第44話 学園のアイドルと牛丼デート(3)

「な、なんだよもう。冗談かよ~。マジ質問かと思っただろ~?」


 笑いながら言ったものの。

 おふぅ、冗談で助かったぁぁ!


 でもそうだよな。

 優香にとっては俺なんて、そもそも恩人って以外はただのクラスメイトでしかないんだから。

 なのに優香のことを、俺がむやみやたらと勝手に意識しちゃっていたせいで、軽い冗談だったのにそうと見抜けなかったのだ。


「ふふっ、さっきの蒼太くんってばすごく焦った顔をしてたよ? 結構可愛いところあるんだねー?」

 楽しそうに言った優香は頬が少し赤くなっていて、ちょっと興奮しているように見えなくもない。


 そんなに俺をからかうのが楽しかったのか?

 この小悪魔めが!


 もちろん可愛いから許すけどな!

 男子高校生は、可愛い女の子にめっぽう弱い生き物であるからして。


「さてはこいつ俺をからかったな? っていうか男子に可愛いはないだろ可愛いは」


 俺も年頃の男の子なので、できれば女の子には可愛いではなくカッコいいと言われたい。


 そういえば葛谷と付き合ってた時も、カッコいいと言われたことはほとんどなかったな……。

 やっぱり女の子から見て、俺はあまりカッコよくはないんだろう。


 しかも今一緒に牛丼を食べているのは、数々の告白を全てお断りしてきた学園のアイドルなのだ。

 そんな優香がお付き合いしたいと思うような理想の男性は、俺が想像するよりもはるかにハイスペックなのは間違いない。

 スーパーダーリン、いわゆるスパダリってやつだ。

 そして俺はというと、もちろんスパダリには程遠かった。


 今さらだけど改めて。

 優香に対して変にカレシ気取りをしたり、俺に好意があるのだと勘違いしないように、俺は自分の心をきつく戒めたのだった。


「ふふん、そこはそれ。牛丼がイメージに似合わないと言われてしょんぼりしちゃったお肉大好きな私の気持ちを、蒼太くんにもちょっとは味わって貰おうかなって思ってね」


「よーく味わわされたよ。勝手なイメージで大好きな牛丼が食べられなくて辛かったよな優香。ほら、俺のお肉を1つ上げるよ。これで傷ついた心を癒してくれ」


「わっ、ほんと? 気前いいね、ありがとっ♪」


 俺が肉を一切れお箸でつまんで優香の牛丼の上に乗せてあげると、優香はすぐさまそれをお箸でつまんでパクッと口に入れた。


 美味しそうにお肉を頬張る優香を見て、俺はほっこりしかけたんだけど――。


 あれ?

 これって俺が口を付けたお箸で掴んだ肉を優香が食べたってことだから、間接キスってことじゃないか?

 

 そんな思春期ワードを思わず意識してしまったものの、優香は特に気にしていない様子で俺があげたお肉を満足そうに食べていたので、俺も特に言及はしなかった。

 カァッと熱くなってしまった顔を、コップの冷水を一気飲みしてなんとか落ち着ける。


「急に水を一気飲みしてどうしたの? もしかして牛丼がのどに詰まっちゃったとか?」

 コップの水を一気に飲み干した俺を見て、優香が心配顔を向けてくる。


「まぁそんな感じかな。でももう大丈夫だから」

 間接キスだと思って胸が高鳴っていましたとは、もちろん口が裂けても言えない。


「男子って食べるの速いもんね~。でもでも、よく噛んで食べないとダメなんだよ? 早食いは胃腸にダメージを与えるし、太る元なんだから」

「肝に銘じておくよ」


「ほんと、一回太っちゃうと大変なんだからね? 太るのはすぐだけど、元に戻すにはものすっっっご~~く努力をしないといけないんだから」

「お、おう」


 太るということに関して、優香が妙に真剣な口調でアドバイスをしてくれる。

 過去にダイエットで苦労した経験でもあるんだろうか?

 ちょっとだけ聞いてみたかったけれど、幸いなことに俺は女の子のダイエット事情を根掘り葉掘り聞き出そうとするほどデリカシーのない人間ではなかった。


 とまぁ、こうして。

 優香との放課後牛丼デート(デートというこの言葉に特に深い意味はないぞ?)を、俺はとても楽しく過ごしたのだった。

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