第24話 小さな門番
しかし前回と違い2度目の訪問となる今日、優香の家の玄関には小さな門番がいた。
「蒼太おにーちゃん! 来てくれてうれしーです!」
俺を見つけた途端、その小さな可愛らしい門番が――美月ちゃんが満面の笑顔とともに駆け寄ってきた。
そのまま腰のあたりにガバッと飛びつかれる。
「よっ、久しぶりだな美月ちゃん。その様子だと風邪とか引いてないみたいで良かったよ」
「美月は健康ゆーりょー児ですから」
「難しい言葉を知ってるじゃないか。まだ小さいのに偉いなぁ」
「えへへ、お勉強をがんばってますので……」
抱き着いたままで見上げてくる美月ちゃんから、なんとなく頭を撫でて欲しそうな雰囲気がしたので、俺は髪をボサボサにしてしまわないうに気を付けながら、そっと優しく撫でてあげる。
「えへへ……蒼太おにーちゃんに撫でられると気持ちいいです……おねーちゃんに撫でられてるみたいです……」
「あはは、そりゃまた高い評価をいただけて光栄だ」
学園のアイドルと同じと言われちゃうなんて、ちょっと申し訳ないまであるぞ?
と、そんな風にまるで本物の兄妹であるかのように、俺と美月ちゃんがあの日以来の再会を喜んでいると、
「もう美月ったら。玄関から道路に出る時はちゃんと左右を確認しなさいって、いつも言ってるでしょ?」
俺の隣で一人蚊帳の外に置かれていた優香が、両手を腰に当てながら美月ちゃんにやんわりと注意をした。
その姿がなんとなく拗ねているように見えたのは、俺の気のせいか?
優香より先に俺のところに来た美月ちゃんの姿を見て、可愛い妹を俺に取られたとでも感じたのかもしれない。
「美月、ちゃんと見たもーん」
俺にギュッと抱き着いたままで、顔だけを優香の方に向けて言い返す美月ちゃん。
「適当にチラッとじゃダメなの。しっかりと見ないと、車にひかれたら下手したら怪我じゃ済まないんだからね?」
さすが優香。
優しく諭す姿はまさに母親代わりのようだ。
美月ちゃんもそんな優しい優香に反抗する気はないのだろう、
「はーい」
素直にうなずいていた。
「それといつまで蒼太くんにくっついているの? 会えて嬉しいのは分かるけど、道路だと危ないし、まずは家の中に入りましょうか」
「はーい! 蒼太おにーちゃん、はやくおうち入ろー!」
美月ちゃんは俺とのくっつき虫を解消すると、今度は俺の手を取ってぐいぐいと家の中に向かって引っ張っり始めた。
小さな柔らかい手が
「もう、そんなに引っ張らなくても蒼太くんは逃げないわよ」
やれやれって顔をして呟く優香を横目に、
「そうだ、美月ちゃん」
俺は手を引く美月ちゃんに大切なことを伝えるべく口を開いた。
「なーに?」
「俺に会いたいって思ってくれるのは嬉しいけど、だからって何度も優香にせがんだらいけないぞ? 優香もいろいろと忙しいだろうし、そんなことしなくてもちゃんと俺は美月ちゃんに会いに来るからさ」
「はい? 何の話ですか? 美月そんなこと言ってないですよ?」
すると美月ちゃんは立ち止まって俺を振り返ると、不思議そうな顔で言った。
「え? だって優香が『蒼太おにーちゃんは今度いつ来るの? 明日? 明後日?』って言って聞かないって――」
そこまで言いかけたところで、
「い、いいい言ったわよね美月? ええそうよ言ったわ、言ったはずよだって私覚えているもの!」
なぜか優香が焦った様子で、しかもものすごい剣幕で会話に割り込んできた。
シュバッ!って感じ。
「うゆ? 美月そんなこと言った……かな?」
記憶を思い出そうとしているのだろう、美月ちゃんがこてんと可愛らしく小首をかしげる。
「ええ言ったわよ。だって私はちゃんと覚えているもの。なのに美月が覚えてないなんて、まったくもう美月ったらおっちょこちょいなんだから――というわけなの蒼太くん! おほほほ……」
「別に俺は、最初から優香を疑ったりはしていないんだけど」
っていうか「おほほほ」ってなに?
優香ってそんな笑い方するんだな。
いやいいんだけどさ?
「うーん……おねーちゃんがそう言うなら、もしかしたら言ったかもです?」
「ねっ!? でしょう!?」
「たぶん……?」
とりあえずそういうことで落ち着いたようだった。
「ところでなんで優香はさっきからそんなに必死なんだ?」
「えっ!? べ、べべ別に必死ってわけじゃ……ごにょごにょ……」
俺の言葉で我に返った優香が、頬をりんごのように赤らめる。
くはっ!?
恥ずかしがる優香がハンパなく強烈に可愛いんだけど!?
いきなり不意打ちで超絶可愛らしい仕草を見せられた俺は、自分の頬も優香と同じように熱くなっているのを感じていた。
胸もドキドキしてしまっている。
なんともむず痒い雰囲気の中で優香と二人、しばらく無言で見つめ合っていたんだけど――。
「2人とも、おうち入らないんですか?」
美月ちゃんのその一言で、
「あ、ああ!」
「そ、そうね!」
俺と優香は魔法が解けたように――ぎこちなくだけど――動き出したのだった。
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