第34話 普通の女の子
その日の放課後。
「蒼太くん、今日一緒に帰らない?」
自分の席でのんびりと帰り支度をしていた俺に、優香が声をかけてきた。
「そうだな、一緒に帰ろうか」
特に用事もないので俺が二つ返事でオッケーすると、
「一緒に登校したと思ったら下校まで一緒とか……! くそぅ、やっぱりお前ら付き合ってるんだろ!?」
健介が世界の終末でも目の当たりにしたかのような震え声で呟いた。
「だからそういうのとは違うんだってば。俺も優香もどっちもバス通学だからだよ。クラスメイトなんだから、途中まで一緒に帰ったって何も変じゃないだろ? なぁ優香」
「そ、そうだよねぇ蒼太くん!」
「くぅ……! なんか妙に息が合ってるしよぉ」
「クラスメイトなんだから息が合うことくらいあるだろ? 年も同じだし、毎日同じ教室で授業を受けてるんだから。なぁ優香」
「そ、そうだよねぇ蒼太くん!」
「くっ……! たしかにクラスメイトなら不思議じゃない。決して不思議じゃないんだが……!」
魔法の言葉「クラスメイト」。
効果は抜群だ!
「そういうわけだから今日は優香と帰るな。じゃあな健介、また明日」
「またね服部くん」
俺は「なんとも腑に落ちないけど、でもこれ以上追求もできない。きぃぃ、悔しいっ!」って顔をした健介に軽く手を振ると、優香と共に学校を後にした。
登校した時と同じように他の生徒たちからの注目を浴びたものの、なにせ俺たちはクラスメイトなんだから一緒に帰るくらい全然普通なのだ。
俺は心の中で必死にそう自分に言い聞かせることで、向けられる視線の圧力に耐え続けた。
そしてそれと同じくらい強く、俺はともすれば優越感を覚えてしまいそうになる自分の心に言い聞かせていた。
俺たちは単なるクラスメイトに過ぎず、健介が言うような「友達以上恋人未満な関係」でもなんでもないのだということを。
今日は優香がやけに積極的に絡みにきている気がするけれど、だからといって勘違いはするなよ紺野蒼太。
何度も言うが俺は「美月ちゃんを助けた恩人枠」のクラスメイトってだけなんだからな。
何年もずっと仲のいい女友達がいて、夏祭りや遊園地に何度も一緒に遊びに行ったからきっと自分に気があるはず――そう思って告白してみたら、「〇〇くんは友達としてしか見れない」と言われて振られてしまった男子高校生の話は、ネットを見れば至るところに溢れている。
俺は、学園のアイドルと一緒に下校するというシチュエーションに、どうにも浮つきそうになる自分の心を厳しく律しながら高校を出ると、バス停へと向かった。
「帰りもすごく見られちゃってたね。別に私たち、そういうのじゃないのにね?」
「優香は学校じゃあ知らない生徒はいない、超有名人だからなぁ。みんなの憧れだし」
そんな優香がどこにでもいる平凡な俺なんかと一緒に登下校をしていたら、注目を集めないはずがない。
俺だって当事者じゃなければ何事かと思って、3度見くらいしてしまいそうだ。
「私だって普通に高校生の女の子なんだけどね……。普通にご飯も食べるし、授業はついていくのでやっとだし、よく失敗はするし、午後の授業はつい寝ちゃったりだし……」
そう小さく呟いた優香は少し寂しそうでいて。
誰もが羨む学園のアイドルも、実は俺と同い年の一人の女の子なのだということに、俺はこの時初めて思い至った。
「ごめん、今のは俺が間違ってた。実を言うと、俺も今まで優香のことを色眼鏡で見ちゃってた。みんなが憧れてやまない学園のアイドルだって意識がすごく強くて。でもそうだよな、優香だって俺と同じ普通の高校に通う女の子なんだよな」
そんな当たり前のことに、俺は今さらながらに気付かされていた。
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