第20話 視線の先で――
美月ちゃんを助けたことで優香と親しくなって以来。
また朝と帰りに毎日挨拶をするようになってから。
優香という女の子のことがどうにも気になってしまって仕方がなかった俺は、自然と優香に視線を向けることが多くなっていた。
そんな俺がそれとなく視線を向けた先では、
「
2時間目の授業が終わってすぐに、優香が親友の古賀
「ごめん優香、あたし今日日直でしよ? 先生に次の授業の資料運び頼まれてるから先に行っててくれる? 職員室寄らないといけないんだよねー」
「だったら私も手伝うよ?」
「そんなの悪いからいいってば。優香は先に行ってて」
「いいからいいから。おしゃべりしながら一緒に運ぼうよ♪」
「ううっ、優香はほんといい子だねぇ……」
二人は世界史の教科書ノート一式を持って連れ立って教室を出ると、職員室方向に歩いて行った。
こんな具合に優香は先生からの頼まれごとを一緒にやってあげたり、友達の宿題を手伝ってあげたりと、面倒見の良さを日々発揮していた。
今まではモデルみたいに綺麗で、アイドルみたいに可愛くて、マザーテレサのように優しい子だなくらいのふんわりとしたイメージで、特にそれ以上は意識はしなかったんだけど。
あの日美月ちゃんを送り届けた時に少しだけ優香のことを知った今なら、それが共働きのご両親に代わって美月ちゃんの面倒を見ているからなんだなと、おおいに納得ができた。
このことはおそらく他の男子は誰も知らないはず――そのことにちょっとした優越感も覚えてしまう。
俺だけが知っている優香のプライベート――、
「って、俺はなにを上から目線で考えてんだよ……アホかっての」
優香たちと同じように移動教室のために椅子から立ちあがりながら、あまりにもイタい妄想をしてしまって思わず自嘲気味につぶやいた俺に、
「蒼太、今なんか言ったか?」
先に教室を出ようとしていた健介が、入り口のドアのところで肩越しに小さく振り返った。
「ああいや、なんでもないよ。俺はアホだなってつい口から出ただけだから」
「……お前大丈夫か? 最愛の彼女に振られたせいで自己肯定感が下がって、鬱になって自殺とかするなよな?」
俺の方に向き直った健介が、妙に心配顔で恐るおそる言ってくる。
「今のはそういうんじゃないから。でも心配ありがとな健介。ついでにマック奢ってくれていいぞ、デザート付きで」
しかし俺が軽い口調で応じると、
「けっ、てめぇに奢るマックはないとこの前言ったはずだぜ、このリア充のモテ王がよぉ!」
健介は心配顔から一転、いつものアホな健介へと早戻りした。
「誰がモテ王だよ、誰が……」
「はんっ! 超がつく美少女とばかりとお近づきになるお前以外に誰がいるんだよ? まったくよりにもよってあの学園のアイドル姫宮さんにまで手を出しやがって」
「手なんて出してないから。本当にただの友達だから」
「はっ、どうだかな? 週刊誌に熱愛スクープされた芸能人は、みんな初めはそう言うんだよなぁ」
「俺は芸能人要素皆無のどこにでもいる一般人だっての」
「一般人がこんなに次々と美少女とばかり仲良くなれるかよこの野郎! あ、嘘ですすみませんモテ王の蒼太様、ちょっとでいいので俺にも可愛い女の子にモテるコツってやつを教えてくれませんかね? でへへ、正直羨ましいっす」
健介が揉み手をしながらだらしない顔で聞いてくる。
「マジで優香とはそういうんじゃないんだよなぁ」
「とてもそうは見えないんだよなぁ」
「残念ながらこればっかりは嘘偽りのない真実だから」
無いことを証明するのはいわゆる「悪魔の証明」だ。
信じてもらえないのであれば、俺にできることはもうありはしない。
「まったく、この期に及んでまだ認めないとは強情な奴だぜ」
とかなんとか言いつつも、健介はそれ以上の追及はしてこなかった。
ウザ絡みはしてくるけど、しつこく絡み続けては来ないのが健介のちょっといいところだ。
「それより移動教室だし早く行こうぜ。もう教室に残ってるの俺たちだけだし」
「だな」
俺は健介と一緒に、次の授業が行われる視聴覚室へと向かう。
廊下を歩いていく途中で葛谷のクラスの前を通った時に、ふと教室の中へと視線を向けてしまい、友だちと話していた
葛谷は目が合った瞬間、バツの悪そうな顔をしてすぐに俺から視線を逸らした。
ま、それでなにがどうって話なわけじゃない。
葛谷との関係は俺の中ではもう終わった話だから。
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