第二章

第27話 木漏れ日亭で……

 真紅郎が響之介のパーティ暁光に加入して早一月。

 最大の懸念だったオロチ塚も無事に再封印が完了していた。

 ただ聖女喪失に伴い、ローランフォード聖教会から検分の使者が派遣される事となり、生存者である真紅郎にも事情確認が求められる事から、まだ皇都には戻れない状況は続いていた。


 そんな中で拠点を響之介達と同じ『木漏れ日亭』に移していた真紅郎とメルは少し広めのダブルベッドがある部屋を借りていた。

 そして当然というか、愛し合う男女が同じ部屋に居れば致すことは想像がつくわけで……。


 ただここは冒険者向けのリーズナブルな宿なので防音や耐震といった設備は充実していない。


 なのでそのあたりはメルが魔術でフォローしつつも、飽きることなく睦み合い続ける二人の姿があった。




「駄目ですよ旦那様。今は私のターンですから」


 甘い吐息と共にメルが真紅郎を窘める。


 ユサユサと揺れる白磁の双丘を目の前にして、お預けをされ手を出せずにいる真紅郎。

 同時に、悩めかしく動くメルの腰の動きから伝わる感覚が余りに気持ちよく、たまらず声をもらす。


 その声に反応してメルが妖しくも美しい微笑みで真紅郎を見下ろす。


 先程までは屈辱的なポーズで後ろから激しく責められていたメル。しかし今は一転して真紅郎の上に跨り主導権を握っていた。


「ふっふ、素敵です旦那様。このまま私を満たして下さい」


 メルはそう言って真紅郎にキスを落とす。

 真紅郎は抵抗することなく受け入れ、欲望のままメルの唇を貪り味わう。


 メルは口付けを交わしながらも、妖艶に腰を動かし真紅郎を至高の領域へと誘う。


 真紅郎はメルに導かれるままに、離れぬようにメルを強く抱きしめると、己の欲望と愛情を一気に解放する。


「ああっ、感じます旦那様の熱く滾る愛の証を……中に……」


 メルは体中で真紅郎の激情を感じ取ると、頭真っ白にして体を震わせる。


 何度目か分からない交わり。

 簡単に言えば二人の相性は抜群に良かった。

 それこそ盛の付いたサル……もとい、時を忘れて睦み合い続けるほどに。


 

 そうして、ようやく落ち着いた頃合いで、真紅郎の腕に抱かれていたメルが話しかける。


「旦那様。今日も一杯愛してくれてありがとうございます。不思議なことに旦那様の精を受けて満たされると調子が良くなって……これも愛の力ですかね」


 先程までの妖艶さとは打って変わった純粋な眼差しで語るメル。


「うっうん、そうでゴザルな〜」


 なんとなく理由を察している真紅郎は誤魔化そうか悩んだが、夫婦になる以上隠し立ては良くないと思い直し、正直に尋ねて見ることにした。


「その、もちろん拙者がメルを愛しているのは疑いようのない事実。しかしその魔力の回復力は尋常では御座らん。考えられるとしたら……もしかしてメルは魔族の血筋では御座らぬか?」


「ん!? ああ、もしかしてこの耳からですか? 実は私は孤児でして両親の顔は知らないのですよ。ですから旦那様の言う通り魔族の血を引いている可能性は有りますね」


 メルは少し尖った自分の耳を軽く摘みながら悲愴感無く話す。


「それは済まぬ。配慮の足りぬ言葉で御座った」


「いいえ。本当はもっと早くに話しておくべき事でしたね。つい今が楽しくて……あの、宜しければ聞いてくれますか私の事を?」


「もちろん。過去も含めてメルの事をもっと知りたいで御座るよ」 


 真紅郎はそう言うとメルを抱きしめる力を強くする。

 メルはそんな真紅郎に身を預けると自身の過去を語り始める。





 物心ついたときには、私はすでに教会の施設に居ました。

 その施設は孤児を救済する為の施設で、同時に未来の聖女を育成する為の教育施設でも有りました。


 ですから集められていたのは少女達ばかりで種族も様々でした。

 でも、そのお陰でしょうか、特に私の容姿が問題になることは有りませんでした。


 ただ当時の私は、聖女として重要な魔術の素養に関しては落ちこぼれもいい所でした。

 だから自然とでしょうか立場的に下に見られることも多くて。

 不思議ですよね、種族が違っていても人間種って序列を作りたがるんですよ特に女は。


 そんな中で落ちこぼれな私は最底辺だったんです。だから私は皆からストレスのはけ口として扱われてました。


 そして、まあ彼女達も聖女候補といってもまだ子供でしたから。ある意味で残酷なことさえ平気でできてしまったんですね。

 それこそ冬に冷たい水を浴びせたり、食事に虫を混ぜられたり、直接的に暴力を振るったり。

 ですからその時の思い出はあまり良いものではありません。


 でも、状況が変わり始めたのは成長期を迎えた頃からでしょうか、その恥ずかしのですが胸が大きくなり始めて……それに比例するかのように魔力量も増大しまして。

 気付けば私は施設の中で一番の魔力保有量を持つようになってて。

 そうなると教会の上層部が私に目を掛けてくれるようになって。

 そんな中で聖女選定の候補として私を含めた三人が選出されることになりました。


 それに伴い、露骨な嫌がらせは無くなりました。

 ただ、陰では色々と言われたりしてましたけどね。


 ただ私以外に選出された二人は、私に対して酷い事をしたことは無かったので、今思えばそういう日頃の態度もしっかりと見られていたのでしょう。


 そして、その頃からですね。顔をベールで隠し、フードで頭を覆うようになったのは。ですから私も他の二人については正確に覚えていません。ただ一人は獣人の子で凛とした物怖じしない子でした。もう一人は元貴族と噂されていて、曲がったことが嫌いな高潔さを持ち合わせていた子でした。


 最終的に聖女として選定されたのは私でしたが、他の二人も高位の役職に付いたと聞いております。


 そして聖女の称号持ちの一人となった私は教会の象徴として活動していき、最終的にローラン聖教の世界布教の役割を担い巡礼の旅に出ることになりました。


 その時、私の預り先として白羽の矢が立ったのが、ローランフォード聖王国で、当時飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍を見せていたアデル達のパーティでした。


 それからアデル達のパーティに加入し。

 共に三年もの間世界各地を旅して様々なものを見てきました。

 それこそ様々な価値観とも触れ合いながら……。




「そうしてこのアシハラのイズモまで来たので御座るな」


「はい、そこで運命の人と出会えた」


 屈託なく笑いかけるメル。


「それは拙者も同じ、生涯の伴侶と巡り合えたの御座るからな」


 真紅郎は優しい眼差しで言葉を返す。


 二人はお互いを誰よりも優しい眼差しで見詰め合う。

 言葉は不要とばかりに、再び唇を重ねるとお互いを強く抱きしめ合い、何より大切なお互いの存在を確かめ合った。






―――――――――――――――――――


読んで頂きありがとう御座います。

そして評価して頂いた方には感謝を。



出来れば作者のモチベーションにもつながるので。


☆でも☆☆でも構いませんので少しでも面白いと思って頂けたら評価してもらえると嬉しいです。

もちろん☆☆☆を頂けたらもっと、もっと喜びますので、どうかよろしくお願いします。





 

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