第79話 美月ちゃん、鋭いツッコミをする。

「お、おう。そうだぞ」

 優香の言葉に俺はコクコクと頷く。


「ほんとほんと、勉強に集中し過ぎてて、美月が来たことなんて全然気付かなかったよね~!」

「そ、そうだなぁ。ちょっと気合入れて勉強し過ぎてたもんなぁ~」


「お勉強……? 見つめ合ってですか?」

 しかし美月ちゃんは鋭いツッコミを入れながら、小さく首をかしげた。


「あれはだから、その……そう! 高校生にもなるといろんな勉強の仕方があるんだよね~! 小学生の美月にはまだちょっと分からないだろうけど、高校生にもなるといろいろと大変なんだよね~!」


 優香も相当テンパっているのか、さすがに説明が苦しい。

 見つめ合う勉強法って、さすがになんだそれ状態だろ。


 だがしかし。

 美月ちゃんはとても純粋かつ、お姉ちゃん大好きっ子なようだった。


「そうなんですね! さすが高校生です! すごいです!」

「あ、あはは~……」


 なんとか上手く話が逸れてくれた……のか?


「美月はてっきり、蒼太おにーちゃんとお姉ちゃんがこっそりおうちでデートしてるのかな、って思っちゃいました」


「で、でででデートじゃないからね? 高校生には中間テストっていうすっごく重要なテストがあって、しっかりと勉強しないといけないのよ! ねっ! 蒼太くん!」


「も、もちろんだとも」


「……中間テスト」


「そ、そうよ? な、なに?」


「高校のテストのお勉強って、手を繋いでするんですね」


 だよな!

 手が触れ合っていたのはやっぱり見られてたし、そこを不思議に思うのは当然だよな!


「あ、あれはたまたま、私が辞書を取ろうとしたら、同じタイミングで蒼太くんも辞書を取ろうとして、極めて稀な偶然で手が触れちゃっただけで、けっして手を繋いでたわけじゃないから!」


「あ、そうだったんですね。美月てっきり、おねーちゃんと蒼太おにーちゃんが仲良しさんになって、手を繋いでいたのかと思っちゃいました」


「そ、そういうんじゃないから! まったくもう、美月はおマセさんなんだから。ね、蒼太くん!」


「そうだぞ。今日はな、俺があんまり学校の成績が良くないから、優香が心配してくれて一緒に勉強会をすることになっただけなんだ」


 そりゃあもちろん優香と2人きりでおうちデートみたいだ、とか思わなくなかったと言えば嘘になるけど。

 一応ちゃんと真面目に勉強はしていた。

 嘘は一つも言っていない。


「おねーちゃん、優しいんですね」

「ああ、すごく優しいな。それだけじゃなくて頭もすごくいいんだぞ?」


「はい、自慢のおねーちゃんですから」

 大好きな優香のことを褒められて、ちょっと自慢げにいつものフレーズを言う美月ちゃん。


「だってさ優香。自慢のお姉ちゃんだって」


「もう、恥ずかしいからやめてよね」

 そう言いながらも、美月ちゃんに慕われてまんざらでもなさそうな優香だった。


 素敵な姉妹関係、いいなぁ。

 しかもどっちも美人だし。


「美月も早く高校生になって、おねーちゃんみたいに制服を着て、いろんなことをしてみたいです」


 その言葉に、俺は数年後ちょっとだけ大人になった美月ちゃんが、優香と同じ制服を着ている姿を想像する。


「ははっ、制服姿の美月ちゃんは可愛いだろうな。俺も早く見てみたいよ」

「もちろんです。その時は一番に蒼太おにーちゃんに見せてあげますね」


「それは嬉しいな。今から楽しみにしているよ。約束だぞ?」

「はい、約束です」


 美月ちゃんが小指を立てた右手を出してくる。

 これは、あれだな。

 前にも美月ちゃんと一回やったあれだ。


 俺は同じように小指を立てた右手を差し出すと、美月ちゃんの小さな小指と絡め合った。


「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本、飲~ます!」」


 俺と美月ちゃんは絡めた指をおおげさに上下させながら、声を合わせて指切りの歌を歌った。


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