第46話 攻略開始
比良坂はイズモから徒歩でまる一日がかりの場所にあり、急げば彩女に追いつけるかもしれないと真紅郎達は馬を駆り進む。
メルも馬には乗った事は有ったが、襲歩には慣れておらず、真紅郎がフォローしつつ少し遅れて後を追う。
そして先行していたマチルダ達は彩女が通ったと思われる痕跡は見つけられたが、結局彩女自身を確保することは出来なかった。
先に着いたマチルダ達と少し遅れて到着した真紅郎とメルは、そのままダンジョンに突入し、リグレスが居るであろう最下層を目指す。
途中、ゾンビやらスペクターやらはマチルダがいた為、思いの外楽に進むことが出来ていた。
そして現在、第三階層にある巨大な広間に到着した真紅郎達、その彼等の前にリグレスの使いという者が現れて告げた。
「三日後、新たな花嫁を迎え入れる結婚式を執り行うので。是非参加して欲しい」と。
伝令役はそのメッセージだけ伝えると消えて居なくなる。
「やつは俺達をバカにしているのか?」
珍しくアーウィンが真紅郎以外に噛みつく。
「やつはいつも、こうやって人を見下し、戯れて楽しむのです。やつ曰く、人が藻掻き焦燥に駆られる姿を見るのは、何よりの娯楽だそうです」
リグレスを追っていたマチルダがそう説明すると、真紅郎とメルの表情が厳しいものへと変わる。
「悪趣味で御座るな」
「本当に性格が歪みまくってますね」
真紅郎とメルが侮蔑を含んで言葉にする。
「……ここの階層は九つ、最下層まで三日はかなりの強行軍で行かないと厳しいだろう」
そこに冷静に状況を判断した法禅が告げる。
「大蛇塚の時みたいにパッと転移出来ないのか?」
アーウィンの問いに法禅は首を横に振る。
「ここのダンジョンは六階層以下は転移不可エリアになっててな、その六階層も未踏じゃ転移出来ねえんだ」
「幸い、マチルダ殿達が居るお陰で死霊共は比較的楽に倒せているのが救いで御座るが、拙者の見立も親方と同じで御座るよ」
「ふん、キサマには聞いてないんだがな。まあいい歪
アーウィンが皮肉めいて言う。その言葉に真紅郎は素直に頭を下げる。
「確かにアーウィン殿の言う通り、マチルダ殿も含めてお二人のご助力感謝致す」
そんな真紅郎に慌ててマチルダが頭を上げさせる。
「止めてくれ、私達もリグレス討伐に助力してもらっているのだからお互い様だ」
マチルダがそう言って執り成す。
「そうですね。高名な神官騎士ともあろうものが功績を鼻に掛け、悦に入るのはどうかと」
しかし、真紅郎に対する態度が気に入らないメルが棘丸出しでチクリとアーウィンを刺す。
「くっ、ハレンチ女がキサマに神官騎士の何が分かる。だいたいこの程度の事を功とは思っていない、俺にはもっと崇高な使命が……使命があったのに……メルセディア様……」
思い出したように聖女の名をつぶやき、悔しさで顔をしかめるアーウィン。
「……まったく、あなたのような者が守護騎士だったなんて、その聖女様もたかが知れていますね」
メルはそう言って、何故か過去の自分を貶める。
「なっ、なんだとキサマ。誰だろうと聖女様……メルセディア様をバカにする事は許さん。女だからって甘く見てもらえると思うなよ」
メルの言葉はアーウィンの逆鱗に触れ、本気の殺気がメルに向けられる。
「それですよ。あなたが慕う聖女様は、些細な事で誰かれ噛みつくような、あなたを見ても何ら咎めもしない、さぞかし優しい飼い主様だったのでしょうね」
「ぐっ、違う……」
言葉を否定したように、アーウィンにも分かってはいた。今の自分が感情のままに当たり散らしていた昔の自分のようになっている事を……。
メルセディアに合う前のアーウィンは孤児だった境遇もあり、他人に馴染めず、周囲にやり場のない怒りをまき散らしていた。
ただ実力は本物で神官騎士まで上り詰めたが、その時には周囲に味方などおらず孤立した存在となっていた。
そんな中で唯一人。彼を守護騎士の一人として迎え入れてくれたのがメルセディアだった。
そしてメルセディアの優しさは、アーウィンの苛立った心を少しづつ解きほぐし、彼女を守るために
守護騎士の最高峰聖銀まで上り詰める決意をさせた。
「……ならばその聖女に恥じぬよう、騎士として振る舞いなさい。かの聖女の守護騎士がそのような体たらくを晒しては、それこそ主であった聖女の名を貶めるだけでしょう」
メルの言葉に、アーウィンは殺気を納め、黙って目を閉じて何かを考える。
「…………ふっふ、そうだな。あなたの言うとおりだ。やり場のない怒りに振り回され、周囲に当たっていたなんて情けない事だ。あなたの言葉……なんだが昔聖女様に怒られた事を思い出させてくれた。済まない、それからありがとう」
アーウィンはそう言ってメルに頭を下げる。
そして真紅郎にも向き直ると深々と頭を下げた。
「真紅郎殿。今までの非礼、大変失礼した。俺は悔しかったんだ、近くでメルセディア様を守れなかったことが、だからこそすぐ近くに居たアナタに強く当たってしまった。本当に済まない」
「いや、頭を上げられよ、拙者はそこまで気にしていないので大丈夫で御座る」
真紅郎もアーウィンの謝罪を受け入れる。
実際、最初の頃は思う所があったが、何度もあしらっているうちに慣れていたのでもう、そこまで嫌悪感は抱いていなかったからだ。
「ふう、これで少しは蟠りがとけたか」
様子を見ていたマチルダが安心したように呟く、そして執り成す切っ掛けを作ったメルに視線を送る。
視線に気付いたメルはにっこりと笑うと言った。
「今日はここまでにして一度、休息にしましょう」
「おう、そうだな無理して進んでも効率が悪い。このフロアなら転移ですぐ戻れるし、一度外に出てキャンプだな」
「うむ、賛成で御座る」
真紅郎も同意する。
合わせてアーウィンも答える。
「ああ、俺も構わない……それに少し考えて反省する時間も欲しいしな」
「もちろん、私も構いません」
マチルダも異論なく賛成する。
「じゃあ、決まりだな」
法禅はそう言うと転移のアンカーとして魔術式を施した結界石を床に置く。
ダンジョン入口へはメルがアンカーポイントをセットしていたのでメルの転移で飛び、ダンジョンの外に出ると外は日が落ちすっかり暗くなっていた。
メンバーはそれぞれ野宿の準備を始め各々で簡易テントを張り、その日は休息に入った。
貧乏旗本の三男坊に嫁いできてくれた元聖女の嫁が可愛すぎるので……。 コアラvsラッコ @beeline-3taro
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