第70話 優香のお部屋
「ただいま~。蒼太くんもあがってあがって」
「お邪魔しま~す」
優香の笑顔に招かれて、俺は今までに何度か訪れたことがある姫宮家へと入った。
玄関で靴を脱いだら今までと同じようにリビングへ――と思ったら、
「じゃあ私の部屋に案内するわね。ついてきてくれる?」
「え、お、おう」
階段を上がった二階にある優香の部屋へと案内されてしまった。
え?
いや、え?
俺は困惑しながら、優香に続いて階段を上っていく。
「どうしたの?」
初めて歩く姫宮家の階段をなんとも緊張しながら上がる俺に、前を行く優香が慣れた様子で振り返った。
「俺てっきり、リビングでやるもんだと思っていたからさ」
今まで美月ちゃんも含めた3人でおままごとをしたりゲームで遊んだ時は、いつもリビングだった。
だから当然、今日の勉強会もリビングでやるものだと思っていたのだ。
「リビングよりもお部屋の方が気が散らないかなって思ったんだけど……」
「な、なるほどな。たしかにやるなら部屋の方が集中できそうだよな」
っていうか「やる」って言い方が、なんともいやらしいよな――などと考えてしまうのは、優香の部屋に招かれるということに対して、俺が過敏に反応し過ぎているからなのだろうか?
ごめんな優香、部屋に入るだけでいやらしいこと考えちゃってさ。
男子高校生って、本当にアホなんだよ。
それでも、少なくとも考えた時点でアウトだと思った俺は、心の中でそっと優香に謝った。
ともあれ。
先を行く優香に続いて、俺は優香の部屋へと足を踏み入れた。
「誰かを家に呼ぶ予定はなかったから、ちょっと散らかってるけどごめんね」
部屋に入ってすぐに優香が謙遜してそう言ったものの、
「そうか? 綺麗に片付いていると思うぞ」
ベッドと勉強机、透明なオシャレ座卓のある、俺がなんとなくイメージするような素敵な女の子部屋は、綺麗に片づけられていて掃除が必要なようには思えない。
まぁ社交辞令というやつだろう。
しかし優香の部屋か……初めて入ったけど、なんかいいな。
ベッドの枕元に小さなぬいぐるみがあったり、本棚にオシャレ雑誌や恋愛漫画が入っていたりと、実に女の子らしくて、俺は胸がそわそわするのをどうにも抑えられないでいた。
「蒼太くん、のど乾いてない?」
「少し乾いてるかも」
「じゃあ紅茶でもいれてくるね。お砂糖とかミルクは入れる?」
制服の上着のブレザーを脱いで丁寧にハンガーにかけながら、優香が聞いてくる。
「サンキュー。紅茶は……ストレートでお願い」
本当は砂糖がしっかり入った甘い紅茶が好きなんだけど、優香に子供っぽく見られたくなくて、俺はつい見栄を張ってしまった。
まぁうん、俺も年頃の男子高校生なので。
「ストレートね。じゃあせっかくだし、今日は私もストレートで飲んでみようっと。普段はお砂糖とミルクがたっぷりのが好きなんだけどね。えへへっ」
「お、おう」
ブレザーを脱いで純白のブラウス姿で、少し恥ずかしそうに笑う優香が可愛すぎて、俺の胸はさらにドキドキを大きくしていった。
ドキドキが優香に聞こえるんじゃないかって不安になってくるほどだ。
「あ、蒼太くんもブレザー脱ぐよね?」
「そうだな、ちょっと脱ぎたいかも」
別に我慢できないほどではないが、正直少し暑かった。
「もうそろそろ、室内で冬服はちょっと暑いもんね。湿度も高くなってきてるし」
「6月に入ったらすぐに衣替えだしな」
「今がちょうど切り替えの直前の、一番微妙な時期だよね。ふふっ」
俺が脱いだ上着を受け取ると、これまた綺麗にハンガーにかけてくれる優香。
その様子が妙に楽しそうに見えたので、
「なんか楽しそうだよな?」
俺は特に深い意味はなくて、なんとなく理由を尋ねてみた。
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