第3話 蛇龍(触手付き)
真紅郎は自身の迂闊さを呪っていた。
どこかで傍若無人な態度であっても勇者と名乗るくらいだからと、どこかで彼らの事を信じていたのだ。
なにより彼女、聖女がいた事で安心していた。
「ぐっ、ダメで御座るよ」
真紅郎は痺れる体から振り絞るように声を出し、何とか踏みとどまるように伝える。
「くっ、放しなさい。あなた達、何をしようとしているのか分かっているのですか?」
「ああ、分かってるよ。ここに封印されたオロチが持ってるんだろう神話級の剣を」
アシハラの伝承では、そのような話も確かにある。しかし、そんなのは遥か昔の御伽噺に過ぎない。
そして誰よりも真紅郎が知っていた。
ここに間違いなく封印されている蛇龍が蘇る方が危険なのだということを。
何故なら実際の記録として被害報告が残っているからだ。
神話の剣なんて伝承などではなく、事実として。
「アハハッ、大丈夫、大丈夫、私達ならよゆーで倒せるって」
「ええ、このフロアの敵だって大したことなかったですし」
アデル達は完全に自分達の力を見誤っていた。
真紅郎の見立てでは、アデル達程度では彼のオロチには歯が立たない。
「勝てぬで御座る、そなた達の実力では……」
「アハッ、私のスキルで痺れてるゴザル君に言われてもね」
言葉通り不意を突かれた真紅郎は、リリアンヌから魔女のスキル【
「無様ですね」
カトリーヌが冷ややかな視線を送る。
そんな彼女に羽交い締めにされて動けなくなっている聖女が叫ぶ。
「あなた達、放しなさい。何でこんなこと……」
「安心しろ、封印を解除すれば戦闘メンバーに戻してやるから」
アデルはそう言って八つの封印塚を一つづつ破壊していく。
解放され溢れ出した大量の瘴気が大広間に満ち始める。
「やっ、止めるで御座る」
真紅郎の声も虚しく、アデルは最後の封印塚を破壊する。
すると八つの封印塚から解放された瘴気が集まり形を成しはじめる。
「あっアデル、あれっヤバくない?」
ここに来てオロチの放つ異常なまでの瘴気の量を感じ、ようやく危険性に気付くリリアンヌ。
「大丈夫だ、いつものように速攻で決めるぞ」
アデルは姉妹二人に攻撃の指示を出す。
「うっ、うん。瘴気で形成された魔物なら、これで」
リリアンヌが光の魔術【
色とりどりの光がまだ完全に形を成していない大蛇へと向かう。
「これも合わせて食らえ」
勇者がリリアンヌの魔術に合わせて剣で増幅さたせた【
虹光と雷光が大蛇を襲う。
形を成したばかりの瘴気が爆散する。
「やりました、さすがアデルです」
カトリーヌが喜びの声をあげる。
しかし、それも束の間で瘴気が再び集まりだすと今度こそ巨体な八俣の大蛇が形を成した。
「くそっ、カトリーヌ、ぼさっとするな、矢を放ち続けろ、リリアンヌはもう一度魔術を、メルセディアはそんな男放って、とっとと支援に入れ」
姉妹はアデルに言われた通りに動く。
カトリーヌは無数の矢を放ち、リリアンヌは魔術を連続で放ち続ける。
しかし聖女はアデルの指示に従わなかった。
三人の支援より先に、麻痺して動けない真紅郎の回復を優先させたのだ。
「ちっ、本当に使えない女だ」
アデルは自分の言うことを聞かない聖女に舌打ちをする。
「アデル、そんな補助しかできない女を当てにしないで攻撃に集中して」
リリアンヌから言われ、アデルは愛用の聖魔剣ガルバトロスを抜き放ちオロチに斬りかかる。
しかし、聖魔剣の力を加味しても瘴気の壁を崩すのがやっとで本体に攻撃が届かない。
「なんなんだこれは?」
それから何度も連携して攻撃を仕掛けているのに、全く歯ごたえがない。
次第にアデルの顔に焦りが見え始める。
「くっ、アデルこれではきりがありません」
カトリーヌにも焦りが伝わったのか表情が歪む。
「まったく、煩いハエどもだ。久しぶに蘇ってみれば身の程も知らぬ愚か者共、目覚めの余興にもならん」
オロチは魔術式を組み立てていたリリアンヌをひと睨みする。
それだけでリリアンヌは恐慌状態に陥り、組み上げていた術式が崩壊する。
「むりぃ、アデル、あんなの勝てっこない」
怯えきったリリアンヌが後退りしながら、アデルに訴えかける。
「くそっ、こうなったら退却だ」
アデルがリリアンヌの言葉に従い逃げようとする。
「愚か者め、タダで帰してやる訳がなかろう」
オロチはそう言うと瘴気の波動を放つ。
「「ヒィィ」」
完全に姉妹は怖気づいて尻込む。
「そうだな、無事に帰りたくば……贄でもよこすがよい、我を蘇らせてくれた礼としてこの場は見逃そうぞ」
その言葉にアデルは姉妹に視線を向ける。
「なっ、何考えてるのよアデル。だいたい、こういった贄って処女が捧げられるものよ」
「そっ、そうです。ほら、そこにうってつけのが居ます」
姉妹が聖女を指差す。
「なっ、確かに私は立場上純潔を求められてはいますが」
「ほう、ならばその生娘を置いていけば、お前達は見逃してやろう」
「わっ、分かった。しかもそいつは聖女だ、好きなようにしていいぞ」
オロチの言葉に従いアデルが聖女を差し出す。
言わなくても良い言葉を添えて。
「ほう、聖女とは巫女みたいなものか……これは復活そうそう良い拾いものした。弱き者に興味はない、早々に去るが良い」
オロチの言葉に従い、アデルは勇者といわれる者とは真逆の行動を取る。
聖女と真紅郎を残し、姉妹と共に一目散に逃げ出したのだ。
「そんな、カレイジャスともあろう者が」
取り残された聖女が絶望の声をもらす。
「ふっふ、憐れな娘だな。しかしまだまだだ。先ずはその精神をなぶって、恐怖と絶望を貪った後で血肉と骨を我が物としようぞ」
オロチは身に纏う瘴気を触手のようなものに変えて聖女へと伸ばす。
濃密な瘴気の触手は聖女のライフフィールドを瞬時に侵食し無効化する。
聖女は体にまとわりつく触手の不快感に声を上げる。
「あっ、ぐぅ、いゃぁあ、離してぇ」
無数の触手は聖女に絡みつきやんわりと締め上げる。
それと共に服の隙間から侵入して直接聖女の肌を這いずり撫で回す。
「くっ、このように魔物に辱められるくらいなら」
絶望的な状況の中、聖女は己の尊厳を守るため自決をも覚悟をする。
しかし、それを阻むように太い触手が強引に口をこじ開け侵入する。
「うぐっ、むぐっ、おごっ」
無理やり侵入された異物の不快感と自らの尊厳すら守れない悔しさに涙が流れる。
「フハハハ、いいぞ、もっと絶望しろ。高尚な者が堕ちた時に垂れ流す負の感情ほど美味なものはないからな。これからそなたの純潔も散らしてやる……泣き叫んで、もっと絶望を吐き出すが良いぞ」
オロチがそう宣言すると数本の触手を一つにまとめ、より巨大な触手を作り出す。それを聖女の柔肌に擦り付け、より深く恐怖と屈辱を与える。
涙目で口を塞がれ声もあげれない聖女は不快感と恐怖に身悶えるしかない。
そしていよいよオロチの作り出した巨大な触手が聖女の純潔を散らそうと這い寄る。
「下衆め!」
瞬間だった。
真紅郎の声と共に瘴気から作られた触手が全て斬り落とされる。
同時に絡みつかれた触手から解放された聖女が倒れ込み、それを咄嗟に真紅郎が抱きしめる。
「しっ、シンクロウ様。動けるようになったのなら早く逃げて、私が……」
真紅郎の腕の中で震えながら訴える。
先程まで自分が恐怖と屈辱的な目に合っていたのにも関わらず、聖女は麻痺から回復したばかりの真紅郎の身を案じて訴える逃げるようにと……。
彼女は絶望が支配する中、巻き込んでしまった真紅郎を逃がすため。何とか時間が稼げればと考え方を変えていた。
「ふぅ、そなたはどこまでお人好しで御座るか。大方、自分が囮になっている間に逃げろとでも言うつもりであろう」
「分かっているなら、早く逃げて下さい。このオロチの今の目的は私なのです。巻き込まれただけの貴方が死ぬ必要なんてありません。お願いですから、アデル達と同じように生き延びて下さい」
聖女が泣きながら懸命に訴えかける。
真紅郎は、場違いにも女子を泣かせてしまったことに胸を痛める。
「あのような者たちと一緒にしないで頂きたいで御座るよ、メルセディア殿。もし拙者がここで逃げれば確かに命は助かるかもしれぬが、一生をそなたを見捨てたという後悔を抱いて生きていかねばならぬ、それこそ一生の恥として」
「そんなの、死ぬことに比べればより些細なことです」
聖女が涙を流しながら叫ぶ。
そんな聖女を背に庇いながら口を開く。
「ふむ、メルセディア殿。覚えておくといいで御座る。武人の中には死より名誉を尊ぶ者もいるので御座るよ」
真紅郎は聖女にそう告げると、手に持った刃を八本首のオロチに向けた。
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アイテム解説
【聖魔剣ガルバトロス】
等級:エンシェント
特性:魔力増幅/聖属性付与/魔力属性付与/腕力強化/魔力強化
聖なる力と魔力強化の力を持つ両刃の剣。
術式&スキル解説
【
魔女固有スキル
接触することで生物に対してレジスト無視で麻痺させる。
成功率=30%+レベル分の10%
【
最上位光系攻勢魔術式
複数の光波を同時に放つレーザー攻撃。
【
上位雷系攻勢魔術式
サンダーボルトの何十倍の威力を誇る。
【
下位雷系攻勢魔術式
雷撃を放ち敵を感電させる雷系の基礎魔術。
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