第45話 救出依頼

 彩女が失踪し事態が慌ただしくなる中。


 暁光のメンバー全員で集まり話し合いを始めていた。

 その中でメルがひとつの可能性に思い至る。


「もしかしたら、彩女はあの時魅了の影響を受けていたのかもしれません」


 メルには一切効かなかった魅了の魔眼だが、仮に彩女にも向けられていたとしたら。


「しかし、メルには効かなかったのであろう」


 真紅郎の問にメルが答える。


「はい……あの男の言葉なのでどこまで信用出来るか分からないですが、普通の人間には無理だそうです」


「なんで、それならメルさんだって……」


 理不尽だと分かっていてもつい声を荒らげてしまう隼人。


「やめなさいよ、メルさんが居なかったらそもそも命すら危なかったのよ」


 葵が隼人を諌める。


「……ぐっ、分かってる。わかってるけど……すいませんでしたメルさん。八つ当りみたいな事を言って」


「良いんですよ。彩女の変化に気付けなかったのは確かですし」


「それを言ったら、俺こそアイツの兄なのに何も気付けなかったんですから」


 隼人とメルが反省している中で真紅郎が告げる。


「メルの事は置いておいて、もし彩女が魅了の影響を受けているなら、向かうのは恐らくリグレスとやらの場所で御座ろう」


「ということは、ヤツの居場所に乗り込めば彩女を取り戻せると言う事ですね。じゃあ早く行きましょう」


 隼人が真紅郎の言葉に食い付く。


「だから落ち着けよ、そもそもリグレスってヤツの居場所が分かってないだろう」


 逸る隼人を今度は響之介が諫める。


「……アデルがリグレスとやらと繋がっていたのなら、昨日捕まえたリリアンヌが何か知っているかもしれぬで御座るな」


 その真紅郎の言葉で鍵はリリアンヌにあると踏んだ暁光一行は急いでギルドへと向かう。


 ギルドにはちょうどマチルダ達も来ており、同じようにリグレスに関する情報を得ようとしていた。


「真紅郎殿もアデルの仲間が目的ですか?」


 真紅郎に気付いたマチルダが近寄り話しかけてくる。


「うむ、実は拙者の仲間のひとりがどうやら……」


 真紅郎はマチルダに事情を説明する。


「くっ、そういうことか、確かにアイツがやりそうな手口だ」


「ほう、マチルダ殿はヤツについて詳しいご様子。ならば、あやつの手口を教えては下さらぬか」


「そうだな恐らく真紅郎殿の読み通りだろう、ただ正確に言うなら魅了というよりは暗示だな、マリッサでも奴は気に入った女性を暗示に掛け自分の元へと誘導した。そしてその女性全てを花嫁と称して……」


「ふむ、あやつにとって花嫁というのは何で御座るか? 拙者達が思っているのとは違うように見受けられるのだが」


 真紅郎の疑問に対しマチルダは何かを思い返すように一度目を閉じると、今度は強い眼差しで口を開いた。


「アレは吸血鬼でも純血種とは違い、外法を用いて不死者になった者。定期的に生き物、特に人間種の血を吸わないと形を維持出来ないのだ。そしてアレはその対象を純潔の女性だけに限定し、自らの花嫁と称して血を啜るんだ」


「なっ、それじゃあ彩女は」


 話を一緒に聞いていた隼人が慌てる。


「ヤツは花嫁の中でも特に気に入ったモノを眷属の下級吸血鬼レッサーヴァンパイアとして、コレクションのように保管する。それ以外は……」


 そこで言葉を濁すマチルダ。

 隼人の顔はますます蒼白になっていく。


「ふむ、どちらにせよ急がねばならぬな。それでリリアンヌから何か情報は?」


「いま、宗方殿が尋問を」


 真紅郎がマチルダにそう尋ねて、しばらくすると陽花が二階から真紅郎達を呼びに来る。


 そのまま真紅郎達は二階に上がると、法禅が待っていた。


「おう、来たか」


 真紅郎と目が合った法禅が声を掛ける。


「それで親方、ヤツの居場所は、分かったで御座るか?」


「ああ、あの魔女の嬢ちゃん、最初は渋っていたがアデルの野郎に見捨てられたと知ったとたんに、泣きながら話してくれたよ」


 真紅郎がメルから聞いた話だとアデルもその場に居たはずなのに、姿が見えなかった事から、また奴は逃げたのだろうとの結論になる。

 なにせ、オロチの時の前例があるのだから。


「アデルもつくづく落ちたで御座るな」


 真紅郎の言葉に法禅が頷く。


「ああ、それで、ギルドメンバーが拐かされたとなれば、ギルドとして何もしない分けにはいかないからな、正式な依頼として彩女嬢救出依頼を発行する。もちろん受けるよなシンさん」


「当然で御座ろう。なにより彩女は大切な仲間で御座るからな」


「もちろん、俺達も行きます」


 隼人が真っ先に同行を表明する。


「いや、駄目だ。悪いが今回の依頼、マチルダ嬢ちゃんの教会側からの依頼も相まってA級クエストだ。お前さんらには荷が重い、それに奴が潜んでいるのは大蛇塚と並ぶ難関ダンジョンのひとつ比良坂だ」


「なんと、あそこで御座るか、確かにあそこは亡者共の巣窟で好んで入る冒険者も少ないで御座るからな……しかし、あそこに身を潜めるとは悪趣味な」


 真紅郎が言うように比良坂と呼ばれるダンジョンは黄泉路とも呼ばれ、動く死体リビングデッド死霊スペクターなど歪められた者ディストーテッドと云われる非生命体が闊歩する、難易度と手間の割には見返りの少ない、冒険者的にも旨味が少ないダンジョンだった。


 そんな場所ということもあり、実力的に厳しいと判断された暁光のメンバーは待機となり、最後まで気が気でない隼人を何とか宥めつつ、向かうメンバーは真紅郎にメル、マチルダとアーウィンに法禅という、大蛇塚組にメルが加わった形になる。


 アーウィンからはメルの参加に疑問の声が上がったが、アデルを倒したという事実を伝えられたことで渋々と納得。


 こうして五人は急ぎ比良坂へと向かうのだった。


 

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