。期待していたんですけど」
「うん、最近のキョウって何だか……ううん、ごめんなさい、またラードさんに愚痴るところでした」
「僕は構わないよ、葵君の愚痴を聞くぐらいならお安い御用さ。それで少しでも気持ちの負担が減るならさ、いくらでも話してくれて構わないよ」
ラードは優しく笑みを浮かべる。
葵は思わず顔を赤くして俯く。
「やあ葵、俺らも食事一緒にいいか?」
後ろから葵の幼馴染の二人、隼人と彩女が声を掛けてくる。
「うん大丈夫だよ。ラードさんも良いでしょう」
「えっ、うん。僕も勿論構わないよ」
変わらない笑みを浮かべたままラードが頷く。
「ありがとうラードさん。ほら彩女も座りなよ」
「うん」
葵に勧められ彩女が葵の隣に座る。
その向い、ラードの隣に隼人も座ると、二人は追加で自分達の注文をする。
その後、四人で歓談しながら食事をする。
そして先に食べ終わった葵が、響之介の様子を見てくると言って冒険者ギルドの方に向かった。
残されたラードと、隼人と彩女の兄妹。
隼人は既に食事を済ませており。
彩女はゆっくりのんびりと食事をとっていた。
「済まない彩女。少しラードさんと話があるから席を外す」
「うん、分かった」
彩女はか細い声で返事をすると変わらずのんびりと食事を続ける。
「というわけでラードさん、少し話に付き合ってほしいんだが」
「……なら、話は僕の部屋で良いかい?」
「ああ、構わないぜ」
二人は言葉通りラードの宿泊部屋へと移動する。
部屋に入るとラードはベッドに腰掛け、隼人に椅子に座るように促す。
「それで隼人君。話しというのは?」
「……ハッキリ言うぞ。これ以上葵にちょっかい出すのは止めてくれ」
隼人は鋭い視線をラードに向けていた。
ラードはそれを気にした様子もなく答える。
「おや、君も葵君に好意を抱いておいででしたか」
「ふざけるな。俺は葵にはそんな感情は抱いていない。アンタも分かっているだろう葵と響之介は付き合っている。それをわざわざ壊すようなことをしないでほしい」
「ええ知ってますよ。それにもう一つ響之介君が彩女君にも好意を抱いていることもね」
ここで思いがけない妹の名前を出され動揺する隼人。隼人の目から見ても兄である自分以外で彩女が心を許しているのは響之介くらいだからだ。
「それは俺と同じで妹としてであって」
「本当にそうと言い切れますか? 実際には貴方と違って血の繋がりは無い、親愛が恋心に変わることだってあり得ない話ではないですよ」
ラードの言葉を完全に否定出来ない隼人。
動揺する隼人にラードは言葉を重ねる。
「それに僕は関係を壊したい訳では無いですよ、葵君とは真剣に付き合いたい。だから無理に迫る事はしません。あくまで葵君に選んでほしいだけですよ」
「だからその葵は響之介のことを……」
最近はクエストの失敗もありギクシャクしているが、食後も心配して見に行くくらいだ、まだ気持ちが離れていないと隼人は考えている。
「ええ、ですから私は二人の仲を無理矢理引き裂くつもりはないありません。葵君と響之介君がお互いの関係を大切にしている間はね」
「ぬけぬけと、それならなぜ響之介がいないときを狙って葵にまとわりつく」
「まとわりつくは酷いですね。ただ話し相手になってるだけですよ。そうしておけば、もし響之介君と彼女の間に何かあった時に慰めることも出来ますから、例えば響之介君が彩女君の方を好きになってしまった時なんかにね」
直情的な隼人からすると目の前のラードの考え方が理解出来なかった。下心を持って近づきながら直接的には口説くことはしないと言うのだ。
どこまで本気なのかは分からないが、ラードの言葉を信じるなら、何かのきっかけで葵が響之介と別れたときの為に手回ししているだけだと。
しかし長年二人を見てきた隼人からすれば、そんな事はあり得ない無駄な足掻きに思えた。
「そんな無駄な事を続けるくらいなら他の女を探した方が早いぞ」
「そうですか……例えば彩女君とかですか?」
ラードとしては冗談のつもりだったのだろうが本気の殺気を向けられれば否定するしかない。
「冗談ですよ、それに言ったでしょう、僕は本気で葵君の事が好きなんです。だから気持ちなんて直ぐに切り替えれるものじゃありませんよ」
「ふん、食えない男だな。ただ警告はしたからな」
「分かりました。僕としてもパーティ内を不協和音で満たしたくはありませんからね。僕からは二人きりで会う事は避けますよ、それでいいてすか?」
「ああ、そうしてくれ」
「それで、他に話はありますか?」
「いいや、話はそれだけだ、それじゃあな」
隼人としてはラードの言葉を全て信じた訳では無い、ただ釘を刺す事は出来ただろうと考えていた。
しかし出ていく隼人をラードは心の底では笑っていた。既に葵とは直接会わなくとも会話することが可能だったからだ。
それは通信式魔導具によるもので、イズモに向う際にラードが緊急連絡用との名目で葵に渡していたものだ。
渡す際に「パーティ全員へ渡してある」と、ラードは葵に言っていたが、他のメンバーには渡していない。つまり会話が繋がるのはラードと葵の二人だけだった。
『くっく、僕は嘘はいってないからね隼人君。僕からは直接会って話はしないよ……直接会ってはね』
内心で呟きながら実った果実を今度はどうやって収穫しようとラードは考える。その表情は自然に薄ら笑いになっていた。
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アイテム解説
【
等級:ユニーク
特性:クリティカル時防御無視/獣特攻
大虎を一撃で斬り伏せた逸話がある刀。
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