第108話 いい考え
「いやほんと、マジで下心とかはなくて、とりあえず思いついたことを――って、え?」
俺はそこで呆気にとられて言葉を止めた。
え、今なんて?
なんかうちに泊まるのがいい案だ、みたいなセリフが優香から聞こえたんだけど?
ははっ、ワロス。
ないない。
ない寄りのない。
永遠の
いったい何をどうやったら、そんなアクロバティックな聞き間違いをできるんだっての。
しかしそれが聞き間違いでも、勘違いでもなんでもないことが、すぐに優香本人の口から語られる。
「そうだよね。どうやって家に帰るかばかり考えてたけど、よく考えたら別に大雨の中を無理して帰る必要はないんだよね」
「え、いや」
「押してもダメなら引いてみな、帰れないなら泊まっていけ。なるほどなるほど、発想の転換だよね~」
「それはまぁうん、そうではあるんだけどさ。でも俺たち高校生だし――」
「そうだよね。私たち『もう』高校生なんだよね。来年には成人して選挙権も貰えるんだし」
「でも、男の家に女の子が泊まるっていうのは、なぁ?」
「それなら大丈夫!」
妙に自信満々で優香が断言した。
「えっと、そんな風に言い切れる根拠は?」
その自信の源とはいったい――?
「だって私、蒼太くんのことを信頼してるもん」
優香はそう言うと、冬の夜空のようにキラキラと澄み切った瞳で俺を見つめてきた。
その表情たるや完全に俺のことを信頼しきっていて、俺がいやらしいことをしでかすなんて、微塵も思っていないように見える。
美月ちゃんを助けたことで、優香の中で俺は108の煩悩を全て捨て去った聖人君子のように祭り上げられているのかもしれなかった。
っていうか、それは根拠でもなんでもないからな?
優香の完全な主観だからな?
俺だって年頃の男の子なわけで、聖人君子でもなんでもないんだからな?
「でも男の家に泊まるだなんて、優香のご両親が許さないだろ?」
「そこはまぁちょっとね。お父さんもお母さんも蒼太くんのことをよくは知らないから」
よく知っていても許さないと思うけどな?
「だろ? だったらやっぱり、何とかして帰る方法を――」
「でもでも、それをなんとかするためのいい考えがあるんだよね~」
優香が珍しくニンマリというか、得意げな顔をした。
「いい考えって?」
「ちょっと待っててね。今から
そう言うと優香はスマホで電話をかけ始めた。
菜々花ちゃんってのは、俺たちと同じクラスで優香の大の仲良しでもある古賀菜々花のことだ。
愛嬌があって結構可愛い子なんだけど、アイドル級に可愛い優香と一緒にいるせいでどうしても優香と比較されてしまって過小評価される、ちょっと不遇な女の子だった。
それはさておき。
俺は盗み聞きしてないよというのが優香に伝わるように、優香と反対側を向いて部屋の壁の方へと視線を向けた。
親しき仲にも礼儀あり、だ。
「あ、菜々花ちゃん? 急に電話しちゃってごめんね。あのさ、今日菜々花ちゃん、仲のいい先輩とお泊まり会するって言ってたよね? あれ、私も参加してることにしてくれないかな? うん、そう……えっ、ち、違うから! カレシとかじゃないから! え? な、なんで蒼太くんの名前がここで出てくるのかなぁ!? なに言ってるのか分からないなぁ? い、意味分かんないなぁ!? だから違うんだってばぁ! うん、そう、そうだよ。もう、菜々花ってばぁ……うん、ありがと菜々花ちゃん。じゃあそういうことでよろしくね♪」
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