第109話 優香のお泊まり大作戦
「ごめん、ちょっとだけ聞こえちゃったんだけど、俺がどうしたのか?」
優香が電話を終えたのを待ってから、俺は優香に問いかけた。
電話の内容を聞いてしまわないようにあらぬ方向を向いていたんだけど、それでもチラッと俺の名前が出ていたような気がするから、なんとも気になっちゃったんだよな。
「な、ななななんでもないよ?」
すると優香が胸の前で両手をブンブンと左右に振った。
「そうなのか?」
「うん、そうなの! もちろん!」
「お、おう。そうか」
「そうなんだよ~? やだなぁ、もう~!」
うーん、たしかに俺の名前が聞こえた気がしたんだけどな?
でも、もちろんとまで言われてしまったら、俺としてはそれ以上はもう詮索することはできなかった。
実際は出ていたとしても、別段たいした話題じゃなかったんだろう。
俺はそのことはすっぱり忘れて話を変えることにした。
「それで結局のところ何がどうなったんだ? いい考えってのは、古賀さん(優香が菜々花ちゃんって呼んでる人のことな)に連絡したことなのか?」
古賀さんって普通の女子高生だと思っていたけど、実はすごい影響力のある陰の実力者だったりするのか?
親族に国会議員がいるとか、何かの組織の一員とか。
「うん、そうだよ。今日は菜々花ちゃんのところに泊まってることにしてもらったの」
「今日は古賀さんの家に泊まることにしたのか。ってことは、古賀さんってうちの近くに住んでたんだな」
だってここから歩きで行けるってことだよな?
でも古賀さんって、俺とは違う中学だったはず。
ってことは高校進学の時によそから引っ越してきたのかな?
微妙に話が変な気がしたけど、まぁそういうことになったんだろう。
「ううん、そうじゃなくて」
「えっと、じゃあどういうことなんだ?」
「そもそもなんだけど、今日は菜々花ちゃんの家でご飯を食べることにしてもらってたの。男の子の家に行くって言ったら、お父さんもお母さんも変に心配するだろうから」
「あ、そうだったんだな。でもそうか、そりゃ男の子の家に行くって言ったら、ご両親も心配するよな」
今日は友達のとこに泊ってくるから、でサクッと済む男子と違って、女の子はちょっと遊びに行くだけでも親があれこれ心配するから大変だよな。
「それでね。その延長で、心配されないように菜々花ちゃんの家に泊めてもらうことにしておこうかなって思ったの」
「つまり今のはアリバイ作りの連絡をしたってことか――って、いやいや。何をしたは分かったけど、俺の家に泊まることの根本解決にはなってなくないか?」
俺という男と2人で一夜を明かすという最大の問題点は今だクリアされていない。
「蒼太くんは絶対に酷いことなんてしない人だって、私は知ってるもん」
「お、おう。もちろんだとも……」
「でもそれをお父さんとお母さんは蒼太くんのことを知らないから、説明するのが大変でしょ?
どうやらそういうことのようだった。
「ふむ……」
「どうかな?」
外では雨風がさらに強くなり、まるで台風が来ているような様相だ。
もしかしたらこの辺りで線状降水帯が発生しているのかもしれない。
この状況で優香を家に帰らせるのはかなり困難を極めるし、危険を伴うだろう。
「仕方ないか。優香、今日はうちに泊まっていってくれ」
「うん、そうさせてもらうね。じゃあうちに電話するから――」
この選択はもしかしたらベストではないかもしれないが、きっとベターではあると思う。
俺さえ過ちを犯さなければ、何も起こりえないのだから(前振りじゃないからな?)。
こうして俺と優香は、嵐の夜に2人きりで一夜を明かすことになった――なってしまった!!
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