第16話 教室にて優香と再会。
「だったらもっと親友らしいことをしてくれていいんだぞ?」
「よっし、なら今度マックでセットを奢ってやろう」
「うっそ、マジで?」
高校生のお小遣いでマックセットの奢りは結構な大盤振る舞いだぞ!?
「マジマジ。蒼太と葛谷さんとのお別れ記念会だ、盛大にやろうぜ」
「記念とか言うなよ記念とか。ほんとに泣くぞ?」
「泣きたいなら俺の胸で泣きたいだけ泣けよ。いくらでも話を聞いてやるからさ」
「そこまで言われると正直嘘っぽい……つーか顔がニヤけてるぞこの野郎! お詫びにセットにプラスでデザート追加な」
「デザート追加で許してくれるとか安い男だなぁ蒼太は」
「ばーか、健介の切ない懐事情を考慮してやってんの」
「さすが親友、話が分かるぜ」
これでもかと気を使ってくれた友達思いの親友とバカ話をしながら、俺は自分のクラスである2年1組の教室に向かった。
そして少しだけ心の準備をしてから教室に足を踏み入れた。
すると――、
「あ、蒼太くん。おはよう♪」
まるで俺が教室に入ってくるのを待ち構えていたかのように、姫宮さん――優香から挨拶の声を投げかけられた。
お姫様のような極上の笑顔が当前のように添えられている。
「わおっ♪」
それを見ていつも優香と一緒にいて、今も直前まで優香と話していた古賀
「優香、おはよう」
俺は昨日の夜と今日の朝、合わせて300回くらい練習してきた挨拶を優香に返す。
おふぅ、緊張したぁ……。
やっぱり姫宮さんを学校で優香って名前で呼ぶのは、周囲の目もあってめちゃくちゃドキドキするぞ。
なにせ今、周りを見渡してみるとだ。
教室に入るなり親しげに会話を始めた俺と優香を、クラスメイト全員が驚きの表情でもって見つめてきたのだから。
俺の隣でさっきまでくっちゃべっていた健介も、
「…………????」
目と口と、あと鼻の穴まで大きく広げて、まるで油の切れたブリキ人形のように固まって俺を見つめていた。
「昨日はありがとね、蒼太くん。美月もありがとうって」
「さすが美月ちゃん、相変わらず礼儀正しいな」
「そうなんだけど、でも大変だったのよ?」
「大変って?」
「朝学校に行く前に『ちゃんともう一回蒼太おにーちゃんにお礼を言ってね。絶対の絶対だよ!』って何度も言われちゃったんだもん」
「あはは、美月ちゃんにはすっかり懐かれちゃったみたいだなぁ」
「どうもそうみたいね。でも美月を蒼太くんに取られちゃった気分で、なんだかちょっと悔しいかも?」
昨日の夜からずっと続いている胸の高鳴りを隠しつつ、つい早口になりそうなのを必死に抑え込みながら平静を装って話す俺とは対照的に。
全くなんでもない様子で話を続ける優香。
でもそうだよな。
美月ちゃんが俺を気に入ったおかげで、俺は他の男子よりもちょっとだけ優香と仲良くなれただけなんだ。
美月ちゃんを抜きにしたら、優香にとって俺はその他大勢の一人のままなんだよな。
俺が勝手に優香のことを意識してしたっているだけ。
うん、やっぱり昨日は連絡しないで正解だったな。
すんでのところで思いとどまった昨日の俺、グッジョブ!
さてと。
ならば俺も勘違いくんと思われないように、「普通の俺」をこなすとしよう。
その先があったらそれはまたその時次第だ――って、そんな先はまずあり得ないだろうけど。
美月ちゃんを通して仲良くしているうちに、学園のアイドルが俺を好きになってくれるかも――なんてのは妄想にしてもイタすぎる。
「それと、はいこれ。蒼太くんの服。返しておくね」
優香がこじゃれた紙袋を手渡してきた。
その時にちょっと指先が触れ合ってしまって思わずドキッとしてしまう。
でも俺も男なので、こうやってつい反応してしまうことくらいは許して欲しい。
「サンキュー。俺が借りた服はまだ洗濯が終わってないから、明日にでも返すよ」
「別に急がないでいいからね」
「言っただろ、借りた物を返すのは早い方がいいってのがうちの家訓なんだって」
「だからそれ、ウソ家訓なんでしょ?」
優香が右手を口元にやってくすくすと笑う。
さすがは学園のアイドル、こういう何気ない所作ひとつとっても絵になるよなぁ。
――なんてことをしみじみと感じながら、優香のSランクの笑顔を幸せな気持ちで見つめていると、
「おいこら蒼太くんよぉ? ちょっとこっち来いやぁ?」
俺の両肩を後ろからガッシリと掴んだ健介が、地獄の底から響いてくるような恐ろしい声とともに、力の限りにギリギリと指を食い込ませながら強引に俺を引っ張りはじめた。
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