第96話 スーパーカップはね、本当はエッセルなんですよ。

 ここでアイス道を究めんとする高校生アイス研究家・紺野蒼太の見解を披露しよう。


 森永チョコモナカジャンボと明治エッセルスーパーカップ。

 どちらも値段は他のアイスと変わらないのに、明らかに内容量が多く、食べ応えが抜群だ。


 特にスーパーカップは別格の内容量を誇り、アイス界のコスパキングとも言えるほどの存在だが、文字通りカップアイスなので食べ歩きにはやや不向きである。

 よってここはかじって食べれるチョコモナカジャンボ一択だった。


 なお、コスパの良さではガリガリ君も負けてはいないが、あれは真夏に食べたくなる氷菓系なので今回は最初から選択肢から外している。


 ちなみに「スーパーカップ」はたくさん入っているという意味の修飾語に過ぎず、あのカップアイスの本当の商品名は「エッセル」である。


 しかし修飾語であったはずのスーパーカップが非常に分かりやすく、対して商品名のエッセルがイマイチピンとこなかったせいで、今やほぼ全ての消費者から「スーパーカップという名前のアイス」として認知されていた。


(~アイス研究家・紺野蒼太の明日から使えるアイス豆知識~)



「ふふっ、男子はまずコスパ重視だもんね」

「たくさん食べれた方がシンプルに嬉しいからな」

「男子ってほんとたくさん食べるよねー」


 楽しそうに笑いながらアイスコーナーを眺めていた優香は、


「じゃあ私はこれにしよっと」

 雪見大福を手に取った。


 言わずもがな、雪見大福は他に類を見ないオリジナリティで人気を博すオンリーワンの個性派アイスだ。

 ただし内容量が少ないので、男子高校生の胃袋的には選択肢に上がりにくい。

 逆に量を重視しない女の子向けのアイスと言えるだろう。


「いいね。悪くないないチョイスだよ」

「でしょでしょ? アイスなのに、柔らかいもちもち感が絶妙に美味しいんだよね~」

「あれだけは他のアイスにはない、雪見大福だけの食感だもんな」


 というわけで、晩ご飯の食材にチョコモナカジャンボと雪見大福を加えると、俺たちは今度こそレジに向かった。

 空いていたセルフレジでぴこぴこバーコードを通していくと、俺が雪見大福を取ろうとした寸前で、優香がさっと雪見大福を手に取った。


「自分のアイス代は自分で出すから」

 どうもそういう言い分のようだった。

 だがしかし。


「いやいや、これだけ買ってアイスだけ優香持ちはさすがにないだろ? それに料理を作ってもらうんだから、アイスはそのせめてものお礼ってことで。な?」


「そう? じゃあご馳走になっちゃおうかな?」

「なっちゃってくれ」


 俺は優香から雪見大福を受け取ると、読み取り機でバーコードを読み取った。


 こうしてスーパーで簡単に買い物を済ませ、帰り道でアイスを食べ食べしながら、ついに俺と優香は最終目的地である紺野家へと到着した。


「さあどうぞ。入って入って」

 玄関の鍵を開けてドアを開けると、優香を紺野家へと招き入れる。


「お、お邪魔しま~す」


 恐るおそるといった感じで玄関の敷居をまたぎ、通学用のローファーを脱ぐ優香は、さっきまでとは打って変わって目に見えて緊感していた。


 やっぱり家人のいない男子の家にあがるってことで、かなり警戒しているよな。

 ま、それも当然だ。


 だからこそ、俺はわずかたりとも優香の信頼を裏切るような不埒ふらちな真似だけはしないでおこうと、改めて胸に誓ったのだった。


 俺はどんな誘惑にも負けはしないぞ!

 今この瞬間から優香が家を出るまでが、俺の男の見せ所だ――!

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