第18話「でも蒼太、気を付けろよ?」
「はぁ!? なんでだよ!?」
突如飛び出したあまりにひどすぎる一言に、俺は思わず席から立ち上がった。
だって健介お前、さっきマックセットを奢ってくれるって言ったじゃん!
しかもデザート付きで!
「なんでだと? 理由はてめぇの心に聞いてみろやこのリア充ヤロウが! 葛谷さんといい姫宮さんといい、なんでお前ばっかり美少女にモテるんだよ! 俺と大差ない顔面のくせにおかしいだろが!」
「だから優香とは偶然ちょっとだけ仲良くなっただけだっての」
「チッ、まだ言い張るかこのリア王が」
「言い張るとか言うな、言い張るとか。事実なんだからしょうがないだろ」
「事実ねぇ……」
健介が全く信じていなさそうな
だけど俺としても、優香が今後あらぬ疑惑に晒されないためにもここで折れるわけにはいかなかった。
「事実は事実だから、俺としてもマジでそれ以外に言いようがないんだよ」
「ま、蒼太がそう言うんなら、今日のところはそういうことにしておいてやるよ」
「今日のところもなにも、明日も明後日も揺るがない事実なんだよなぁ……」
俺は事実をそのまんま伝えてるだけだっての。
っていうかろくに話したこともなかった学園のアイドルと、俺がある日突然付き合える――とか思っちゃえる健介の頭が、俺は少しだけ心配になってしまうんだが?
「……でも蒼太、気を付けろよ?」
と、ここで健介が急に声を潜めた。
「気を付けろって何にだよ?」
「姫宮さんにファンが多いのは蒼太も知ってるだろ?」
「そりゃ知ってるよ。学校内にファンクラブがあるとかそういう話も聞いたことがあるし。でもそれがどうしたんだ?」
「姫宮さんのファンの一部は過激化しているって話だからな。あまり仲良くしていると襲われるかもしれない」
健介がとても真剣な顔をしながら、とてつもなく馬鹿なことを言った。
「……なにをバカなこと言ってんだ? うちの学校は普通の公立高校だぞ? そんな昭和漫画のヤンキー学校みたいなことが起こってたまるかっての」
真剣な顔をして何を言われるのかと思ったら超絶アホなことを言われてしまい、俺は苦笑するしかなかった。
だけど健介は今日一番ってくらいに真剣な顔をして言った。
「違う。姫宮さんだけは普通とは別格の存在だって話だよ。なんにせよ気をつけて損はないからな?」
「はぁ……」
どこまで本気なのかは分からないけど、俺のことを心配してくれているのは確かみたいだし、一応は心の隅にとどめておくことにしよう。
キンコンカンコーン。
と、ちょうど健介と話し終わったタイミングで朝の予鈴が鳴り響いた。
教室のあちらこちらで俺と健介の会話に聞き耳を立てていたクラスメイトたちが、各々の席へと散らばっていく。
「俺も情報が入ったらすぐにお前に報せるからよ」
健介もそんな言葉を残しつつ、俺の席を離れて自分の席へと歩き出した。
「まぁその時があればよろしくな。『その時』があればだけど」
「ああ、任せとけ。イの一番に伝えてやるからよ」
肩越しに颯爽と振り返りながら、親指を立ててグーにした拳を軽く上げて応える健介。
だからハリウッドなオサレポーズはお前には(もちろん俺にもだが)似合わないっての。
そしてどんなドタバタがあろうとも、学校生活はチャイムの音とともに強制的に進行していく。
それが高校生の日常というものだった。
俺はふぅ、と軽く息を吐いて
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