第84話 ~優香SIDE~、~美月のあのね帳~

~優香SIDE~


 自分の部屋の窓辺にもたれかかりながら、私は物思いにふけっていた。

 雲一つない夜空に明々と光る星々を見上げていると、


「はぁ……」

 私の口からは今日何度目か分からない、小さな溜息がこぼれ出た。


 最近の私はとても変だった。

 なにが変って、蒼太くんといると、言わなくてもいいことを言ってしまうのだ。

 今日のお勉強会でもそうだった。


 話の流れの中での偶然だったとはいえ、せっかく2人きりのお勉強会に誘えたっていうのに、


『決して個人的に蒼太くんと新婚さんになったみたいとかそんな風には思ってないんだからねっ! ほんとなんだからねっ!』


 焦った私は、思っていたこととはまったく正反対のことを、面と向かって蒼太くんに言ってしまったのだ。


 正直に言おう、めちゃくちゃ思っていた。

 ブレザーをハンガーにかけてあげるだなんて、新婚ほやほやの新妻さんみたいだよね、とか超思っちゃっていた。


『ご飯にする? 先にお風呂に入る? それとも……わ・た・し?』

 みたいなことを、思わず口走ってしまいそうだった。

 言わなくて本当に良かった。


 だっていうのに。


「ううっ、なんであんなことを言っちゃったんだろう……蒼太くん、傷ついたよね。ごめんなさい蒼太くん」


 窓辺から夜空を見上げながら、私は後悔と懺悔の言葉を口にする。


 なんでと言いながら、実のところ理由は分かっている。

 私は秘めた恋心を、蒼太くんに知られてしまうのが怖かったのだ。

 今の関係が壊れることを、私はとても恐れていたから。


「もし今の関係が壊れてしまったら、美月を悲しませることにもなっちゃうもんね」


 自分の気持ちを受け入れてもらえないだけでも悲しくて怖いのに、それだけじゃなくて美月も悲しませてしまうと思うと、私の心からは勇気という勇気が全部、零れ落ちていってしまって――。


「はぁ……」

 なんとも力なくついた溜息は、初夏の穏やかな夜風に乗って、誰に聞かれることもなく夜空へと消えていく。


「あ、夏の大三角……」


 デネブ、アルタイル、ベガ――夏の夜空に我が物顔で居座る一等星たち。

 雲一つない夜空で、自由気ままに気持ちよさそうにきらめく星たちを見て、私は無性に憎らしく感じてしまうのだった。



~あのね帳(姫宮美月)~


先生、あのね、今日は、こっそり作せんを、しました。

そうしたら、お姉ちゃんと、そうたお兄ちゃんが、お姉ちゃんの、おへやで、こっそり2人で、見つめ合って、いました。


こうこう生になると、こういうのが、大じなんだって。

美月も、はやく、こうこう生になって、そうたお兄ちゃんと、大じなことを、したいです。


そして、お姉ちゃんは、せきにんがあるので、そうたお兄ちゃんの、めんどうを、見るんだって。

お姉ちゃんは、やさしいなと、おもいました。

美月も、大きくなったら、そうたお兄ちゃんに、めんどうを、見てほしい、です。

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