第76話 制服の魔力

 2人きりの優香の部屋で、目の前には制服のブレザーを脱いでブラウス姿になった優香が座っている。

 透明なガラス座卓の下では、制服のスカートからは太ももがチラリしていた。


 スラッとしているけど適度に肉付きのある、健康的な太ももだ。

 俺が意図的に見ているというよりか、勉強する時は上から見下ろすから、俺の意図とは無関係に、どうしても視線の先にある優香の太ももが視界に入ってしまうのだ。


(座っている優香の腰回りを正面から見下ろすような構図になるとは、まったく想定していなかったぞ。くっ! うちの高校のスカートは膝上でやや短めだから、なんとも目のやり場に困ってしまう……!)


 せめて透明なガラスじゃなければ、そもそも見えないから気にならないのに!


「きゅ、急に黙り込んじゃって、どうかした?」

 少し頬を赤らめた優香が、右の横髪をサラリと耳にかけながら聞いていた。


 おおっと。

 家に2人きりだとか、太ももが健康的だとか、いろんなことをつい考え込んで黙り込んでしまった。


「あー、うん。そういや今日は優香、着替えてないんだなって思って」


 一応40分ほど勉強したし――授業1コマ分だ――気を紛らわすのと息抜きもかねて、俺は少しだけ雑談を続けることにした。

 ……本当の理由は言えなかったけど。


「私服に着替えるよりも制服のままの方が、勉強の気合が入るかなって思ったんだよね」

「それ分かるなぁ。私服に着替えるとさ、オンだった気持ちが一気にオフになっちゃうよな」


「ふふっ、だよね。私服に着替えると、心が勝手に一息ついちゃうっていうか」

「逆に制服を着ている時は『高校生だからちゃんとしないと』って意識が強くなるよな」


「だよね~」

「中身はなんにも変わらないのに、ある意味、制服の魔力だよな」


 テスト直前の切羽詰まった時期とかに、帰るまでは今日はしっかりと勉強をしようと意気込んでいて、何をやるかとか計画を立てていても。

 だけど家に帰って制服を脱いだ途端にだらけモードになってしまうのは、高校生あるあるだと思う。


「ち、ちなみになんだけど?」

「どうした?」


「蒼太くん的には、その……制服よりも、私服に着替えた方が良かったり?」


 優香がまた髪を耳にかけながら尋ねてきた。


 ……少し緊張したような、不安そうな顔をしているような?

 なんでそんなに不安そうな顔で、しかも上目遣いで聞いてくるんだろう?


 って、ああそうか。

 俺は持ち前の察しの良さをここでも発揮してみせる。


 俺が個人的にどうのというよりかは、一般的に男子はどう思うのかってことを優香は知りたいんだろうな。


 いくら学園のアイドルと呼ばれる優香であっても、まだまだ高校生。

 異性の考え方とか、自分が異性からどう見られているかが気になる年頃だろう。

 俺も女子からどう思われているかは結構気になるし。


 仲のいい男子と2人きりということで、優香は話のついでに普段から気になっていたことを聞いてみたんじゃないかと、俺は推測を働かせた。


「そうだな……」

「う、うん」


 真剣な顔でうなずく優香にちゃんと満足してもらえるように、俺は短い時間だけど、軽く目をつぶってしっかりと考えてから答えた。


「制服でも私服でもどっちも似合ってると思うぞ」

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