第37話 何の変哲もない昼休み。俺は葛谷詩織に声をかけられた。

 それは何の変哲もない、いつもの昼休みのことだった。


『ピンポンパンポーン♪ 2年1組の服部くん、2年1組の服部くん。至急職員室まで来て下さい』

 昼休みに入って早々、校内放送が健介を職員室まで呼び出した。


「おい健介、なんか呼ばれてるぞ。今度は何をやらかしたんだ?」


 学食に向かおうと連れ立って歩いていた健介に向かって、俺は足を止めて呆れたように言った。


「いや、特に覚えはないが……」


「つまり覚えがないくらいに普段から悪さばかりしてるってことか? やめてくれよな、俺までお前の同類だと思われるだろ」


「なんでそうなる!? っていうか『今度は』ってなんだ『今度は』って。それじゃまるで俺が、事あるごとに呼び出しを受けてる問題児みたいじゃねーか」


「なんだ自覚なかったのか?」

「俺はいたって普通の男子高校生をしてるっての!」


「ふぅん。じゃあなんの問題もないよな。俺は昼メシ行ってくるから、また後でな」

 俺がひらひらと手を振ると、


「ちょっ、おい蒼太ぁ? 俺たち友だちだろ~? 一緒に職員室までついてきてくれよな~」

 健介はニタニタと卑屈に笑いながら、気持ち悪い猫なで声で俺を引き留めようとしてきた。


「なんでだよ、長引いたら昼メシ食いそびれるじゃんか。一人で行けっての。じゃあな、5時間目にまた会おうぜ」


「はぁ……分かったよ。一人で行ってくるよ(チラッ」


「さーて、今日は何を食べようかなー? やっぱコスパ最強のA定食ご飯大盛りかなー」


 なにかしでかしたらしく、昼休みに呼び出しを受けたアホな健介がチラ見してくるのをサクッと見捨てた俺は、久しぶりに一人で学食に向かったんだけど――。


「あの、紺野くん。久しぶり……だね。その……今ちょっといいかな?」


 その途中に葛谷くずがや詩織――1年間付き合った俺を二股したあげくに振った元カノだ――に声をかけられた。


「詩お……葛谷、なに?」

 反射的に詩織と名前で呼びかけて、すぐに葛谷と名字で言い直す。


 俺たちはもうそんな風に親密に呼び合うような仲じゃないから。

 ただ同じ学校に通うだけの|生徒≪たにん≫だから。

 俺としては、そこだけははっきりとけじめをつけておきたかった。


 ちなみにあの一件以来、俺が葛谷と会話をするのはこれが初めてだ。

 電話やライン、メールでのやりとりも一度もしていない(というか俺が着拒とブロックをしていたので、連絡があったのかどうかすら知らないのだが)。


 そう考えると俺たちはもう、ただの他人よりももっと疎遠な関係だな。


「ここじゃちょっと……場所を変えてもいいかな? 人がなるべくいないところで話したいの」

「……まぁいいけど。でも長い話は勘弁な、昼メシ食べたいからさ」


 だがまぁ、だからといって話すら聞かずに無下に断るのも、それはそれで決まりが悪いわけで。


 葛谷に未練がある訳じゃない。

 恋とか愛といった関係性においては、俺の中ではもう完全にケリはついている。

 単に同じ学校に通う同級生として、最低限の対応を取っただけだ。


 やっとこさ謝りに来たのかもしれないしな。

 直接会って謝りたいって言うんなら、話くらいは聞こうじゃないか。

 ま、今さら謝られてもって話ではあるんだけど。


「じゃあ、校舎裏でいいかな?」

 ……よりにもよって校舎裏かよ。


「はぁ、分かったよ」


 俺はその場所に若干思うところがありながらも、元カノと一緒に人気のない校舎裏へと向かった。


「それで話ってなんだよ? 正直言って、俺はあまり葛谷と話すようなことはないんだけどな」


 校舎裏に来た俺は葛谷に向き直ると開口一番、少しつっけんどんな口調で尋ねた。

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