第39話 雷光の勇者

 葵達を逃すため、突撃をしかけたメル。

 リリアンヌの時と同様に近接戦に持ち込もうとするが、アデルは動きを読んで剣で薙ぎ払う。

 メルは払いにきた剣を短刀で受け流し、持ち手とは逆の手でアデルを殴る。しかし攻撃は当たったものの、ライフフィールドに阻まれ決定打にはならない。


「この動き、あの鈍臭そうな女の動きとは思えない。やっぱり別人なのか」


 パーティメンバーとして一緒に居た時には、見たことのない見事な体捌きにアデルは驚く。


 ある意味で別人だと思わせかけたことは幸いだったはずのメルだが、鈍臭いと言われて少しムッとしてしまう。


 そんな一瞬の攻防に響之介達は驚愕する。


 二人の動きを目で追うのがやっとだっただから。


 メルには退くように言われていたが、加勢するつもりだった四人は、逆に足手まといになりかねないと判断し、忠告通りにその場から退避する決断を下す。


「済みません。ここはお任せして退きます」


 仲間を置いていくことに悔しさを隠せない響之介を隼人がそう言って促し撤退する。


『それで良いのです。最後まで共に戦おうとしてくれた気持ちがあれば私は満足です』


「ふん、仲間を置いて逃げたか。偉そうな事を言っておいてやっぱり自分の命が大事じゃないか」


『あなた方とは違う』


 メルはそう言いかけ、ぐっと堪えると、冷静にアデルの隙をうかがい、雷撃を警戒する。


「まあいい、お前を嬲り尽くしたら、直ぐに後を追うからな」


 すでに勝ったつもりでいるアデルがサディスティックに笑う。


「アナタごときに出来るとでも」


「言ってろよ」


 アデルはそう言って剣をメルに向かってかざす。


 とたん雷撃が迸りメルに直撃する。

 しかし、メルも寸前で風薙で防ぎダメージを最低限に抑える。


 アデルはそれを見越していたのか、その間に雷撃の攻勢魔術を構築しメルに向けて放つ。

 聖魔剣ガルバトロスにより増幅された【極雷電ギガ・サンダーボルト】がメルを襲う。


「キャアアァ」


 風薙では捌ききれず雷撃に弾き飛ばされるメル。

 さらにアデルは追撃で速射性の高い【雷電サンダーボルト】を連続して放つ。


 メルは何とか態勢を立て直しダメージを受けながらも凌ぎ切る。


 しかし、アデルは追撃の手を休めない。

 再度、魔力をガルバトロスに込めて魔力を増幅させると雷撃系最高位魔術のひとつ【天の落雷アークサンダー】の術式構築に入る。


 メルも危機感から、それをさせまいと再度接近を試みる。


 アデルはそのメルの攻撃を躱しながら術式を完成させる寸前だった。

 メルの攻撃に集中していたアデルは完全に不意をつかれ、右肩に符が巻かれた矢が直撃したのだ。


 その事により術式が崩れ、隙が生まれた事でメルの連撃が決まる。


 勢い良く吹き飛ばされるアデル。

 しかし、派手さの割にはダメージは受けていないらしく、受け身を取ると直ぐに込めていた魔力を再構築し【散雷弾スプリットサンダー】として放つ。


 複数の雷撃を躱しきれないと悟ったメルは障壁を魔術障壁にシフトし備える。


 しかし、その備えは意味をなさなかった。

 なぜなら、さらなる壁が雷撃を受け止めたからだ。


「……どうして、隼人君が」


「葵は響之介に任せてきたぜ。攻撃では足手まといかもしれないけど防御だけなら少しは役に立つと思ってさ」


「ふう、貴方と良い、彩女といい、本当に……」


「というわけで、何発かは耐えれるかとおもうので、あと彩女は隠密しながらの攻撃になるので攻撃は合わせにくいかもしれませんが牽制にはなるはずです」


「ありがとう。安心して下さい。何があっても貴方達を死なせたりはしませんから」


 メルはそう言って、再度魔術障壁を硬化障壁に切り替える。


「くっ、三下が出しゃばって、そんなに死にたいのかよ」


 攻撃を阻まれ事が気に入らないアデルは、隼人を苛立らしく睨み付ける。


「こちとら、葵から雷用の護符を大量にもらってきたんだ、簡単にくたばると思うなよ」


 隼人も負けじと睨み返す。


「なら、どこまで耐えれるか試してやるよ」


 アデルは不敵に笑うと得意の【極雷電ギガ・サンダーボルト】を放つ。


 隼人は葵からもらった金の護符を使いつつ盾を構える。


 激しい爆発音と共に雷撃が隼人に直撃する。


「へっ、ちょっと痺れる程度で大した事無いな」


 かなりのダメージを食らいながらもやせ我慢して強がってみせる隼人。


「その減らず口、どこまで続けられるかな」

 アデルは被虐的な笑みを見せ、再び【天の落雷】の魔術式を構築し始める。


 時折、彩女が牽制で矢を放つが全て躱され、メルも踏み込めずにいた為、アデルが持つ最強の魔術が組み上がる。


 そして、それを隼人に向けて放とうとする瞬間。メルは隼人の盾に隠れながら組み上げた魔術式を展開する。


「なんだ隠れて何かやってたと思ったが不発か、さては焦って術式間違えやがったな、ワッハッハ、ザマァねえな」


 メルが魔術式を展開したのにも関わらず何も起こらなかった事で、アデルはあざ笑いながら自身の完成した【天の落雷アークサンダー】を放つ。


 魔術式により雷光を放つ叢雲が上空に形成される。気象操作も伴う最高位の魔術はダンジョンでは不向きだが、こと地上では一部隊すら壊滅させるほどの威力を持つ戦術級の攻勢魔術式だ。


 もはや雷対策の護符を持っていようが隼人では耐え切れようもない。


 そして恐怖を煽る轟音が鳴り響き、無数の雷が降り注ぐ。


 閃光と雷鳴が無慈悲に相手を打ちのめす。それこそ何度も何度も……。


 しかし本来なるあり得ないが、雷の直撃を食らってもなおまだ口を開く余裕が残っていた。


「げほっ、なっ、なんで俺に……」


 そんな言葉に答えるわけもなく、メルと隼人はアデルに向かって突進し、止めを刺すべく猛追を加える。


 

「ぶへっー」


 残り少なかったライフフィールドも完全に削り切られたアデルは、メルの渾身のグーパンで顎を砕かれた盛大に吹き飛んだ。



「やったぜメルさん。でもなんでアイツ最後に自滅したんだ」


 アデルを倒し少し安心した隼人が目の前で起こった不思議な出来事に首をひねる。


「それは私が【術式改変ハッキング】を仕掛けたからですよ」


 事も無げにメルは言ったが、相手の術式を書き換えるなんて容易なことではない事は魔術に疎い隼人でも理解できた。

 実際、【術式改変ハッキング】の運用としては相手の術式に無効なコードを追加し阻害する程度が一般的だ。それでも術者との実力差がなければ難しい。もし仮に相手がリリアンヌであったなら間違いなく失敗していただろう。


「はっは、俺達の手助けは必要なかったかもしれませんね」


 思っていた以上の実力差に隼人が少し萎縮する。


「いえいえ、隼人君のお陰で集中することが出来たから成功したのです。彩女の牽制も時間を稼いでくれましたし皆の勝利ですよ」


「……ありがとうメルさん。それであの二人は」


「そうですね。ふん縛ってギルドにでも引き渡しましょう」


 メルはそう言ってアイテムボックスから特殊な捕縛用のロープを取り出す。

 上位のクエストでは捕縛依頼などもあるためメルも念の為持っていたものだ。


「あっ、じゃあ俺が縛り上げても良いですか、一度やってみたかったんですよね」


 隼人はそう言ったのでメルはロープを手渡すと隼人に任せる。


 隼人は嬉しそうに吹き飛んだアデルの元に向かう。


 そのアデルは全身の痛みと薄れ行く意識の中で、自分の敗北を悟る。

 しかし、大人しくお縄に付くようなタマでもない最後の最後悪足掻きとしてリグレスからもらった巻き物を残りの気力を振り絞って取り出すと、巻き紐を解いた。


 そして開かれた瞬間に巻物は光を放つと、異様な魔法陣が浮かび上がる。


 隼人は突然の事で呆気に取られていると、光った魔法陣からピョコンと可愛らしいウサギが現れた。


「…………」


 出て来たウサギと目が合う隼人。


「ぷふっ、メルさん、なんかアイツ、最後にウサギを呼びましたよ」


 隼人は振り返ると、目の前で起きた光景を笑いながらメルに伝える。

 

「だめ、隼人君逃げて」


「えっ!?」


 思っても見なかったメルの叫びに驚く隼人、その瞬間右腕か激しい痛みに襲われる。


 いち早く何が起こったのか気が付いたメルは隼人に駆け寄ると急いで止血する。


 そして、ワンテンポ遅れて隼人が気付く、あるはずの自分の右腕が、肘から綺麗に失くなっている事に。


「うっうがっァァァ」


 激しい痛みに蹲る隼人。

 目の前のウサギは嬉しいのかぴょんぴょんと飛び跳ね、鋭く伸びた門歯から血が滴り落ちる。

 

 メルは隼人を止血しつつ、風薙を構えいつ来るか分からないウサギの攻撃に備える。


「なん、なんてすかアレ、ライフフィールドを貫通してきましたよ」

 

 腕を抑え苦悶の表情で話す隼人。

 相手の異様さを感じ取ったメルが敵情報を確認していた。


「あれはリーパーラビット。ダンジョンでは首刈りウサギの別名で恐れられている存在です。しかもアレはその中でも特殊なネームドです」


 メルの言う通り可愛らしい外見とは裏腹の凶悪なウサギの前歯が研ぎ澄まされた刃のように煌めく。


 そんなリーパーラビットに向けて矢が降り注ぐ、状況を見ていた彩女が牽制を兼ねて攻撃を仕掛けてくれたのだ。


「いまよ、隼人君」


 隙を見てメルが隼人を退避させる。

 合わせて切り落とされた腕を嫌悪感無く拾い上げて持って行く。


 リーパーラビットは逃げる隼人達を気にする様子無く、矢が降り注ぐ方へと興味を向ける。


「彩女、絶対に戦ったら駄目よ逃げて、東の森の熊が居た場所で合流しましょう」


 それに気が付いたメルは大声で葵に呼び掛ける。


 その声が届いていた彩女も指示に従い牽制を止め逃走する。


 しかし、凶悪な白兎は執拗に彩女の後を追いかけるのだった。

 

 



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読んで頂きありがとう御座います。


ちょっとでも面白いと思って頂けたら評価してもらえると嬉しいです。


☆でも☆☆でも構いません。


もちろん☆☆☆を頂けたら大変喜びますので、どうかよろしくお願いします。



あと、短編投稿しました。


この作品を読んで頂いてるのでしたら大丈夫だと思いますがエロエロ注意です。

エロコメですのであまり深く考えないで読んで頂けたら嬉しいです。



【幼馴染で恋人だった僕よりイケメン先輩を選んだはずの彼女が一週間後身も心も限界になって戻ってきた。】


https://kakuyomu.jp/works/16817330658556905565

 


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術式&スキル解説


【天の落雷アークサンダー

 最上位雷系攻勢魔術式

 複数の雷雲を呼び寄せ、指定エリアに無数の雷を落とす。



散雷弾スプリットサンダー

 中位雷系攻勢魔術式

 無数の雷球を発生させ対象に向かって放つ。



術式改変ハッキング

 上位汎用魔術式

 対象の術式に干渉しコードを書き換える。

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