第80話 優香の言葉に震えあがる俺と美月ちゃん((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

「あの、蒼太おにーちゃん」

 と、指を離した美月ちゃんが、自分の指をじっと見ながら呟いた。


「どうしたんだ、美月ちゃん?」


「指切りげんまんの『げんまん』って、どういう意味なんですか?」

「え、急に言われても……」


 げんまん、ゲンマン……ダメだ、全く想像もつかないぞ。

 今までなんとなく言っていたけど、いざ改めて問われてみると何のことだかさっぱり分からない。

 それどころか、それっぽい漢字すら思い浮かばないときた。


「蒼太おにーちゃんでも分かりませんか?」

「あーうん、ごめん。俺でもというか、むしろ俺はあまり知恵袋キャラじゃないからさ……」


 俺はどっちかっていうと、頭がいい頭脳キャラではなく、ちょっと察しがいいだけのアホキャラ寄りだろう。


「そうですか……熱心に勉強していた蒼太おにーちゃんなら、知っているかと思ったんですが……」


 うぐっ、美月ちゃんが目に見えてションボリしてしまったぞ!?

 超ションボリしてしまったぞ!?

 俺に対する謎の信頼度の高さを、今まさに裏切ってしまっている感じがしてしょうがない……!


 俺は美月ちゃんの信頼に応えるためにも、なんとか答えにたどり着こうと必死に頭を巡らせては見るものの。


「そもそも『げんまん』って、これって日本語なのか? こんな日本語聞いたことないんだけど」


 ってことは外国語か?

 そう考えると、どんどんと異国風の響きがしてきたような。

 例えばドイツ語とか……って、それはゲンマンじゃなくてゲルマンか。


 あ、はい。

 寒いギャグでしたね、すみません。


 だめだ、これはもうスマホで調べた方が早いな。

 答えられないよりは、ウィキペディアなりなんなりの解説を読み上げた方がいくらかマシだろう。

 そう思った俺がスマホを取り出そうとすると、タイミングを見計らったように優香が助け舟を出してくれた。


「げんまんはね、手でグーをする『拳』と、数の1万とか2万の『万』って書くの。つまり『嘘をついたら1万回あなたをグーで殴ります』っていう意味ね」


「1万回もグーで殴るんですか!?」

「昔の人はなんて暴力的なんだ、こわっ!?」


 優香が教えてくれた『げんまん=拳万』の驚愕の内容に、美月ちゃんと俺は震えあがった。


「ついでに針も千本飲まないといけないから、絶対に嘘はついちゃだめだってことだね」

 そんな俺たちを見て優香が妙に楽しそうに笑う。

 まさか優香のやつ、清純派の振りをしてこっそりドSだったりするのか!?


「美月、蒼太おにーちゃんに1万回殴られたくないので、嘘は絶対につきません」

「あ、蒼太くん、美月を殴っちゃだめだからね? DVだからね?」


「いやいや殴らないから。自慢じゃないけど俺は女の子どころか、男子相手にけんかをしたことすらない、根っからの平和主義者だから」


 姫宮親衛騎団(健介によると既に解散したらしい)の最高幹部たちに呼び出されてボコられそうになった時、完全無抵抗だったのは伊達じゃない。


「だって。良かったわね、美月」

「蒼太おにーちゃんもやっぱり優しいですね」

「ははっ、サンキュー」


「ところで美月」

 と、ここで優香が少し真面目な顔をして言った。


「はい、なんですかおねーちゃん?」


「さっき美月はどうしてこっそり覗き見なんてしていたのかな? お姉ちゃん、そういうのはあんまりよくないって思うなぁ」


 どうやら部屋の中をこっそり覗かれていたことを、優香は怒っているようだった。


 嘘はダメだと念を押した後にこの話題を振るとは、やるな優香。

 練りに練られた教育的指導だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る