第87話 FLYING IN THE SKY
「うぅ~っ! だから! 女の子は外ではそんなことはしないって言ったんですー!」
えーと、なんか妙にキレ気味に言われてしまったんだが?
「お、おう、そうか」
「そうですぅー!」
「そ、そうだよな。女の子はいろいろ気を使わないといけないから大変だよな」
もしかして俺、何か優香の気に障ることを言っちゃったかな?
特に変なことを言った覚えはないんだけどな。
優香だって、さっきまでは楽しそうに話していたと思うんだけど。
それともあれかな?
優香もテスト勉強の疲れが溜まっていて、ちょっとナーバスになっているとか?
優香は俺よりはるかに成績がいいけど、いい順位をキープするのも結構大変だって、勉強会の時に言っていたもんな。
当然、俺より高難度で高負荷の勉強をしているだろうし、その分疲れも溜まっているのかもしれない。
勉強会では本当にお世話になったし、疲れているのなら何かしてあげたいな――とか思うんだけども。
例えば身体を伸ばせないなら、代わりに肩でも揉んであげたいところだ。
でもこれを男子が女子に言ってしまうと、ガチでセクハラ案件になってしまうので、言わないで胸に秘めておくことにした。
身体に触るのが目的だと勘違いされて、嫌われてしまったら最悪過ぎる。
君子危うきに近寄らずだ。
もしこれが健介とかが相手なら、
「肩揉みしてやるよ」
↓
「お、サンキュー」
↓
「からの、容赦ないツボグリグリ!」
↓
「ギィヤァァァッ!? やりやがったなテメェ!? 倍返しにしてやるぜ……!」
みたいなノリなんだけどな。
さすがに女子に「肩を揉んであげようか?」なんて提案はできないし、学園のアイドルと呼ばれる優香にするのはもっての
「テスト明けのこの瞬間って、最高に気持ちいいよねー」
けれど優香は、特に何もなかったかのように会話を再開する。
どうやら怒っていたと感じたのは、俺の勘違いだったようだ。
ふう、何でもなかったみたいで良かった良かった。
ちょうどバス停に着いたので、2人並んでバスを待つ。
「やっと終わったっていう解放感で、気持ちがふわ~ってなるよな」
俺はホッと一安心しながら、いつも通りに言葉を返す。
「だよね~。ふわ~ってなるよね」
「しいて言うなら、ちょっと天気が悪いのが残念だけどな」
見上げた空は、雨こそ降っていないものの分厚い雲で覆われている。
今日は朝からずっとこんな感じだった。
「今日は夕方まではずっと曇りだけど、なんとかもって、夜からしっかり降るみたいだよ。朝の天気予報で言ってたから」
「テスト当日に、朝の天気予報を見る余裕があるとはさすが優香だ」
もちろん俺にはそんな余裕はなかったぞ。
「学校行く前に最新の天気予報くらい見るでしょ?」
「いや……うん……」
「そ、そう……」
優香が何とも言えないちょっと微妙な顔をした。
「まぁ天気予報の話は置いといてだ。ほんと、今なら気分が良くて空も飛べそうだよ」
「飛んじゃダメだよ? 人間は空を飛べない生き物なんだからね?」
「いや、今なら飛べるかもしれないぞ? この大空をどこまでもな!」
FLYING IN THE SKY!
「じゃあもし飛べたら動画で撮って送ってね。その動画を使って、私有名人になるから」
「ひどい、せめて俺を有名人にしてくれ!」
「それは蒼太くんの日頃の行い次第かな? なーんてね、ふふっ」
テスト明けで気分がいいからだろうか、優香はいつもより少しノリが良くて、声も軽く弾んでいる気がした。
普段の落ち着いて大人びた優香も素敵だけど、こういうちょっと子供っぽい優香もまた同じくらいに魅力的だなと、そんなことふと思ってしまった。
「俺、人生で一番幸せな瞬間は二度寝してる時だって思ってるんだけどさ。二度寝ととどっちが気持ちいいかって問われたら、テスト明けの開放感だけはどっちが上かは即答できないかな」
「うんうん、二度寝も気持ちいいけど、この解放感はまた別格だよねー」
「へぇ、優香も二度寝は好きなんだ?」
「二度寝が嫌いな人類なんていないでしょ? ふふっ」
「だよな。ははっ」
俺と優香は顔を見合わせて笑いあった。
「そ、そうだ。蒼太くん?」
と、話が一段落したところで、優香がおずおずといった様子で切り出してきた。
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