第6章 優香のお料理大作戦

第85話「その意気その意気♪ がんばれー♪」

 それから何度か優香と(美月ちゃんと)勉強会をして。

 音読のテストも、美月ちゃんからなんとか合格点を貰えて。


 そして迎えた、高校2年生一学期の中間テスト。

 その1日目の朝。


「おはよう優香」

「おはよう蒼太くん」


 いつもと同じように優香と同じ時間のバスで通学した俺だったが。

 しかし今日に限っては余計なおしゃべりはしなかった。


「……」

「……」


 朝の挨拶をした後は、俺と優香は車内の並びのシートに座ってバスに揺られながら、黙々と今日の一時間目の英語の直前勉強に取り組んでいた。


 優香はお手製の単語帳をめくり、俺は事前にピックアップしていた苦手な部分を、重点的に復習していく。


 しばらく静かに勉強をした後。

 俺は一区切りついたところで、何気なく隣に座る優香の顔へと視線を向けた。


 ペラっ、ペラっ。

 優香は俺の視線に気付くことなく、真剣な表情で単語帳をめくっている。

 かなりのスピードなので、単語帳の内容はほぼ完璧に頭に入っているんだろう。


 俺と違って、念には念を入れると言ったところか。

 さすがだなと感心する。

 普段の可愛い顔は言うに及ばず、姫騎士のような凛とした表情の優香もすごく素敵だった。


 優香の真剣な横顔についつい見とれてしまいそうになって――しかし、すぐに今日がテスト初日であることを思い出す。


 ボーっと見とれている場合じゃないぞ。

 成績優秀な優香より、むしろ俺の方がしっかりと勉強しないといけないんだからな。


 俺は改めて気持ちを入れ直すと、すぐに英語の直前勉強を再開した。


 …………

 ……


 バスに乗っているギリギリまで復習をし、学校最寄りのバス停でバスから降りると、


「蒼太くん、今日のテスト頑張ろうね」

 優香が胸の前で両手を握った可愛らしい応援ポーズで、エールを送ってくれた。


「ああ、お互い頑張ろうな」

 俺も右手で軽くガッツポーズをしてそれに応える。


「自信の程はどう?」

「今回はやることはしっかりやったから、後は問題を解くのみだ」


 俺は今回のテストに限っては、かなり真面目にテスト勉強をこなしてきた。


 なにせ優香と勉強会をした以上は、情けない点数は取れないからな。

 イマイチな点数を取ってしまったら、真面目な優香は責任を感じるだろうし、絶大な信頼を寄せてくれている美月ちゃんもしょんぼりしちゃうだろう。


 俺は姫宮姉妹を失望させたくなかったし、失望されたくもなかった。

 なにより2人の笑顔が見たいから。


 だから勉強会の時だけでなく、家でも毎晩遅くまで英単語や数学の公式を確認したり、暗記系科目を繰り返し覚えたり、新聞部がネット配信している過去問や『新聞部謹製きんせい! 学年別テスト予想問題!』を実際に解いたりしていたのだ。


 ちなみにこの新聞部謹製のテスト予想問題、時々『全く同じ問題が出る』ことがあるせいで、その度に先生方をざわつかせているのだとかなんとか(健介情報)。


「すっごくいい感じみたいだね。でも――」

「ん?」

「ちょっと疲れた顔してるよ? もしかして寝不足?」


 優香が少しだけ心配そうな顔で、俺の顔を下から覗き込むように見つめてくる。


「テスト前期間にかなり勉強を頑張ったから、ちょっとは眠いかな。身体に疲れも溜まっているし」


「そうなんだ……」


「でもテストを受ける分には何の問題もないよ。体調が悪いとかじゃないから、そこは安心してくれ」


「ふふっ、頑張った証ってことだね。よーし、じゃあ私も蒼太くんに負けないようにテスト本番、頑張ろうっと」


「いやいや、俺に負けないようにって、俺が優香に勝てる可能性はほぼゼロだからな?」


 さすがにテスト前にちょっと真面目に勉強したくらいでは、元からあった圧倒的な成績の差は埋まったりはしないだろう。

 そんな簡単に成績が上がったら誰も苦労はしないわけで。


「点数じゃなくてやる気がってことね。分からない問題があっても、絶対に最後まで諦めないで頑張っちゃうんだから」


「そういうことなら、俺も最後まで全力で頑張るよ。そのためにも、まずは1時間目のコミュ英だな」


「出だしからつまずくと、悪い連鎖をしちゃったりするもんね」

「失敗した事ばっかり考えてテンション下がるもんな。ってわけで最初のコミュ英を全力ぶっ倒す!」


「その意気その意気♪ がんばれー♪」


 優香がもう一度、胸の前で両手を握った可愛らしい応援ポーズで、エールを送ってくれた。

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