第53話 天使と女神

 いったん2人と別れた俺はちゃちゃっと着替えると、2人よりも先に大時計の下にやって来た。

 プールのある屋内施設はかなりの広さだが、暖房がしっかりと効いていて、まだ春の終わりという時期にあっても、海パン一丁でまったく寒さは感じない。


 何もしないでぼーっと待っているのもなんなので、先に軽く準備運動を始めておく。

 適当に身体を曲げたり伸ばしたり回したりしていると、すぐに優香と美月ちゃんが着替えを終えてやってきた。


 やってきたのだが――!


 水着に身を包んだ姫宮姉妹を見た瞬間、俺は目を見開いて息を呑んでしまった。

 そのままじっと2人を見つめたままでフリーズしてしまう。


 息が苦しい。

 酸素が足りない。

 まるで俺の身体が、呼吸の仕方すら忘れてしまったかのようだった。


「すー、はー……すー、はー……」

 意識的に呼吸を行うことで、神の作り出した絶景を前に固まってしまった身体と心を再起動させる。


 ふぅ、やれやれ。

 眼前に現れた状況のあまりの神々しさに、危うく尊死してしまうところだったよ。


 それでは説明しよう!


 まずは美月ちゃんだ。

 美月ちゃんはピンク地に花柄をあしらった、ワンピースタイプの水着を着ている。

 小さなひらひらがスカートのようになっていて、女の子らしさをアピールしていた。


 まだあどけなさを残す美月ちゃんのためだけに、特別にしつらえられたかのような、これ以上なく可愛らしい水着だった。


「蒼太おにーちゃん、どうですか?」

「控えめに言って、地上に舞い降りた超ラブリーな天使だな」


「えへへー、美月、天使になっちゃいました」

 美月ちゃんが元気いっぱい、夏の太陽のような笑顔を見せてくれる。


「くはぁっ……!?」

 その可愛らしさに俺のおにーちゃん魂はいたく刺激され、思わずキュン死してしまいそうだった。


 くっ、なんて状況だ。

 命がいくつあっても足りないぜ……!


 次に俺は優香へと視線を向けた。

 すると再び俺は、その神々しい御姿に心をわし掴みされてしまった。


 落ち着け俺の心臓、勝手に止まろうとするんじゃない。

 俺はまだ生きているんだぞ?


「どうかな? まだ今年のは買ってないから、去年の水着で恥ずかしいんだけど……」

 はにかみながら上目づかいで尋ねてくる優香は、な、な、なんと!


「ビキニだと!?」

 目にもまぶしいビキニ水着だったのだ――!


 一言で表現するなら――神々しい。

 何度も同じフレーズばっかりで申し訳ないが、こればっかりは仕方ない。

 神々しい以外に、俺は今の優香を表現する方法を知らないのだから。


 さっきの美月ちゃんを可愛らしい天使と評するなら、優香はまさに女神の降臨だ。

 優香の透けるように白い肌を、申し訳程度に覆った薄いピンクのビキニ水着の領域面積は、もはや下着と変わらない。


 普段は制服の下に隠されている優香の大きな胸が、俺の目の前で深くて柔らかそうな谷間を作って激しく自己主張していた。


 大きいな。

 すごく大きい。

 しかもマシュマロのようにやわやわと柔らかそうだ。


 ご、ごくり……。


 さらに腰はしっかりとくびれていて、これまた柔らかそうなお尻へと続いていくのだ。


 しかもビキニボトムはというと、両サイドを紐でくくっているタイプときた。

 いまにもほどけてしまいそうななんとも言えない不安感があって、それが妙に俺の心をドキドキとさせてやまないのだ。


 いやいや俺だって分かっているんだよ?

 しっかりと結べば落ちるはずはないっていうことくらい。

 世界に名だたる先進国の我が日本国において、そんなすぐに紐がほどけるような粗悪な不良品を売っているはずがないからね?


 それくらいは俺だって分かっているんだ。


 だがしかし悲しいかな。

 大変にお年頃な男子高校生の脳内は、『学園のアイドルの紐パンビキニ水着』という情報を前に、そんなイケナイ『もしかして』な可能性をつい想像してしまうのだった。


 控えめに言って、発想が最低過ぎて死にたいです。

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